Chemical biology of pre-mRNA splicing

スプライシング調節化合物の探索と解析

真核生物の遺伝子の多くにはイントロン配列が含まれている。ゲノムから転写されたばかりの pre-mRNA を成熟した mRNA にするために、細胞はイントロンを取り除き、分断されていたエクソンをつなぎ合わせる pre-mRNA スプライシング反応を行う必要がある。この反応は多種多様な pre-mRNA から特定の配列を選んで1塩基単位の正確さで切り貼りするものであり、複雑な調節が絡みあって実行されている。

この反応を触媒する酵素であるスプライソソームは、膨大な数のタンパク質と5種類の核内低分子 RNA(snRNA)と呼ばれる短い non-coding RNA からなる巨大複合体である。スプライソソームを構成する分子は各 snRNA に対応して5 種類のサブユニット(snRNP)に分けられ、各 snRNP は1種類の snRNA とそれに特異的に結合するタンパク質群を含んでいる。snRNP は含まれる snRNA の種類によってそれぞれ U1、U2、U4、U5、U6 snRNP に分けられ、イントロン中の3ヶ所のスプライス部位配列(5' スプライス部位, ブランチ部位, 3'スプライス部位)の認識に基づいて snRNP が集合と解離を繰り返すことでスプライシングは進行していく(図)。

ヒトなど高等真核生物では一つの遺伝子に複数のイントロンが含まれることが多く、つなぎあわせるエクソンの選び方を変えることで一つの遺伝子から様々なバリエーションを生み出すことができる。この mRNA のバリエーションはそこから翻訳される蛋白質の多様性にもつながることから、スプライシングは遺伝子の種類や機能の増幅装置として働くと考えられている。

一方で、いつ、どんなパターンで、しかも正確にスプライシングできるかどうかは細胞にとって大きな課題であり、その調節は様々な階層で行われている。我々はその中でもとくに、細胞内の個々のsnRNP量が適切なレベルに維持されることもスプライシングパターンの基本的枠組みを支える上で重要と考え、snRNP の量的、質的変化が及ぼすスプライシングへの影響に注目している。そこで snRNP 量を変動させる化合物を取得して、化合物処理後のスプライシング変化を観察するというアプローチで snRNP 量とスプライシングの関係性を研究してきた。これまでに得られた化合物にはスプライシングに対してユニークな効果を示すものも含まれ、人為的なスプライシング調節が様々な疾患の治療方法としても注目を集めていることから疾患原因スプライシング異常への応用などの検討も行っている。