野生動物研究センター共同利用研究会2020 その2


主催 野生動物研究センター

共催 京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院

日時 2021年3月24日(水) 13:00-17:00頃

形式 会場およびオンラインでの発表と討論

会場 野生動物研究センター(京都市左京区)

お礼


野生動物研究センター共同利用研究会2020 その2は、無事閉幕いたしました。ご参加いただきありがとうございました。


参加人数

学内 約20名 学外約70名

オンラインでの参加 約85名 会場での参加 5名

はじめに


私たち京都大学野生動物研究センターは、皆さんと共に、野生動物の保全を目指して研究や教育を進めています。その中心的な取り組みとして、文部科学省・共同利用・共同研究拠点に参画し、当センター以外の方との共同研究を積極的に進めています。

 この研究会では、共同利用・共同研究の取り組みや、その成果を発表していただきます。また共同利用研究に関わる多くの方にご参加いただき、これからの共同利用研究のあり方も考えて行きたいと思います。

 今回は、新型コロナウイルス対策として、オンラインで参加できるようにします。これと平行して可能な範囲で会場にも集まりたいと思っています。会場での人数などを把握する必要がありますので、できるだけ事前の申込をお願いします。

 これまでの共同利用用研への参加の有無にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。野生動物や、動物園や水族館の動物を対象とした、調査・研究に関心のある方のご参加も歓迎します。


プログラム

12:00-13:00

受付


13:00-13:20

風間 健太郎(早稲田大学・人間科学) 

カモメ類の急速な個体数減少とその要因


13:20-13:40

田中 宗平(金沢動物園)

動物園動物における炎症性マーカーとしての血清アミロイドA蛋白の臨床応用の検討


13:40-14:00

寺田知功(三重大) 

飼育下スナメリの鳴音の分類と機能


14:00-14:20

高橋 力也(近畿大・農学)

御蔵島周辺海域に棲息する野生ミナミハンドウイルカ (Tursiops aduncus) の摂餌生態に関する研究


14:20-14:35

(休憩) 


14:35-14:55

宮西 葵(近畿大・農学)

ハンドウイルカにおける社会的性行動と発達


14:55-15:15

荒蒔 祐輔(京都市動物園)

ゾウのトレーニング専用ペレットの開発に向けたアンケート調査


15:15-15:35

小山 偲歩(名古屋大・環境学)

海鳥にとって負担となる行動の解明:酸化ストレスとバイオロギングによるアプローチ


15:35-15:55

座馬耕一郎(長野看大・看護)

鹿児島県大隅半島に生息する中・大型哺乳類動物の生息状況


15:55-16:10

(休憩)


16:10-16:30

古巻 史穂(北海道大・環境科学)

北海道周辺海域におけるナガスクジラの分布調査と音響観測


16:30-17:20

総合討論

参加申込


※受付終了いたしました。会場での参加人数には上限があります。またオンラインで参加される方はパスワードが必要です。こちらより事前の登録をお願いします。

要旨

カモメ類の急速な個体数減少とその要因

風間 健太郎(早稲田大学・人間科学) 

かつて日本で最も普通に見られたウミネコとオオセグロカモメは、近年その個体数を急速に減少させている。個体数減少要因は特定されていないが、餌であるイカナゴやホッケの減少、捕食者である外来ネコやオジロワシの増加、人間による攪乱や生息地破壊などが考えられる。カモメ類を適切に保全管理するためには減少要因の評価とその軽減措置が求められる。本講演では、講演者がこれまでカモメ類を対象として推進してきた研究成果の概要と今後の展望について述べる。

漁港に群れるオオセグロカモメ(風間健太郎 撮影)

動物園動物における炎症性マーカーとしての血清アミロイドA蛋白の臨床応用の検討

田中 宗平(金沢動物園)

血清アミロイドA蛋白は炎症により体内での合成が亢進する急性期炎症性蛋白の一種である。獣医領域では猫、馬などの動物において人の検査系を用い臨床応用されている。しかしながら他の動物種での臨床的な使用の報告は少ない。今回、疾病時及び健康診断時に動物園飼育動物12種から採血し、保存された検体を用い用いSAAの測定を行った。疾病の状況などはカルテの状況を回顧的に検索し各種動物における臨床的意義を検討した。

飼育下スナメリの鳴音の分類と機能

寺田知功(三重大),森阪匡通(三重大),若林郁夫(鳥羽水),吉岡基(三重大)

鳥羽水族館にて飼育されているスナメリ6頭を対象に,水中録音および行動観察を行ったところ,コミュニケーションの機能を持つと推測される2つの鳴音タイプを発見した.パルス間隔の短い音を繰り返し発するタイプであるパケット音は,他個体との関係を維持するための「コンタクトコール」であると考えられた.一方,パルス間隔が極端に短いタイプであるバーストパルスは,親和的行動と性行動に関係する鳴音であると考えられた.

