原子分解能ホログラフィー入門

 原子配列の測定手法は数多くあります(下記「参考」)が、ここで紹介する「原子分解能ホログラフィー」は、新たな3D原子配列の観測手法です。特定の原子サイトを中心として、半径 2〜3 nm 以内の領域の、数100個の原子の立体構造を直接的に観測できるということが最大の特徴です。「完全結晶」だけでなく、「混晶」、「不純物含有結晶」、「結晶表面吸着原子」、「結晶界面」などの物質群を測定できます。これらの原子配列は、今までの手法では直接的に観測することが難しいものです。原子分解能ホログラフィーとしては複数の測定方法(下記)があり、放射光でも、実験室でも測定できます。

物質の機能発現の解明に有効

「母材料」に対して、少量の物質を添加して機能的な「新機能性材料」を作ることは、物性制御ではよく行われている方法です。新機能を発現する部分は、母結晶とは異なった原子配列を形成しています。原子分解能ホログラフィーは、この機能の発現に関わっている部分を選択的に観測することができるのです。

原子分解能ホログラフィーの種類

原子分解能ホログラフィーは、大きく分けて
(1)光波を使うもの: 蛍光X線ホログラフィー(大気中で実験可能)
(2)電子波を使うもの: 光電子ホログラフィー(真空中で実験)

に大別できます。下記のリンクには、それぞれのホログラフィーに関する紹介があります。

一般的なホログラフィーとの比較

 通常、普通の(モノクロ)写真撮影では、被写体からの反射光の強度だけを記録します。明るいか?暗いか?だけを記録した写真には「奥行き」の情報が欠落しています。対してホログラフィーでは、物体からの反射光(これを「物体波」と呼びます。)と物体に照射しない光(これを「参照光」と呼びます。)の干渉を記録します。記録したものをホログラムと呼びます。反射する位置によって、この干渉の具合が変化するので、ホログラムには「奥行き(光が反射した位置)」の情報が含まれています。後から適切な処理をすることによって「3次元像」を再生することができます。ホログラフィーでは、この物体波と参照波の干渉を記録することが重要です。

参考

今までの原子配列の代表的な測定法を以下に示します。単体もしくはこれらを組み合わせて、原子配列の「推定」が行われています。
透過型電子顕微鏡は「薄い試料」を作って測定します。「重元素」もしくは「原子の列が形成されていること」が必要です。原子配列の2次元的な投影像が得られます。
STM(走査型トンネル電子顕微鏡)は、物質表面の原子配列(正確には、電子雲)を測定することができます。内部の情報は分かりません。
XAFSは、注目する元素の最近接原子間距離や配位数などがわかります。基本的に1次元的な情報のみです。測定にはX線可変波長光源が必要なため、放射光で測定される場合が殆どです。どのような測定試料でも測定でき、応用範囲の広い手法です。学術界・産業界での基本物性研究や新物質探索・新機能性物質の開発等に利用されています。
X線回折は様々な測定法がありますが、単結晶構造解析では、立体的な原子配列を得ることができます。完全結晶が必要です。 無機物質から高分子やタンパク質の構造解析などに用いられています。