Research

研究概要

ウイルスやトランスポゾンなどの非自己核酸や利己的核酸を排除するため、そしてさまざまな環境情報変化に迅速かつ持続的に対応するため、植物は細胞質で行われる基本的なRNAサイレンシング機構に加え「小分子RNA増幅機構」と「核内RNAサイレンシング機構」を保持しています。しかしながら両者とも非常に複雑な機構であるため、その詳細は未だに解明されていません。私達は細胞内に近い環境で生化学を行う新規アッセイ系を開発することで、多因子・多段階反応である上記機構を解きほぐし、これまでにない高い解像度で植物RNAサイレンシング機構を解明していきます。また、構成的に理解したRNAサイレンシングを自在に操り応用することで、持続可能な社会の実現に貢献する新技術の開発を目指します。さらに、植物自然免疫系の一部を他の生物に移植し、新しい免疫系を付与するという一見突飛とも思えるテーマにも挑戦していきます。

二次的siRNA生成機構の完全解明

microRNA (miRNA) に代表される21塩基程度の長さを持つ小分子RNAはArgonaute (AGO)タンパク質と RNA-induced silencing complex (RISC) と呼ばれる複合体を形成し、標的mRNAを切断または翻訳抑制することで、様々な生命現象を緻密に制御しています。植物はこの基本的なRNAサイレンシング機構の他に、内在遺伝子発現制御機構およびウイルス抑制機構として、RISCが切断した一部の標的RNAから小分子RNAを新たに作り出す二次的siRNA生成機構を持っています。最近、私達は翻訳機構が二次的siRNAの産生と深く関わっていることを明らかにしました。私達が独自に開発した試験管内アッセイ系を武器に、この複雑な機構の完全解明を目指します。

核内RNAサイレンシングの理解

トランスポゾンを抑制し、ゲノムを安定化するために植物は核内RNAサイレンシング機構を持っています。これまで遺伝学を中心にこの機構が研究されてきましたが、詳細なメカニズムは不明なままです。私達は試験管内再現系の開発を通してこの機構を深く理解します。


RNAサイレンシングを応用

RNAサイレンシングを応用し、遺伝子発現制御拡張ツールの開発を目指します。これらの新技術は人工染色体などの長鎖DNAの発現を自在に制御する際に役立ち、今後人類が直面するさまざま課題を解決するためのシードになると考えられます。

ハイブリッド免疫系の創出

生物はウイルスに対する免疫機構をもっていますが、それを飛躍的に強化させることは可能でしょうか。私達は植物がもつ強力なRNAサイレンシング機構を他の生物(出芽酵母など)に移植し「ハイブリッド免疫系」の創出を試みます。