御蔵島周辺海域に棲息する野生ミナミハンドウイルカ (Tursiops aduncus) の摂餌生態に関する研究

髙橋力也1,森阪匡通2,小木万布3,大泉宏4,瀬川太雄2,小林希実5,比嘉克5,辻紀海香6,酒井麻衣1 (1.近畿大学大学院 農学研究科 水産学専攻 2.三重大学大学院 生物資源学研究科 附属鯨類研究センター 3.御蔵島観光協会 4.東海大学 海洋学部 海洋生物科 5.一般財団法人 沖縄美ら島財団 6. 東海運株式会社)

本研究では御蔵島周辺の野生ミナミハンドウイルカにおける摂餌生態解明を目的に,目視観察や胃内容物分析,音響モニタリングなどを用いて餌生物と採餌時刻・場所に関する解析を行なった.結果,集中した採餌行動を夜間の沖合で行うことが推測され,沿岸域においては機会的に採餌することが示唆された.先行研究も含めると餌生物は50種以上確認されることから本海域周辺のイルカは柔軟な摂餌生態を持っていることが示唆された.

撮影:柳瀬美緒

ハンドウイルカにおける社会的性行動と発達

宮西葵1、森朋子2、阿久根雄一郎2、酒井麻衣1 (1 近畿大学農学部、2 公益財団法人名古屋みなと振興財団名古屋港水族館)

ハンドウイルカは,繁殖に直接関わらない性行動(社会的性行動)を行うことで知られる.本研究では,コドモオスと母親および母親以外の同居メスとの間での社会行動を調べ,コドモオスのメスに対する社会性の発達について明らかにすることを目的とした.今回の発表では,社会的性行動の種類と相手の変化について、研究の途中経過を紹介する.


ゾウのトレーニング専用ペレットの開発に向けたアンケート調査

荒蒔祐輔(京都市動物園)

飼育方法の変遷(直接飼育法から準間接飼育法への移行)により,柵越しにゾウを飼育管理していくためのトレーニングの重要性が以前よりも増している。トレーニングの成功を左右する重要な因子のひとつに強化子の選定があるが,従来では,品質の安定,栄養組成の不適,準備の手間などの課題もみられる。上記の課題を解消するため強化子開発に着手し,国内のゾウ飼育園9園に協力をあおぎ開発品の嗜好性および形状のアンケート評価を行った。

トレーニング中に強化子を与える様子

海鳥にとって負担となる行動の解明:酸化ストレスとバイオロギングによるアプローチ

小山偲歩(名古屋大学大学院環境学研究科)、依田憲(名古屋大学大学院環境学研究科)

海鳥の採餌戦略と環境変化への応対、行動の柔軟性を理解するために、新潟県粟島で育雛しているオオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)を対象に、バイオロギングによる行動記録と生理的負荷の定量化を行なった。生理的負荷の定量化には、スポーツ科学などでヒトの疲労度の指標として使用されている酸化ストレス計測を使用した。得られたGPSおよび加速度データを元に行動を詳細に解析し、オオミズナギドリにとって疲労につながる行動を明らかにする。

鹿児島県大隅半島に生息する中・大型哺乳類動物の生息状況

座馬耕一郎(長野看大・看護)、竹ノ下祐二(中部学院大・看護リハ)、藤田志歩(鹿児島大・共通教育セ)、川添達朗(東京外大・アジア・アフリカ言語文化研)、浅井隆之((同)南九州野生動物保護管理)

鹿児島県大隅半島稲尾岳南麓の常緑広葉樹林に生息する中・大型哺乳類動物を調べた。調査は2013年から7年間行い、計13.7kmの調査道路に設けた7区間をそれぞれ1人の調査者が歩き、現れる動物を観察した。計104時間の調査道路の観察で、1時間あたりの目視頭数は、ニホンザル17.87頭、イノシシ1.38頭、アナグマ0.03頭、ニホンジカ0.02頭だった。発表では年変動やニホンザルの追跡調査の結果も含めて報告する。


北海道周辺海域におけるナガスクジラの分布調査と音響観測

古巻史穂(北海道大学大学院環境科学院),三谷曜子(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

ナガスクジラは近年,世界的な個体数の回復がみられる種であり,分布海域の変化が報告されている.保全のための将来予測を行うためには,現在の分布状況や海洋環境との関係を明らかにすることが重要であるが,北海道周辺海域において分布要因は解明されていない.本研究では,北海道大学練習船を用いた目視調査による分布調査の結果と音響録音の試みを紹介する.

ナガスクジラ

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