2026年2月に,東京証券取引所上場企業の本社会計部門を対象とした質問票調査の実施を予定しております。
本調査は,文部科学省科学研究費補助金基盤研究C「業績管理会計の研究・教育・実務のより有益なトライアングル体制構築に向けた研究」と専修大学研究助成の支援を受けて実施します。近年の業務環境の変化を踏まえ,本社会計部門が担う役割や体制の実態を明らかにすることを目的としています。
調査へのご協力のお願いにつきましては,2026年2月初旬に,はがきにて順次ご案内を郵送する予定です。ご多忙の折とは存じますが,ご案内がお手元に届きましたら,記載内容をご確認のうえ、ご回答(オンラインでの回答となります)をご検討いただけますと幸いです。
なお,本調査は学術研究として実施し,以下を徹底いたします。
ご回答は統計的に集計し、個別企業・個人が特定される形で公表されることはありません。
研究・教育目的以外に回答データを利用することはありません。
皆様の実務知見に基づくご回答は,実務に資する研究知見の蓄積にもつながります。趣旨をご理解のうえ,協力賜れますと幸いです。
専修大学商学部 西居豪
調査の主な目的:飲食店業における店舗管理における効率性と柔軟性の両立のためのマネジメント・コントロールの解明
調査対象:株式会社東京商工リサーチのデータベースにて業種コード中分類の飲食店業に属する従業員数30人以上の企業2,385 社から無作為に抽出した2,000社
調査時期:2020年2〜3月
方法:質問票郵送調査
有効回答数:172社(有効回答率8.6%)
分析結果:
4つの設計原理(柔軟性,修復,内部透明性,全体透明性)を伴った管理機構は,効率性を担保したまま現場の自律的な適応を促すことを目的としたイネーブリング・コントロールとして新たに概念化されました。そうした効率性と柔軟性の両立が重要であると考えられる飲食店業を対象に,対立的な複数目標の強調によって,4つの設計原理がより強く構築され,それらが1つのイネーブリング・コントロールとして形成され,それが組織の適応能力を有意に向上させている関係にあることを実証しました。
イネーブリング・コントロールは現場側での適応行動の許容に関連したものであるので,各店舗をマネジメントするためのコントロール手段であるモニタリング(行動と成果)とインセンティブ(金銭と理念)に注目し,それらが全体としてどのように機能し,成果に結びついているかを実証的に分析しています。情報非対称性の緩和・回避傾向が強い組織ほど,これら4つのコントロールをより強く行使する傾向があり,さらにそれらが高い組織成果につながることを実証しました。さらに,高い成果が得られる4つのコントロールの行使状況の組み合わせパターンを探索すると,全体としての強度が同程度に高ければ,異なるパターンであっても同一の高い成果をもたらしていることも明らかになりました。
関連文献:
西居豪・近藤隆史(2021)「イネーブリング・コントロールの構築とその効果に関する定量的研究」『メルコ管理会計研究』13(Ⅱ), 21–34.
西居豪・近藤隆史(2022)「マネジメント・コントロールの形成とその総合的効果の検証」『原価計算研究』46(1), 60–73.
調査の主な目的:日本本社が海外子会社を管理するためのマネジメント・コントロール・システム(特に,非会計的なコントロールに注目)の設計・運用実態の解明
調査対象:東洋経済新報社の海外進出企業4,233社5,410部門を対象
調査時期:2012年8〜9月
方法:質問票郵送調査+追加のインタビュー調査
有効回答数:574社613部門(有効回答率11.3%)
分析結果:
日本企業の海外子会社管理において,数値に基づく会計コントロール(計画策定への関与,プロセスへの支援・介入,結果コントロールの3つを構成するコントロールとして概念化)と経営理念の共有による理念コントロールを二者択一ではなく一つのパッケージとしてセットで運用しているモデルが,実証的に妥当であることを示しました。このモデルは,海外子会社の進出地域(北米,東アジア,東南アジア)を問わず共通して有効であることも確認しています。
日本企業の海外子会社に対する業績管理体制の構築に,親会社と海外子会社との間の距離(経済・政治・文化)がどのような影響しているのか実証的に分析しています。これは,距離が離れるほど,現地の状況が見えにくくなるため業績管理の必要性は高まる一方で,管理体制を築く困難性(コスト)が増大するという対立的な関係性が想定されるため,その実態的解明に焦点を合わせたものとなっています。分析の結果,経済的あるいは政治的距離については有意な関連性は認めれませんでしたが,文化的距離については,海外子会社の社長の国籍(日本人社長・現地人社長)によって,その影響が反対になることが明らかになりました。具体的には,現地人社長の場合,文化的距離が離れるほど,親会社は情報の非対称性を解消するために,より厳格な業績管理体制(目標設定や報告の明確化など)を構築しようとする傾向があるのに対して, 日本人社長の場合,文化的距離が離れても業績管理を強める傾向は見られず,むしろ,負の影響(管理を緩める,またはシステムに頼らない)が観察されました。これは,日本人社長が持つ「本社との非公式なネットワーク」が,形式的な管理システムの代わりを果たしているためと考えられます。
海外子会社管理におけるインセンティブ強度(報酬の業績連動の強さ)の決定要因と業績への影響について,エージェンシー理論に基づき仮説検証を行っています。分析の結果,インセンティブ強化に対して,一般的事業環境不確実性や被評価者のリスク回避傾向は負の関係,利益増加の見込みや予備費によるインセンティブに対する反応性は正の関係にあることが確認できました。また,顧客ニーズなどの市場環境不確実性は,利益増加の見込みが高い場合のみ,インセンティブの強度を強める調整効果が認められました。さらに,インセンティブ強度を高めることは組織業績に対して直接的な正の影響を及ぼすことも明らかになりました。
関連文献:
西居豪・近藤隆史・中川優(2014)「日本企業における海外子会社管理: マネジメント・コントロール概念の検証」『原価計算研究』38(1), 83–94.
