メダカの行動の分子神経基盤解析
(Yokoi group)
(Yokoi group)
社会性を営む動物にとって、他者との関係性を認識し(社会認知)、その関係に応じて適切な行動を選択することは環境に適応する上で必須の脳機能です。しかしながら、当現象の分子、神経基盤については不明な点が多く残されています。私達は、分子生物学的手法の利用が可能であり、高度な社会性を示すメダカに着目し、その謎に迫ろうとしています。特に、メダカは私たちヒトと同様に、顔を見て他個体を識別しており、これは世界的に実験動物として用いられているマウスやゼブラフィッシュにはない特徴です。
そこで、私たちは特にメダカの視覚依存の行動に着目をしています。
・コントラリアン生物学 あまのじゃくはなぜ生まれるのか?集団にとって何か利益になるのか?を科学的に検証しています。くわしくは領域のHPへ。
・顔認知の生物学 メダカは顔をどのように認知するのか? これまで霊長類を用いた研究が主だった顔認知研究を、メダカを使うことで分子生物学的に解明することを目指します。
・機能未知遺伝子の行動への関与の検証と分子基盤解析 どこに転がるかわからない面白さ。 → 形認識に関与する遺伝子の初同定に成功 (2024年発表 解説コラム)
・オキシトシン変異体メダカが配偶者選択行動に異常を示すことを発見 オキシトシンは哺乳類では愛情ホルモンとして知られていますが、メダカではオスとメスとで逆の効果をもつようで...? (2020年発表 解説コラム)
横井グループでは大学院生を募集しています。
メダカの行動の研究に興味をもち、研究してみたいなと思った方は、yokoisあっと(@に変換)pharm.hokudai.ac.jpまでメールをください。 顔認知研究に関しては創発的研究支援事業に採択されたため、博士課程の学生さんは雇用できる可能性もあります。
研究例
メダカのオス2匹とメス1匹を水槽にいれると、オスはライバルオスにメスを取られないよう、両者の間に割り込む、配偶者防衛行動を示すことを発見しました。同様の行動は昆虫から霊長類まで様々な動物で観察されますが、実験室内で再現された例はこれが初めてのことです(Yokoi et al., 2015)。
また、この行動に必要な遺伝子を探索し、「バソトシン」と呼ばれるホルモンが重要であることを明らかにしました(Yokoi et al., 2015)。 バソトシンを遺伝的に破壊したメダカは、配偶者防衛で負ける傾向にあったのです。 バソトシンは私達人間においても「バソプレシン」という名前で存在することから、バソプレシンが嫉妬心を制御する可能性が考えられます。
さらに、「メダカのメスは見知ったオスが好き」という変わった性質がありますが、配偶者防衛で勝ったオスがメスの視界を独占することで、必然的にメスは強いオスを配偶相手として選んでいる可能性が実験的に示されました(Yokoi et al., 2016)。
以上のように、視覚で相手を認識する点が人間と近く、意外と高度な社会性を示すメダカに着目することで、人間における社会性の進化的起源を明らかにできるのではないかと期待しています。
特に最近は脳で発現するロングノンコーディングRNA(lncRNA)やタンパク質をコードする機能未知遺伝子に着目し、社会性に寄与するかを検証しています。lncRNAはこれまでゴミだと思われていましたが、近年、機能を持ちガンや神経疾患等の病気に関わることが明らかになってきた遺伝子産物です。培養細胞レベルでの機能解析の例が多く、個体を用いた機能解析が急務であることから、遺伝子編集が比較的容易であるメダカを用いた解析を進めています。