研究テーマ
~ 「自ら学ぶ子供」の育成を目指した授業デザインの創造 ~
(1) 社会の要請
現代社会は,Society5.0が提唱され,グローバル化の進展や生成AIの飛躍的な進化,技術革新など社会全体が急激に変化し,予測困難な時代(VUCA)となっています。
このような社会的背景を受け,中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(2021)において,子供たちが多様な人々と協働しながら社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となる資質・能力を高めていくために,「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図り,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を推進していく重要性が提言されています。
このような答申等を受け,今日の学校現場では,予測困難な時代に柔軟に対応し,誰一人取り残すことなく,一人一人の学びを保障していくために,「子供(学習者)主体」の学びへ舵を取り,全ての子供たちの可能性を引き出す授業改善や新たな学びの創出により一層,取り組んでいくことが求められています。
(2) 本校の実態
本校では,これまでプログラミング教育やICT活用を始めとした教育の情報化に着目した研究を推進してきました。今年度は,これまでの研究の成果を生かしつつ,日常の子供たちの学びの姿に改めて着目し,教師間で本校の実態(子供の実態や学習状況等)を把握(「Research」)・共有することを通して研究テーマを設定していくことにしました。
本校の実態を教師間で共有するために,各種調査等の結果を参考にしたり,KPT法*を取り入れたりしながら,教師一人一人の「思いや願い」,「これから取り組みたいこと」について意見を出し合った結果,次のような意見が多く出されました(図1)。
* KPT法「Keep(成果が出ていて継続すること)」や「Problem(解決すべき課題)」を洗い出し,分析した上で具
体的な改善策としての「Try(次に取り組むこと)」を検討する方法の一つ。
(3) 本研究のテーマ
先に述べた「社会の要請」と「本校の実態」から特に,「子供主体」の学びを創造し,子供たちが更に主体的に学びに向かう力を育んでいく必要があるという教師間の「思いや願い」を共有することができました。
本校は,学教教育目標に「自ら学び,自ら考え,心豊かで夢と自信に満ちた榕城の子の育成」を掲げ,令和8年度に150周年を迎えます。これまで本校で脈々と受け継がれてきた「自ら学ぶ子供」の育成を「子供主体の学び」の視点から改めて整理していく必要があると考えました。
子供たちが「知りたい。」,「解決したい。」,「できるようになりたい。」といった自分自身の「思いや願い」の実現に向けて,自分に合った学びの内容や方法を創り出していくことが,変化の激しい社会の中で一人一人がより豊かに生きていくために重要であると考えました。
また,私たち教師もこれまでの研究や実践の前例や型に捉われ過ぎず,子供たちの伴走者として,これまで以上に「子供主体」の新たな授業デザインの創造に取り組んでいく必要があると考え,研究テーマを「自ら学びを創る」,サブテーマを「『自ら学ぶ子供』の育成を目指した授業デザインの創造」とし,研究を進めていくことにしました。
(1) 研究で目指す子供の姿
本研究では,「自ら学ぶ子供」の姿(図2)を次のように捉えました。
(2) 研究の内容
本研究では,図2に示した「自ら学ぶ子供」の育成を目指すために,次のような三つの内容を研究の柱として,各教科等の実践で工夫を図ることにしました。
(3) 全体構想
研究主題及び研究内容を踏まえ,次のような構想を立て,研究を進め
ることにしました(図3)。
本研究では,子供の実態把握を基にした「R(Research)-PDCAサイクル」で研究を進めていくとともに,日々の授業改善においては,子供たち個々の実態や特性等に応じた個別最適な学びの充実を図り,各教科等の単元・題材の中でより実効性をもって授業改善を繰り返していくことができるように「OODAループ**」の考え方を参考にしました。
各学年・特別支援部内で相互参観授業を取り入れ,子供の学びの姿を観察し,日々の実践の中で教師がより協働的に授業改善を繰り返していくことで,「自ら学ぶ子供」の育成につながる授業デザインを追究しました。
(右写真 相互授業参観の様子)
** 「OODAループ」とは,Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の四つの 段階を連続的に繰り返すことで,迅速かつ柔軟に意思決定を行っていくマネジメント手法の一つ。
図3 研究のイメージ