西居豪(2018)「距離が業績管理に及ぼす影響」『管理会計学』 26(1), 3–21.
Nishii, T., Kondo, T., & Zoysa, A. De. (2024). The Determinants and Effect of the Incentive Intensity : Empirical Evidence from Japan. Australasian Accounting, Business and Finance Journal, 18(2), 4–32.
調査の主な目的:BUの水準でのマネジメント・コントロール・システムの設計・運用とそれらを取り巻く諸要素との関係性の総合的解明
調査対象:東京証券取引所一部二部市場に上場する水産・農林業,建設業,鉱業,製造業1,191社の2,195ビジネス・ユニット
調査時期:2012年3-4月
方法:質問票郵送調査
有効回答数:325ユニット(有効回答率14.8%)
分析結果:
管理会計研究では,90年代後半以降,インターラクティブ・コントロールという特定の管理会計システムもしくは業績評価システムの利用方法に多くの関心が向けられてきました。同コントロール概念は,策定された戦略の的確な実行というよりもむしろ,急速に変化する環境に合わせていかに柔軟に戦略を実行可能なものに適応させていくのかに焦点を合わせたものです。こうした目的の有用性は多くの研究者の共感を得られるものでしたが,その実証的測定の面では課題を抱えていました。そこで,インターラクティブ・コントロール概念を,特に,トップによる戦略的不確実性の認知,その認知した情報の伝達,それらに関する面と向かった対話(変化への積極的対応)という3つの次元から形成されるものとして捉え,日本企業のBUにおいても,同コントロールが形成されていること,さらに,それが高い業績と直接関連するのみならず,業績向上につながる組織の適応能力とも関連していることを明らかにしました。なお,インターラクティブ・コントロールとは異なりますが,トップの伝達が弱くても現場の適応力が高い組織では権限委譲が進んでおり,日本特有の「ミドル主導の適応」が行われている可能性を示唆する結果も得られています。
近年,両利きの経営に代表されるように,相反する要素をトレードオフとして扱うのではなく,両方を同時に成立させるマネジメント過程が注目されてきました。管理会計研究でも,テンション・マネジメントやダイナミック・テンションあるいは両利き経営といったキーワードのもとで,このマネジメント過程に管理会計システムや業績評価システムがどのように関連しているのか研究関心が注がれてきました。本論文では,そうした対立状況を捉える要因として,BUが重視する目標に注目し,目標志向性の抽出から,テンション(目標が引っ張り合っている状況)の測定を試みました。その結果,「積極的適応志向」(革新性,独自性,柔軟性,迅速性など)と「組織整合性志向」(調和,一致団結,安定性など)という2つの潜在的な志向性に,BUが重視する目標が集約されることが明らかとなりました。さらに,この2つの志向性が共に高い組織では,戦略(革新と漸進),製品・サービス(既存の改善と新規性),組織的対応(一方を優先しない両立に対する姿勢)といった面で対立的要素の強い併存が求められていました。
戦略的業績評価システム(strategic performance measurement system: SPMS)の構築や業績との関連性に対して,内部統制の厳格さががどのように関連しているのか,実証的に検証しています。分析の結果, 内部統制を厳格に運用すること(責任の明確化や情報の信頼性確保など)は,戦略的なPDCAサイクルを回すSPMSの構築度を高め,それを通じて間接的に業績と正に関連していることが明らかとなりました。ただし,内部統制が厳格すぎると,SPMSの構築と業績の正の関連性は弱まっていました。これは,当初の仮説の方向性とは逆の結果でしたが,内部統制による過度な公式化や文書化が,不確実な環境への柔軟な対応を阻害したり,立案される戦略を保守的なものにしたりすることで,SPMSの効果を低下させている可能性があることを示唆するものでした。内部統制が単なる不祥事防止のためだけでなく,有効な管理会計システムを機能させるための不可欠なインフラである一方で,厳格すぎると運用成果を損なう諸刃の剣の側面があるので,適切なバランス運用の重要性が浮き彫りになりました。
2で検討された目標で捉えるテンションの創出と操舵の役割を,SPMSに求めることができるのかどうか検証しています。これは,業績評価システムであるSPMSが,組織の重視目標の規定と実現に深く関わっていると理論上想定されるためです。分析の結果,SPMSの構築度の高い組織ほど,対立的な目標を同時に重視する傾向にあり,SPMSが意図的に組織内にテンションを生み出す役割を果たしている可能性が高いことが実証されました。また,操舵に関しては,業績と直接的な正の関連を持つSPMSでしたが,テンションをうまく操舵して,業績をより向上させるという強い調整効果は確認されませんでした。SPMSの効果が最も強く発現するのは,どちらか一方を優先的に集中している組織でした。テンションの高い組織というのは,他の組織と比べて,平均的な業績は高いものの,組織によるバラツキも非常に大きく,相反する目標の追求は高い成果をもたらす可能性がある一方で,失敗のリスクも孕んでいることが示唆されています。こうしたことから,SPMS単体では,テンションから生じる負の影響をうまく抑え込み,ベストな業績水準を達成するには不十分であり,その他の管理手法やマネジメント能力との組み合わせが必要になる可能性が高いと考えられます。
関連文献:
西居豪(2013)「インターラクティブ・コントロール概念の測定についての予備的研究」『会計学研究』39, 1–44.
