Analysis of Molecular/Neural Basis of Social Behavior in Medaka Fish

(Yokoi group)

社会性行動を制御する分子神経基盤の解析

社会性を営む動物にとって、他者との関係性を認識し(社会認知)、その関係に応じて適切な行動を選択することは環境に適応する上で必須の脳機能です。しかしながら、当現象の分子、神経基盤については不明な点が多く残されています。そこで私達は、分子生物学的手法の利用が可能であり、高度な社会性を示すメダカに着目し、遺伝子編集メダカを用いて様々な社会性行動を解析することで、その謎に迫ろうとしています。

例えば、メダカのオス2匹とメス1匹を水槽にいれると、オスはライバルオスにメスを取られないよう、両者の間に割り込む、配偶者防衛行動を示すことを発見しました。同様の行動は昆虫から霊長類まで様々な動物で観察されますが、実験室内で再現された例はこれが初めてのことです(Yokoi et al., 2015)。

また、この行動に必要な遺伝子を探索し、「バソトシン」と呼ばれるホルモンが重要であることを明らかにしました(Yokoi et al., 2015)。 バソトシンを遺伝的に破壊したメダカは、配偶者防衛で負ける傾向にあったのです。 バソトシンは私達人間においても「バソプレシン」という名前で存在することから、バソプレシンが嫉妬心を制御する可能性が考えられます。

さらに、「メダカのメスは見知ったオスが好き」という変わった性質がありますが、配偶者防衛で勝ったオスがメスの視界を独占することで、必然的にメスは強いオスを配偶相手として選んでいる可能性が実験的に示されました(Yokoi et al., 2016)。

以上のように、視覚で相手を認識する点が人間と近く、意外と高度な社会性を示すメダカに着目することで、人間における社会性の進化的起源を明らかにできるのではないかと期待しています。

特に最近は脳で発現するロングノンコーディングRNA(lncRNA)に着目し、社会性に寄与するかを検証しています。lncRNAはこれまでゴミだと思われていましたが、近年、機能を持ちガンや神経疾患等の病気に関わることが明らかになってきた遺伝子産物です。培養細胞レベルでの機能解析の例が多く、個体を用いた機能解析が急務であることから、遺伝子編集が比較的容易であるメダカを用いた解析を進めています。