これまでに開講された授業を紹介します。
(こちらは過去の授業ですので、今後、同一の授業が開講されるわけではありません。)
文学を学んでいると、絵画や音楽、演劇、映画など、他の芸術分野へと関心はおのずとひろがってゆくものです。「文学史」や「文学演習」といえど、映像・音声資料をもちいる機会は大切にしたいとおもっています。
例えば「文学史2」で扱う19、20世紀の文学史においては、映画化されている小説作品がとても多く、また、20世紀にはいると、ジャン・コクトーやアラン・ロブグリエ、マルグリット・デュラスなど、映画シナリオを書いたり、映画監督までつとめる作家もでてきます。
「文学演習3」では、プルースト著『失われた時を求めて』に出てくる架空の音楽作品の描写を読みながら、作家がこれを書く際に着想を得たとされる、ベートーヴェンやセザール・フランク、ドビュッシーなど、西洋音楽史を代表する作曲家たちの楽曲を実際に聴いてみたりもしています。
一見「息抜き」ともおもえる、授業内でのこのような試みをとおして、文学テクストの理解をいっそう深めるとともに、他の芸術ジャンルについての知見を得ることもできるでしょう。
(「フランス文学史II」は2年生での履修が推奨されている必修科目です。「文学演習」はおもに3、4年生が対象ですが、2年生でも履修することができます。)
「フランス語学」はフランス語を対象とする言語学の入門的授業です。講義形式の授業であるため、無味乾燥な概念や理論を淡々と解説するだけでは退屈であろうと常々感じていました。何か斬新な方法はないかと思案した結果、2025年度の授業ではBD(=Bande Dessinée、フランス語圏のマンガ)を用いることにしました。
日本でもよく知られている『タンタンの冒険』シリーズからアルバムを一つ選びました。毎回の授業では、まず前半で原文2〜3ページ程度の内容を解説します。講読の授業のように語彙や文法の説明をし、背景や文脈についても詳しく解説します。当該箇所の説明が終了し内容の理解が進んだと判断できれば、授業の後半に移ります。読み終えた範囲内で言語学的に興味深い箇所を取り上げ、専門的な観点から講義します。選んだテーマは冠詞の用法や動詞の時制・叙法、メタファーやアイロニーなどの修辞技法、言葉遊びやことわざなどです。日本語訳と比較して翻訳上の問題を論じることもあります。概ね一回の授業につき一つのテーマを選び、あまり技術的にならないように配慮しながら講義を進めました。
学期末に提出してもらたレポートを見る限り、受講生諸君の興味を引くことができたようです。他専攻や他学部からの参加者にも楽しんでもらえました。
(フランス語学IIはすべての学年で履修可能です。)
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「フランス語表現演習」はフランス語を「書く」能力を高める科目です。10年以上に渡って、その最も高いレベルを担当しました。様々な工夫をしましたが、受講生諸君との共同作業で楽しく授業ができたのは、「日本語の文学作品を自力でフランス語に訳してみて、相互に批評し合う」というものです。モデルとしたのは柴田元幸『翻訳教室』([リンク1][リンク2])。柴田先生が英語→日本語で試みたことを、この授業では日本語→フランス語で再現してみたのです。
教材には小川洋子や村上春樹の短編を使いました。あらかじめ受講生全員に日本語の抜粋を配布し、指定箇所のフランス語訳を提出してもらいます。教室では、原作の一文ごとに全員の訳文を並べて比較し、全員で批評します。語の選択、文の組み立て、言語使用域、文体、文化事象などの観点から、自由に議論します。優劣を競うわけではなく、いわんや「正解」を求めるのでもなく、フランス語と日本語の違いを意識化し、それぞれの言語の理解を深め、それぞれの言語の達人になるのが目的です。参考資料として熟練の翻訳家による訳文を配布し比較することもあります。「なるほど、上手く訳している」と感心することもあれば、「なぜこのような訳し方をするのか?」と疑問を抱くこともあります。後者の場合でも、即断で「誤訳」と片付けるのではなく、翻訳者の動機を推測しながらできる限り正当化してみることで、翻訳者の煩悶や苦悩を追体験できる場合もあります。
