植物数理モデリング

根粒共生系の進化ダイナミクス

裏切り菌はなぜ出現するのか

マメ科植物と根粒菌の根粒共生系において、お互いに栄養源や窒素固定産物を与え合うことにより共生関係が成立しています。しかし、植物から栄養(Benefit)を得る一方で、窒素固定(Cost)をほとんど負担しない根粒菌が自然界に広く存在しています。このような「裏切り菌」の存在は共生関係を不安定化させると考えられる一方で、根粒共生系は進化的に安定に維持され続けています。なぜこの共生関係が崩壊しないのかは未だ解決されていない大きな問題で。そこで、裏切り菌がどのように出現し、安定的に存在できるのかを理論的に明らかにしました。

Fujita H, Aoki S, Kawaguchi M. (2014) Evolutionary dynamics of nitrogen fixation in the Legume–Rhizobia symbiosis. PLoS ONE 9, e93670.

図1. マメ科植物と根粒菌との共生

マメ科植物の多くは、根粒菌が感染して根に根粒を作り、空気中の窒素を固定することにより、貧栄養の土壌においても生育することができます。このマメ科植物と根粒菌の根粒共生系において、植物は栄養源を根粒菌は窒素固定産物を与え合うことにより共生関係が成立しています(図1左)。しかし、植物から栄養(Benefit)を得る一方で窒素固定(Cost)をほとんど負担しない根粒菌(裏切り菌;図1右下)が、自然界に広く存在していることが知られています。一般にこのような「裏切り者」の存在は、共生関係を不安定化させると考えられています。しかしながら根粒共生系は進化的に安定に維持され続けており、なぜこの共生関係が崩壊しないのかは未だ解決されていない大きな問題です。

共生不成立

弱い共生関係

裏切り菌との共存

強い共生関係

図2. 根粒菌窒素固定能の進化ダイナミクス

根粒共生系の進化的挙動を知るために、窒素固定能を根粒菌の戦略とした数理モデルを構築し検証をおこないました(PLoS ONE (2014) 9, e93670)。モデルにおいて、共生関係の進化はBenefitとCostのバランスに大きく依存しており、両者の効果が拮抗する状況においては、窒素固定菌と裏切り菌が進化し、安定的に共存しうることが示されました(図2)。この結果は、裏切り菌の出現が直ちに共生系の崩壊につながる訳ではないことを示唆しているのと同時に、自然界に広く裏切り菌が存在していることに対しての理論的な説明をも与えています。

寄生的共存

相互依存的共存

図3. 裏切り菌の影響

また、窒素固定菌と裏切り菌の共存状態から裏切り菌のみを除去した場合、窒素固定菌自身もその能力を保つことができなくなり、低下していく場合があります(図3右)。この場合、裏切り菌の存在はむしろ共生関係を安定化させていると解釈でき、必ずしも不安定化を引き起こすだけの存在ではないことを意味しています。もしかしたら,裏切り菌の存在は我々が思っているよりもずっと複雑であり、生態系において未知の重要な役割を果たしているのかもしれません。


Fujita H*, Aoki S, Kawaguchi M. (2014) Evolutionary dynamics of nitrogen fixation in the Legume–Rhizobia symbiosis. PLoS ONE 9, e93670.

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0093670

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