西居豪(2014)「テンションと組織目標 : 日本企業のBUを対象とした実態調査」『会計学研究』40, 57–76.
西居豪(2015)「内部統制が戦略的業績評価システムに及ぼす影響」『管理会計学』23(1), 73–87.
Kondo, T., & Nishii, T. (2016). The effectiveness of strategic performance measurement system in creating and steering tension. In M. J. Epstein, F. Verbeeten, & S. K. Widener (Eds.), Performance Measurement and Management Control: Contemporary Issues (Studies in Managerial and Financial Accounting Vol. 31). Emerald Group Publishing Limited.
調査の主な目的:原価企画の運用実態,原価企画目標に関する報酬とコミュニケーションの成果との関連性の解明
調査対象:東京証券取引所一部市場に上場する建設業を除く製造業843社
調査時期:2009年6-7月
方法:質問票郵送調査+追加のインタビュー調査
有効回答数:127社(有効回答率15.1%)
分析結果:
原価企画という日本的管理会計システムの成果(イノベーション創出,目標原価達成度,財務業績)に,成果主義的な報酬(事業部長もしくはプロダクト・マネジャーの報酬が原価企画関連目標の達成度と連動している程度)と原価企画に関する会議体でのコミュニケーションの強度(論文中ではインターラクションと呼んでいます)が関連しているのか,実証的に検証しています。その結果,報酬連動に関しては原価企画の成果と直接的な関連性はほとんど有していませんでしたが,インターラクションはさまざまな成果変数と関連性が認められました。ただし,その方向性や有意性については,内容による差異がありました。たとえば,販売市場に関するインターラクションはイノベーション関連の変数と正に関連していましたが,製品技術に関するインターラクションと売上高総利益率で測定された財務業績とは負に関連していました。負の関連性はインターラクションが組織的資源をかなり消費する活動であることに加えて,製品技術という中長期的に製品展開に重大な影響を及ぼすとともに資源投入の大きい要素であることが影響しているのではないかと考えられます。また,報酬連動はインターラクションを促進している可能性も示唆する結果も得られています(この点はより頑健な分析方法を採用し結果を確認しています)。なお,各社の置かれた競争環境や原価企画活動全般に関する実態は,西居・窪田・山本(2010)にて,基礎的統計情報として報告しています。
関連文献:
山本浩二・西居豪・窪田祐一・籏本智之(2010)「原価企画におけるインターラクションと報酬システム: 実態調査にもとづく予備的考察」『メルコ管理会計研究』3(1), 17–26.
西居豪・窪田祐一・山本浩二(2010)「原価企画活動の展開と課題」『大阪府立大学経済研究』56(3), 67–89.
調査の主な目的:財務指標のみならず多様な非財務指標の経営陣による利用実態の解明
調査対象:東京証券取引所一部市場に上場する建設業を除く製造業844社
調査時期:2005年5月
方法:質問票郵送調査
有効回答数:93社(有効回答率11%)
分析結果:
12の非財務指標(顧客関連,ブランド,開発,製造,従業員,情報インフラ,環境など)が各社の戦略的重要性に基づいて選択され,それらに組織的な関心を向けることが,財務業績と正の関係にあることを明らかにしました。具体的には,指標の利用を,トップへの報告指標の広範さ,報告指標に対するコミュニケーションの強度,戦略的重要性に基づいたコミュニケーションの強度(論文の中では戦略的適合度と呼んでいます)の3変数と,財務業績との関連性を検討し,戦略的適合度が最も効果的な説明変数であることを示しています。バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard)に代表される戦略的業績評価システムの設計・運用では,こうした指標の選択・利用が前提とされていますが,これら分析結果はその経済的合理性を支持するものとして考えられます。
関連文献:
西居豪(2006)「非財務指標の戦略的適合度に関する実証分析」『原価計算研究』30(2), 53–62.