野生動物研究センター共同利用研究会2020


主催 野生動物研究センター

共催 京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院

日時 2020年9月10日(木) 13:00-17:00ぐらい

形式 Zoom によるオンライン発表と討論

お礼


 今回は初めてのオンラインでの実施となりました。総勢67名もの方にご参加いただき、たいへん盛況でした。初めてのオンライン研究会であり、至らない点が多々ありましたことをお詫び申し上げます。それにもかかわらず、多くの方から「面白かった」といっていただけました。興味深い発表をしていただいた講演者と、議論を盛り上げていただいた参加者のおかげです。

 今後はもう少し、会場で集まって開催できるようになることを祈っていますが、できるだけオンラインでの配信も併用し、より多くの方にご参加いただけるようにしたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

 

 参加者 67名

(内訳 学外 43名 うち 発表者 8名 参加者 35名)

(   京都大学 当センター以外 8名 うち 発表者 2名 参加者 6名)

(   当センター 16名 うち 発表者 0名 参加者 16名)

はじめに


京都大学野生動物研究センターは、野生動物や動物園や水族館館の飼育下の動物を主な対象として、基礎研究や保全研究を推進しています。このような活動をより広範に進めるため、共同利用・共同研究として、当センター以外の方の研究をサポートし、共同研究を行っています。

 この研究会では、これまでの共同利用研究の成果を中心に様々な研究成果や、調査・研究の取り組みを発表していただきます。また、これまでの活動を踏まえて、よりよい共同利用研究のあり方を考えて行きたいと思います。共同利用研究に外部から参加する方、共同利用研究の計画や審査をする方、共同利用を受け入れる内部のスタッフなど、様々な立場の相互理解が進むことで、よりよいものにしていけると期待しています。

 今回は新型コロナウイルスへの対策のため、初めてオンラインにて開催します。また、新型コロナウイルス禍により、調査研究活動に様々な支障が出ていることと思います。現状をお伺いするとともに、これからどのような対応していくことができるのか、といったことを議論できればと思います。

 これまでの共同利用用研への参加の有無にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。野生動物や、動物園や水族館の動物を対象とした、調査・研究に関心のある方のご参加も歓迎します。

プログラム


12:00~ 入室できます。

12:30~13:00 開会の挨拶・注意事項の紹介・自己紹介

       オンライン会議では参加者の顔が見えないため、できるだけ自己紹介をお願いします。

13:00~16:00頃研究発表16:00頃~17:00頃ワークショップ

13:00-13:15

菊池隼人(帯広畜産大学)

       ニホンモモンガはなぜ集団で営巣するのか? 集団サイズの変化過程と交尾行動からの検討

13:15- 13:30

宮本慧祐(東京農業大学)

       人工哺育タヌキを用いた新奇環境への順応過程に関する研究

13:30 -13:45

桃井綾子(青森県営浅虫水族館)

       津軽海峡および陸奥湾に出現する鰭脚類をはじめとした海棲哺乳類の目視調査

13:45 - 13:55 (休憩)

13:55-14:10

大島由貴(名古屋港水族館)、倉橋佳奈(京都大学)

       名古屋港に来遊するスナメリの生態研究:水族館の取り組みと野外調査報告

14:10 -14:25

石合 望(京都大学)

       機械学習を用いたスナメリ鳴音イベント判別手法の確立

14:25 -14:40

小松夏海(三重大学)

       飼育シロイルカの個体間関係を⾳声交換から⾒る新⼿法

14:40 -14:50 (休憩)

14:50 -15:05

川瀬啓祐(日立市かみね動物園)

       飼育下キリンにおける血中遊離脂肪酸および血中ケトン体濃度の定量

15:05 -15:20

木村 嘉孝(宇部市ときわ動物園)

       ボンネットモンキー(Macaca radiata)の血液成分と体毛中アミノ酸組成の関連性調査

15:20 -15:35

宮川悦子(横浜市金沢動物園)

       飼育下コアラ (Phascolarctos cinereus) における尿中ステロイドホルモン濃度測定による生理的変化の評価

15:35 -15:50 (休憩)

15:50-17:00

ワークショップ「調査できてますか?ーコロナ禍での野生動物研究の現状と展望」

参加申込


※受付終了いたしました。

オンラインでの開催のため、入室にはパスワードが必要です。

こちらより事前の登録をおねがいします。

要旨

菊池隼人、押田龍夫

(帯広畜産大学・野生動物学研究室)