受講生は、知的好奇心に溢れ積極的な成長を目指す2年生から、中学高校でフランス語を学んだ上級者や帰国生まで、各自が自分の学習歴に応じて参加しました。この授業がきっかけとなって言語学に興味を持ったり、翻訳の問題で卒論を書く学生も少なくありませんでした。
(フランス語表現演習VIIBはおもに3、4年生が対象ですが、2年生でも履修することができます。)
この授業では、19世紀の作家(ボードレール、ゾラ、マラルメ、ユイスマンス)による美術批評の分析に焦点を当てます。ボードレールが美術批評を手がけ始めた1840年代半ばには、それまで隆盛を極めていた文学運動としてのロマン主義は衰退に向かっていました。ボードレールは、美術批評を通じて、衰退しつつあったロマン主義を独自の視点で再生しようと試みます。彼は、ロマン主義の巨匠ドラクロワを、英雄的なダヴィッドの新古典主義の継承者として位置づけつつも、その偉大な伝統の終焉を感じ取り、同世代のクールベや後続世代のマネの周辺で、現代生活における「英雄性」について深く考察しました。ボードレールが死去した後、美術批評の世界に登場したゾラは、世間の理解不足に苦しんでいたマネを積極的に擁護し、その革新性を強調しました。マラルメは1870年代に印象派の絵画の本質を鋭く捉えた批評を発表し、ユイスマンスは1880年代の批評において、目に見えるものを描いた印象派から、目に見えないものを表現しようとする象徴派への移行を示唆しています。このように、これらの作家の美術批評を辿ることは、新古典主義から象徴主義に至る19世紀の絵画史全般を概観することにつながりますが、それ以上に重要なのは、「本当らしさ」をめぐる一連の議論がそれをとおして浮かび上がってくることです。
(フランス文学史VIはおもに3、4年生が対象ですが、2年生でも履修することができます。)
(↓は授業で使用したスライドの例です。)
この授業の目的は、すでに2~3年間フランス語を学んできた学生が、新しい語彙や表現を学びながら、これまでの知識を実践で活用できるようにすることです。いくつかのアクティヴィティを行います。
ー最近の実際の資料を用いてリスニング練習を行います。ポケモンカードの盗難に関するニュースや、地方の小さな鉄道路線の廃止に関するニュースなどを取り上げました。
ーフランスのテレビで放送されているコマーシャルを教材として使用し、学生たちはフランス語で要約、説明しました。
ー各学生は学期中に、フランスやフランス語圏に関連する文化的なイベントについて、5分から10分程度の発表を行います。2025年秋学期には、アール・デコ展、印象派展、あるいはアニエス・ヴァルダの映画に関する発表がありました。
(フランス語表演演習IVは、おもに3、4年生が対象ですが、2年生でも履修することができます。)
フランス革命の時期、カリブ海のハイチにおいてフランス本国からの独立と奴隷制の廃止を実現したハイチ革命が起きていたことは、一般にあまり知られていないかもしれません。その立役者の一人、トゥーサン=ルーヴェルチュールをめぐって、同じくカリブ海のマルチニック島出身の詩人で、「ネグリチュード」の提唱者のひとりとしてしられるエメ・セゼールが書いた評論を取り上げました。
歴史的な背景も含めて文章はなかなか難いのですが、トゥーサン=ルーヴェルチュールの生涯を画するいくつかのエピソードの抜粋をフランス語で読みました。時代背景については、関連する日本語の書籍を適宜参照しました。フランスの植民地関連の研究は近年注目を浴びており、日本語でもたくさんの情報を得ることができました。
履修者した学生にとってもカリブ海はなかなかなじみの薄い地域のようでしたが、広く「フランコフォニー」に分類されるフランスをめぐる学びの広がりを体験しました。
(文学演習IVは、おもに3、4年生が対象ですが、2年生も履修することができます。)