Cryopreservation Conference 2025(クラカン2025)でご講演いただく皆様を紹介いたします。
信州大学 繊維学部 教授
講演タイトル:「インクジェットを用いた動物細胞の凍結保存技術の開発」
従来の凍結保存ではジメチルスルホキシドなどの凍結保護剤を用いて氷晶形成を防いできたが、その毒性や脱水損傷が課題であった。一方、原理的には、細胞の臨界冷却速度である毎秒10,000℃以上で冷却すれば、凍結保護剤を用いることなくガラス化が可能とされる。本講演では、インクジェット微小液滴を用いた超瞬間凍結により、凍結保護剤を用いず動物細胞を保存する技術を紹介する。
理化学研究所 生命医科学研究センター チームディレクター
講演タイトル:「宇宙滞在しているヒト血液中免疫細胞の“スナップショット”」
宇宙滞在に伴う環境変動は免疫系に影響します。私たちは免疫細胞の特性や機能に対する宇宙環境の影響について、細胞・分子レベルでメカニズム解明を目指しています。その一環として、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する宇宙飛行士の方から、滞在中および滞在前後に血液中の免疫細胞を採取し、シングルセル解析を行う計画を立てました。この計画の遂行には、実験的な制約の多いISS内において、血中の免疫細胞を生存状態で安定に凍結保存することが重要となります。今回、私たちが実施した宇宙免疫研究と、そこから派生した、ISS内環境で可能な血液中免疫細胞の凍結保存についてご紹介します。
大阪公立大学大学院医学研究科 実験動物学
講演タイトル:「凍結マウスES 細胞を用いた国際宇宙ステーションにおける長期宇宙放射線の生物学的影響の解析」(Analysis of the biological effects of long-term space radiation to frozen mouse ES cells on the International Space Station)」
宇宙空間には電子や陽子、また重粒子線など多種類の粒子線が飛び交い、その強さは地上の100倍ともいわれています。しかし、それらは比較的、低線量率で絶え間なく被ばくすることから生物影響を短期間で実験的に検出することは難しく、これまでは物理学的線量により宇宙放射線の人体への影響が推定されてきました。そこで、われわれのグループは放射線に対する感受性を高めたマウス胚性幹細胞(ES細胞)を凍結し、2013年3月にSpace X-2のドラゴン宇宙船によりISSに打ち上げて1,584日間 MELFIと呼ばれる-95℃の冷凍庫に保管させて宇宙放射線を被ばくさせた後、地上に回収し染色体異常等を解析するとともに地上での加速器による陽子線の影響と比較し、生物学的影響を直接計測することができました。同時に、宇宙放射線に被ばくした細胞の遺伝子発現について網羅的解析も行いました。このような成果は、今後、月や火星など、より強い宇宙放射線の影響が予想される宇宙空間における有人長期滞在の安全性評価につながることが期待されます。