植物数理モデリング
自然界は様々な時空間構造に満ちており、銀河系などの天文学的スケールから雪の結晶のような顕微鏡スケールまで、多様な時空間スケールが見出されます。このような時空間構造は、それらを構成する物質や作用する力は異なっているものの、すべて自己組織的な秩序創発により生み出されてきます。このような秩序の創発はとりわけ生物において顕著であり、生命は自己組織的な時空間パターンの宝庫です。本研究室では、そのような自己組織的パターンの形成・制御機構を、大腸菌および植物を研究対象として、実験的手法と数理的手法を組み合わせることにより理解する事を目指しています。
また、秩序の創発は生命の本質であると同時に、その起源は生命の誕生まで遡ることができます。つまり、生命はその誕生および複雑化の過程において、様々な秩序創発現象を順次取り込んでいくことにより進化してきたと言えます。本研究室では、このような生命の誕生・複雑化の進化過程に関しても、秩序創発の観点から数理的手法を用いて理解したいと考えています。
本研究室はアストロバイオロジーセンターのサテライトとして基礎生物学研究所内に設置され、研究所と密接に連携をとりつつ研究を進めていきます。主に数理的手法を用いていますが、基礎生物学研究所の利点を活かした高度な生物学実験も可能となっています。本研究室に興味のある方、もしくは共同研究を希望される方は、ご相談のみでも構いませんので藤田までお気軽にご連絡下さい。
単細胞生物である大腸菌において、個々の細胞は鞭毛を用いて水中を遊泳し、栄養濃度の高い方に移動する性質(走化性)を持っています。この性質により、周期的コロニーパターン等の細胞集団として秩序だった振る舞いが創発されてきます。この走化性により引き起こされる自己組織化に対して合成生物学的手法を適用することにより、よりダイナミックな時空間的自己組織化の創発を目指しています。一例として、培地上を自由に徘徊する細胞集団 "大腸菌ナメクジ" の創出を試みています。
植物ホルモンのオーキシンは細胞膜局在の輸送体PIN1と協調することにより、2種類の異なる自己組織的パターン、polar transport(極性輸送)とauxin maxima(スポット状集積)を形成し、それぞれ葉脈および葉序と密接に関連しています。これらパターンは非常に簡略化された数理モデルにより説明されていますが、それらは必ずしも分子的な制御機構に基づいているわけではありません。そこで私たちは、どのようにしてこれらのパターンが形成・制御されているのかを数理モデルを用いて理解することを目指しています。
マメ科植物と根粒菌の根粒共生系において、お互いに栄養源や窒素固定産物を与え合うことにより共生関係が成立しています。しかし、植物から栄養(Benefit)を得る一方で、窒素固定(Cost)をほとんど負担しない根粒菌が自然界に広く存在しています。このような「裏切り菌」の存在は共生関係を不安定化させると考えられる一方で、根粒共生系は進化的に安定に維持され続けています。なぜこの共生関係が崩壊しないのかは未だ解決されていない大きな問題です。そこで、裏切り菌がなぜ出現し、安定的に存在できるのかを理論的に明らかにしました。
植物は土壌中の栄養を効率的に吸収・利用するために、栄養環境に応じて柔軟に根系構造を変化させます。そこで、土壌の栄養分布に対してどのような根系構造が最も適応的(効率的)であるかを理論的に解析し、栄養刺激に対する2種類の応答機構、局所的制御(local control)と全身的制御(systemic control)、の適応的意義を明らかにしました。
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