相互授業参観の様子
(1) 子供が自らめあてや目標、問いをもつための学習の工夫
子供たちが自ら学びの価値を見いだし,学習意欲をもって学び続けるためには,「もっと〇〇について知りたい。」という
内発的動機付け(モチベーション)をより一層,高めていくことが重要です。また,「□□についてもっと調べる必要がありそ
うだ。」,「もっと~することができるようになるために学習したい。」といった「必要性」を子供自身が感じられるような
教材との出合いや関わり方の工夫を図っていく必要があります。
そこで,各教科等の実践において教師が一律にめあてや問いを示すのではなく,子供が自らめあてや目標,問いをもつため
ことができるように,単元・題材の中に「自己目標」を設定する学習場面を位置付けることにしました。
【「自己目標」の捉え】
⇒各教科等の単元・題材において自ら立てためあてや目標,学習問題(学習課題)に関わる子供たち個々の問い。
子供たちが,「この単元・題材では,〇〇ができるようになりたい。」,「この時間(一単位)の学習では,□□について理
解したい。」といった自己目標をもつことが,子供たちが粘り強く学習課題と向き合ったり,解決方法を考えたりする姿につ
ながっていくと考えました。
また,各教科等の単元・題材全体や一単位時間の学習においては,学級全体として追究していくめあてと,子供たち一人一
人の「なぜ(どうして),◇◇なのだろう。」という個別の問いや「◇◇について自分の力で調べたい。解決したい。」とい
う個々の追究意欲を関連付けることで,学習を自分事として考え,持続的に自ら学ぶことができるようにしました。
子供たちの「粘り強い取組を行おうとする姿」を育む授業改善を進めていく際には,現行の学習指導要領において学習の基
盤となる資質・能力とされている「言語能力」や「問題発見・解決能力」との関連も意識するようにしました。そうすること
で,各教科等の実践の中で「粘り強い取組を行おうとする子供の姿」をより具体的に教師間で共有することができるようにし
ました。
(案)令和6・7年度の実践から「自己目標」に焦点化した取り組みを実践事例として二つ程紹介する
例えば,第○学年〇〇科「・・・・・・」の学習では,~という手立てによって□□□のような子供の姿が見られるようになりました。
(案)
○ 社会科の例
⇒ 自ら問いをもち,学習問題を立てたり,追究の柱に沿って追究意欲をもち,問題解決に取り組んだりする姿。
○ 算数科の例
⇒ 生活経験や既習事項等を関連付けながら学習課題を解決するために数学的な見方・考え方を働かせたり,統合的・発展的に考えたりする姿。 等
図4 「自己選択・自己決定」の視点
(2) 子供が自ら計画を立てたり、学び方を
工夫したりするための学習の工夫
子供たち一人一人が自分の特性や学習進度,学習到達度等に応じて自ら学ぶためには,教師が学習内容や方法を細かく規定するのではなく,単元・題材の中で子供たち自身が学習内容や方法を決める場面を設定することが重要であると考えました。
学習内容や方法を子供自身が自分の意志で決め,決めたことを最後までやり遂げるという「自律性」に着目した学習の工夫を図ることで,自らの学びを調整しながら学ぶ子供の姿や,「自分の力でできるようになった。分かった。」といった自己効力感の向上につながっていくと考えました。
そこで,子供が自ら計画を立てたり,学び方を工夫したりする際に,「自己選択・自己決定」の学習場面を位置付け,単元・題材の工夫を図ることにしました(図4)。
(案)令和6・7年度の実践から「自己選択・自己決定」に焦点化した取り組みを実践事例として二つ程紹介する
例えば,第○学年〇〇科「・・・・・・」の学習では,~という手立てによって,□□□のような子供の姿が見られるようになりました。
(案)
〇算数科 ○○の学習で□□に着目して思考・判断することでできるように,「算数モンスター」を提示し,子供自らが見方・考え方を働かせることができるようにする。
〇音楽科 複数の楽器やリズムの中から,自分が表現したい楽器やリズムを自己選択・自己決定する場面を設定することで,音楽表現を深めることができるようにする。
さらに,「自己選択・自己決定」の学習場面を位置付け,学習の工夫を図っていくことは,特別支援教育の視点からも重要であると考えました。
子供たち一人一人の特性に応じた個別最適な学びを創り出していくために,特別支援学級や通級指導教室における自立活動の指導目標や指導内容を考えて行く際にも,子供たちが,「自己選択・自己決定」する機会を設定するようにしました。