ニホンモモンガはなぜ集団で営巣するのか? 集団サイズの変化過程と交尾行動からの検討

齧歯類の社会には単独性と群れ性の2種類が存在する.これらは種によって固定されているものではなく,一つの種が状況に応じて両方を使い分ける場合がある.ある種が二つの社会を使い分ける目的を明らかにすることは,齧歯類の社会性が進化する要因を考える一助になるだろう.著者らは単独性の社会を持つ樹上棲リス類が複数頭で同じ巣穴を利用する行動(集団営巣)を対象に,集団営巣を行う目的が①身を寄せ合うことによる体温の保持,②同じ巣穴を利用することによる交尾相手の確保だと仮説を立てた.そして2017–2019年に,樹上性リス類の一種であるニホンモモンガにおける集団サイズの季節変化と交尾行動を,目視と自動撮影カメラによって観察した.その結果,集団サイズは秋と冬に大きくなり,集団営巣に参加している個体同士の交尾が確認された.これらの結果から,ニホンモモンガが集団営巣をする目的は,体温の保持と交尾相手の確保の両方だと考えられた.

宮本慧祐 1、高井亮甫 1、岡野貴大 1、東野晃典 2、石川真理子 3、松林尚志 1

1 東京農業大学・野生動物学研究室、2 よこはま動物園、3 夢見ヶ崎動物園)

人工哺育タヌキを用いた新奇環境への順応過程に関する研究

タヌキ (Nyctereutes procyonoides) は、日本を含む極東アジアに広域分布し、山地から市街地まで様々な環境に順応している。また、国内における傷病獣保護の最も多い種である。幼獣保護も毎年発生しており、人工哺育された後に放野されている。しかし、放野後にモニタリングした事例はなく、その生存の可否は不明であった。タヌキが広域に分布する適応性の高い種であることを考えると、本種の新奇環境への順応過程を調査することは生態を理解するうえで重要である。本発表では、人工哺育個体5個体、比較対象の傷病獣である成獣4個体を調査対象とした追跡調査の結果について紹介する。

桃井綾子 1、桜井泰憲 2

(1 青森県営浅虫水族館、2 函館頭足類科学研究所・北海道大学名誉教授)

津軽海峡および陸奥湾におけるキタオットセイをはじめとした海棲哺乳類の目視調査

青森県営浅虫水族館では,青森県周辺海域でのキタオットセイ,トド,ゴマフアザラシ,クラカケアザラシ,ワモンアザラシの保護事例がある.特に近年,キタオットセイについては沿岸での発見事例が増加傾向にある.そこで,青森県周辺海域での鰭脚類の来遊を解明するための初期段階として,津軽海峡~陸奥湾内における来遊状況の把握を目的にフェリーからの目視調査を行った.2018年11月~2020年1月の期間に月に1~2回,青森-函館の定期航路便を使用して,海棲哺乳類の探索を行った.延べ17日間の調査で,キタオットセイ,カマイルカ,ネズミイルカ,シャチ,ミンククジラの5種類の海棲哺乳類を発見した.キタオットセイは11月~4月に出現し, 1月と2月は他の月より突出して多く見られた.また出現位置は津軽海峡内に限定されており,水深100~200mの大陸棚上に集中していた.なぜ,この海域で集中していたのか?索餌越冬回遊の可能性について考察した.

○大島由貴1、松波若奈2、木村里子3、○倉橋佳奈2、神田幸司1、栗田正徳1、吉田弥生4、荒井修亮5

(1 名古屋港水族館、2 京大院農、3 京大データ研セ、4 東海大海洋、5 京大フィールド研セ)

名古屋港に来遊するスナメリの生態研究:水族館の取り組みと野外調査報告

伊勢湾奥にある名古屋港は大規模な総合港湾であり、その海域環境は人間活動の影響を大きく受けています。当海域において近年スナメリ (Neophocaena asiaeorientalis sunameri) の来遊が確認されていますが、詳細な生態は未解明でした。大都市の巨大港に現れるスナメリの実態解明と、名古屋市民など地域社会に対してスナメリの生息環境への意識向上を目的として名古屋港水族館、京都大学、東海大学は共同で研究・活動しています。本発表では、名古屋港水族館における一般向けのアウトリーチ活動と、京都大学野生動物研究センターの支援を受けて実施した、音響観測の結果について報告させていただきます。音響観測調査では、名古屋港と伊勢湾を繋ぐ2か所の開口部において、長期的な音響観測によって、スナメリの日周的・季節的な変動を明らかにすることを試みました。さらに、潮位や水温などの環境パラメータと、頻繁な船舶航行によるスナメリの来遊への影響を検討しました。

石合

(京都大学 )

機械学習を用いたスナメリ鳴音イベント判別手法の確立

鯨類の観察手法の1つに音響機材を用いて鯨類の発する音を記録する受動的音響観測と呼ばれる手法がある。取得したデータには対象種の発した音のほかに船やテッポウエビ等による雑音が含まれている。取得したデータから対象種の音を抽出する作業を手動で行うには膨大な時間と労力を必要とし、定量的な解析に時間がかかることが生態解明のボトルネックとなっている。本発表では三河湾湾口部におけるスナメリの受動的音響観測においてA-tagにより取得したデータからスナメリの発した音を機械学習により自動で抽出する検出器を紹介する。この手法は様々な海域や生物種に応用可能であると考えられ、鯨類の生態解明を加速させることができる。

