高校までは、身につけた知識・技能・解法を使って、与えられた問題に対して、一つの正解を速く正確に 得ることが重視されます。
大学では、自分で問題を設定し、自分なりの解法と答えを創り上げます。その答えは一つとは限りません。 そのような、未知への探究を目的に、そのための探究の方法と精神を身につけていきます。
端的には、高校生=知の消費者、大学生=知の生産者ということになります。
ただし、単純に二分されるわけではなく、大学生は知の生産者としての役割が大きくなっていくといった 方が正確かもしれません。大学教員は知の生産者として日々専門的研究に取り組みながら、その成果を通じ て学生に知の生産者への教育をしているといえます。また、大学生は知の生産者という立場においては大学 教員と対等です。
知の生産は社会に大きな影響を与えることから、それに携わる人にはアカデミック・インテグリティ(誠 実な学修と研究)が求められます。全ての社会人は少なからず知の生産を行っていることから、アカデミッ ク・インテグリティは全ての人に求められるともいえます。さらに、知の消費は一人でもできますが、知の 生産は多様な意見や考えを踏まえながら実現していくことから、コミュニケーション力や協調力などの社会 人基礎力も不可欠です。
アカデミック・インテグリティをしっかり理解して、それを踏まえて大学生活を送ってください。以下に 具体的事例などを説明します。
基本となる6つの価値
正直 Honesty:他者から信頼できる人であると見なされる
信頼Trust:安心して自由に情報やアイデアを交換できる
公正 Fairness:同じ、明確な基準や手順を適用する
敬意 Respect:多様な人や意見に敬意を払う
責任 Responsibility:誠実さを維持する責任を果たす
勇気 Courage:自分自身の欲求や同僚からの圧力に屈しない
具体的事例
【学修における事例】学修においては、導いた答えが正解かどうかより、導く過程での思考が誠実に論理的 に行われたかが重視されます。その例の一つが、与えられた問題を解いた際に正解が導かれていなくても、 その過程に部分点が与えられる場合があることです。学問において先人に学ぶのも、たとえ歴史的に先人の 学説が覆されたとしても、その考え方が有効だからです。導く過程が重視されるということは思考した時間 が重要ともいえます。一方、授業等の出欠確認時の代返・代筆、試験でのカンニング、レポート課題でのコ ピペ(内容の一部に出典を明記し他人の文献を引用する場合を除く)などは厳禁です。特に、試験でのカン ニングは厳罰に処されます。思うように単位が修得できないときなどの出来心には屈しないようにしましょ う。
【議論における事例】自分の意見がいくら正しいと感じても、他の人の意見を謙虚に尊重しましょう。他の 人も自分と同じように真剣に考えて意見を述べているはずですし、自分には見えていない事実を基に意見を まとめている可能性が有ります。また、他の人の意見を参考に、さらに自分の意見をより良いものにしてい く姿勢で臨みましょう。一方、自分の意見が他の人と同じと感じたり、自分の意見に自信がなくても、生ま れてからこれまで自分が経験してきたことを基に考えているはずですから、自分独自の貴重な意見になって いるはずです。自分の意見を尊重し少しずつでも意見を述べる習慣をつけていきましょう。
【単位制度に係る事例】大学での学修は1単位 45 時間の学修時間によって認定されます。通常の2単位の講 義や演習の場合、週2時間 15 週の授業時間(30 時間)に加えて、その2倍の授業外学修時間(60 時間)の 合計 90 時間の学修時間が求められます。この学修時間を十分確保するために、1年間に履修できる単位数 に上限が設定されています。これら単位制度と履修登録単位数の上限の考え方について理解し、各科目の講義計画を十分に把握した上で、日頃の自分なりの学修に真摯に取り組んでください。
【研究における事例】研究に関しても研究インテグリティ(研究の健全性・公正性)が求められます。ねつ造、 改ざん、盗用は厳禁です。本学では研究倫理に関する教育を義務化しています。研究倫理のページも参考に してください。
『知の消費者』から『知の生産者』への転換は簡単ではありませんが、この転換の意味についても自分な りに考えながら、大学生活を送ってください。自分の意見を正直に真摯な態度で表明しながら周りの人との 関係を築く習慣をつけてください。ときには、傷つきたくない、恥をかきたくない、自分を守りたい、本心 を曝け出せないという気持ちになるかもしれません。そのような気持ちになる自分についても自分なりに考 えながら、自分を成長させていってください。社会ではときどき組織の不正事件などが発生しています。社 会人には協調性などの社会人基礎力が求められますが、過度な同調圧力やバンドワゴン効果、勝ち馬に乗る といった心理を理解しながらも、誠実に対応する態度を身につけていってください。
参考文献
・東北大学学務審議会・東北大学高度教養教育・学生支援機構(2018)『東北大学学習・研究倫理教材Part1: あなたならどうする?誠実な学びと研究を考えるための事例集第2版』、http://sla.cls.ihe.tohoku.ac.jp/ wpsys/wp-content/uploads/2018/03/academic_integrity_ver2_20180309.pdf(閲覧 2023/10/10)
・島根大学企画部研究協力課(2021)『島根大学学部生のための学習・研究倫理ガイド』https://research. shimane-u.ac.jp/_files/00247917/kenkyurinri_guide_21_3.pdf(閲覧 2023/10/10)