子供たちが自己の障害の状態や特性,心身の発達段階等への理解を深め,生活上または学習上の困難さを改善・克服するための方法を自ら選択したり,自分に必要な支援や支援の求め方を決定したりしていく力を高めていくことは,子供たちが主体的に自立や社会参加していく姿につながっていくと考えました。
(案)令和6・7年度の実践から「自己選択・自己決定」に焦点化した特別支援部の取り組みを実践事例として紹介する
例えば,自立活動「・・・・・・」の学習では,~という手立てによって,□□□のような子供の姿が見られるようになりました。
このように本研究では,誰一人取り残さない学びを保障していくことを授業改善の視点の一つとし,授業実践に取り組みました。
(3) 子供が自ら自己の学習を振り返り、自己の成長に気付いたり、学習したことを次の学習に
つなげたりするための学習の工夫
子供たちが自ら学ぶためには,単元・題材や一単位時間の授業の中で,「○○が分かった。できるようになった。」という学び
の「有用性」を実感することが重要です。これまでの実践においても振り返りの場面の学習の工夫に取り組んできましたが,本
研究では,「できたこと。」や「分かったこと。」だけではなく,学び方や次時の学習とのつながりを意識し,より深く自らの学
びと向き合う学習場面の工夫が必要であると考えました。
そこで,「自己省察」の学習場面を位置付け,学びを連続的に捉える視点から単元・題材の工夫を図ることにしました。「自己
省察」を通して,子供が自己の学習状況を把握したり,学習の進め方について試行錯誤して自らの学習を調整したりする力を高
めていくことができるようにしました。
【「自己省察」の捉え】
⇒自己の成長や変容に気付いたり,次の学習に向けての新たな課題や目標,問いを自ら見いだしたりするために,自己の学習状況を把握し,省みること。
「自己省察」の方法としては,単元・題材や一単位時間の授業において,学習履歴を残す(例:マウンテンマップ,一枚ポートフォリオ形式の振り返りなど)手立ての工夫やICTを活用した振り返りの蓄積,自己評価や他者評価の工夫などに取り組むことにしました。
ふりかえりのワークシート
「自己省察」する子供の様子
また,指導と評価の一体化の考えから,子供たちが「自己省察」したことを教師が見取り・評価することで,個別最適な授業デザインの創造や更なる授業改善に生かすことができるようにしました。
(4) よりよい授業改善を目指した授業研究や情報共有の場の工夫
日々の授業改善においては,子供たち個々の実態や特性等に応じた個別最適な学びの充実を図り,各教科等の単元・題材の中でより実効性をもって授業改善を繰り返していくことができるように「OODAループ**」の考え方を参考に,「『授業参観・授業研究のPoint』シート」を作成することで,授業参観者が,まずは「子供の姿」に着目し,「実際の授業の中で自ら学ぶ姿が見られた」という「事実」から,よりよい授業デザインや効果的な手立てを構築することができるようにしました(図5)。
図5 「授業参観・授業研究のPoint」シート
このような取組も取り入れながら,本校では,「自己目標」,「自己選択・自己決定」,「自己省察」の三つの取組を研究の柱とし,各担任の日々の授業改善(個人)と学年部・特別支援部内での授業改善(チーム)を両輪とし,「自ら学ぶ子供」の育成につながる授業実践を積み重ねてきました。
積み重ねてきた授業実践については,日々の学年会で話題にしたり,「授業実践報告会」を実施したりすることで,各学年部・特別支援部で推進してきた実践について情報共有を図りながら,より持続的・効果的に授業改善を推進することができるようにしました。本研究で取り組んだ実践の詳細については,各学年・特別支援部の実践事例として今後データベース化していきます。上部タブの各学年部・特別支援部のページをご覧ください。
「授業実践報告会」の様子
【引用・参考文献】
○ 文部科学省(2018)「小学校学習指導要領解説」(総則編及び各教科等編)
○ 奈須正裕・伏木久始(2023)「『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実を目指して」.北大路書房
○ 木村明憲(2023)「自己調整学習-主体的な学習者を育む方法と実践-」.明治図書
○ 田村学(2021)「学習評価」.東洋館出版社
○ 澤井陽介(2017)「授業の見方『主体的・対話的で深い学び』の授業改善」.東洋館出版社
○ 伊藤崇達(2009)「自己調整学習の成立過程-学習方略と動機づけの役割-」.北大路書房
○ 鹿児島県総合教育センター(2021)「調査研究発表会資料」
○ 国立教育政策研究所(2020)「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(各教科等編)」.東洋館出版社