小松夏海 1、森阪匡通 1、三島由夏 2、酒井麻衣 3、三島有紀 4、平野大介 4、吉岡基 1

1 三重大学大学院・生物資源学研究科、2 東京海洋大学・学術研究院、3 近畿大学農学部、4 島根県立しまね海洋館)

飼育シロイルカの個体間関係を⾳声交換から⾒る新⼿法

イルカ類では胸ビレで他個体の体をこするラビングを用いて個体間関係を調べる研究が行われている.しかしシロイルカ(Delphinapterus leucas)ではラビングが観察されない.一方,本種はギー音と呼ばれる鳴音を用いた音声交換を頻繁に行う.そこで本研究では音声交換のやり取りから得た「音から見た個体間の関係」と,飼育員へのアンケート調査から得た「飼育員の考える個体間関係」がどのくらい一致するのかを調べた.本発表では結果の一部を紹介する.

川瀬啓祐1 2,平山久留実,河野成史1,伊藤秀一4,八代田真人,椎原春一1

1 大牟田市動物園,2 現 日立市かみね動物園,3 岐阜大学応用生物学部,4 東海大学農学部)

タイトル:飼育下キリンにおける血中遊離脂肪酸および血中ケトン体濃度の定量

キリンの甚急性死亡症候群は負のエネルギーバランスにより引き起こされるといわれている。この疾患は,病歴もなく突然死亡し,剖検時には脂肪の漿液性萎縮や肺水腫等が認められる。本研究では,栄養状態の基礎的知見を得ることを目的として,飼育下のキリン(雄1頭,雌1頭)において,定期的な採血を行い,ウシなどの家畜でエネルギー状態を示す指標である遊離脂肪酸とケトン体の測定,および摂餌量およびボディコンディションスコアの測定を実施した.雄個体においては,さらに週に一回の体重測定を行った.年間を通して採血を実施したことから,供試個体の健常値を得られた.また,雄個体において,年間の詳細な体重の変化も記録できたことから,飼育管理において重要なデータを得ることができた.

木村 嘉孝

(宇部市ときわ動物園)

ボンネットモンキー(Macaca radiata)の血液成分と体毛中アミノ酸組成の関連性調査

動物園において、簡易的に動物の栄養および健康状態を知る方法として、糞便性状、採食量、活力、外貌、体重といった指標で評価をしているが、これらの指標は個体の栄養状態を客観的な数値として表すことが難しいため、一般的に栄養状態の把握には血液を用いる。しかし、サンプル採取には資格、技術が必要であり、侵襲的な方法でもあるため、動物への負荷が大きい。体毛は容易に採取できるサンプルとして牛では遺伝子検査用のサンプルとして広く用いられている。体毛は、タンパク質が主な構成成分であるが、マウスにおいてタンパク質摂取量と体毛中システイン含有量に正の相関が見られていることから、体毛中アミノ酸含有量の変化により栄養状態を把握できる可能性がある。今回の発表では、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)を用いてボンネットモンキーの体毛のアミノ酸分析を行い、血液成分との関連性を検討する調査の途中経過を紹介する。

液体クロマトグラフィー 質量分析装置(LC/MS)

宮川悦子 1、木下こづえ 2

1 (公財)横浜市緑の協会 金沢動物園、2 京都大学野生動物研究センター)

飼育下コアラ (Phascolarctos cinereus) における尿中ステロイドホルモン濃度測定による生理的変化の評価

動物園動物のストレスを含む健康状態は、表情、食欲、便状といった外見上の変化で判断されることが多い。ところが、コアラの場合、一日のうち18~20時間を休息あるいは睡眠に費やすため、彼らのストレスを含む健康状態を外見から的確に判断することが難しい。そこで、非侵襲的に採取が容易な尿を用いて、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)、発情ホルモン代謝産物(E1G)および黄体ホルモン代謝産物 (PdG)濃度を測定することでコアラの生理的変化の評価を行った。同時に、個体の行動を記録し、上記ホルモン測定値との関連性を調べた。その結果、獣舎工事などの環境変化に伴ってコルチゾール濃度の上昇が確認された。また、雌では、発情時にE1G濃度およびコルチゾール濃度の上昇が見られ、その後、交尾があった場合のみPdG濃度の上昇も得られた。本種の尿を用いたホルモン濃度測定例は本研究が初めてであり、本種の生理的変化の評価に有用であることが示された。


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