最近の主要プロジェクト
がん細胞では多様な機能転換から効率的なエネルギー代謝経路を独自に発達させ、主要なエネルギー源であるATP産生を高めて生存能力を恒久的に維持しています。したがって、がん細胞の主要なエネルギー代謝経路を阻害することによりATPを枯渇させてがん細胞を死滅させることができます。私たちのこれまでの調査から、従来の制がん治療に対して難治性を示した犬の脳腫瘍(グリオーマ)ではミトコンドリア呼吸鎖が優位に発達していることが判明しました。そこで、これらを選択的かつ強力に阻害する低分子化合物(ミトコンドリア呼吸鎖複合体I阻害剤)を有力視しています。この薬剤は副作用が低いことからも新規治療薬としてその実用化が大いに期待できます。また、従来の抗がん剤による耐性化に影響されないことから、難治性を呈するがん治療のブレークスルーになると考えています。
研究資金
犬神経膠腫に対してミトコンドリア呼吸活性が及ぼす再発機序の解明と新規治療への応用(科研費2023-2026年)
研究業績(*責任著者)
Yamazaki H*, Onoyama S, Gotani S, et al. Influence of the Hypoxia-Activated Prodrug Evofosfamide (TH-302) on Glycolytic Metabolism of Canine Glioma: A Potential Improvement in Cancer Metabolism. Cancers (Basel). 2023;15(23);5537.
がん悪液質は一般的な飢餓状態とは異なり、全身の代謝異常によって生活の質(QOL)が著しく低下します。これまで悪液質は終末期だけの病態と考えられてきましたが、近年ではがんに起因する全身性炎症反応によって早期の段階から発症することがわかってきました。これらの炎症反応を抑制して悪液質を制御するためにエイコサペンタエン酸(EPA)が注目されています。近年の研究では 、EPAを用いた免疫栄養療法を早期に導入することで、悪液質を可逆的に改善させることが報告されています。さらに、EPAと従来の抗腫瘍療法を組み合わせることで治療効果が大幅に向上することが示唆されています。以上の背景より、我々のグループでは犬のがんに対するEPA免疫栄養療法の有効性について調査しています。将来的にはサプリメントとして手軽にEPA免疫栄養療法を実践できるように取り組んでいます。
研究資金
イヌの胃腸切除術による腸内環境の変化の解明−術後の免疫栄養療法の展望(日本ペット栄養学会研究奨励金2022-2023年度)
固形がんなどは急速な細胞増殖に伴う酸素消費量の増加や未成熟な血管形成による血流障害などから、腫瘍内部では酸素濃度が著しく減少しています。過酷な低酸素環境が生じると低酸素応答システムにより低酸素誘導因子(HIF-1α)が活性し、様々な癌遺伝子が過剰に増幅して治療抵抗性が上昇するため生存期間が短縮します。したがって、犬の新規抗がん治療を確立するためには低酸素環境は重要な意義を持ちます。我々のグループでは、これまでに低酸素活性プロドラッグであるエボフォスファミドを用いて犬の脳腫瘍やリンパ腫に対する治療効果を検証した結果、高い有効性が示唆されました。今後は臨床例を対象とした実現化に向けて取り組んでいきます。この治療が成功すれば、先駆的な治療戦略として強いインパクトを与えることになります。
研究資金
1. 低酸環境下における犬グリオーマの治療抵抗性機序の解明
(科研費2020-2022年度)
2. 犬のリンパ腫における低酸素環境標的療法の開発に関する基礎研究
(科研費2018-2020年度)
研究業績(*責任著者)
1. Yamazaki H*, Tanaka T, Nisida H, et al. Hypoxia-targeting therapy for intestinal T-cell lymphoma in dogs; Preclinical study using 3D in vitro models. Vet Comp Oncol. 2023;21(1);12-19.
2. Yamazaki H*, Tanaka T, Nisida H, et al. Assessment of hypoxia-targeting therapy for gastrointestinal lymphoma in dogs: Preclinical test using murine models. Res Vet Sci. 2023;154;22-28.
3. Yamazaki H*, Sasai H, Tanaka M, et al. Assessment of biomarkers influencing treatment success on small intestinal lymphoma in dogs. Vet Comp Oncol. 2021;19:123-131.
4. Yamazaki H, Lai YC, Morihiro T, et al. Hypoxia-activated prodrug TH-302 induces apoptosis in canine lymphoma cells by downregulating HIF-1 protein under hypoxic condition. PLOS ONE. 2017;e0177305.
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腫瘍研究チームでは『診断・治療に貢献できる革新的技術』をコンセプトに、様々な基礎研究や臨床研究に日々取り組んでいます。私たちの研究に少しでも興味がある方はt-deguchi@rakuno.ac.jp(出口宛)まで気軽にご連絡ください。