早いもので、年度末時期となりました。そろそろみなさんの学校でも、次年度に向けての具体的な作業が進みつつあるところではないでしょうか。羅臼高校でも、今年度の反省と次年度の戦略策定の作業を日々行っているところです。新たなスクールミッションも与えられ、これに合わせたスクールポリシーの見直し等も検討しているところです。
さて、教師になりたての頃、私は生徒会の主担当を任されました。大卒の新米教師にいきなり生徒会の全責任を背負わせるという、現在ではあまり考えられないような校内人事ですが😁、似たような経験はその後もあちこちの学校で多々味わってきました。転勤して行ってみたらいきなり担任だったとか、教科主任だったとか、やったことのない種目の部活動顧問だったとか、渉外の担当だったとかね。
そんな中、ある時先輩の先生からこう聞きました。「古屋さん、仕事ってのは段取り8割、中身は2割なんだよ。段取りがうまく行けば、ほとんど成功したも同然。〇〇先生は段取りのプロだから、困ったらアドバイスをもらうといいよ。どの仕事を誰に任せればうまく回るか教えてくれるから」と。
当時はそんなものかと思っていましたし、だいたいどこの学校へ転勤しても、似たようなことを言われてきました。とにかく少しでも早く「見える」ようにすることが大事、逆算のスケジュールで早め早めに動かし、仕事のできる人に少しでも早く根回ししておかないと大変なことになる、と刷り込まれてきたわけです。会議の場でも、なにかと言えば「見えない」という言葉が行き交っていました。要するにスピードばかりが重視され、中身は二の次、少しでも早くみんなに見えるようにアナウンスしないと学校は回らない、という論理です。
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私は以前から仕事が遅くなりがちな欠点を持っていて、とりあえずかじってみるということがとても苦手です。とりあえずかじってみる方法で過去にうまくいった試しがなく、先にゴールを設定してどの経路を通るかマップをよく見る作業をしないと仕事がうまくいかない、という経験をよくしてきました。とりあえずかじる仕事の仕方だと、「あれがいい」「これがいい」という周りのさまざまな意見に翻弄されて、自分の考えを持てなくなるのです。それに、最後まで行って初めて「失敗だった」と分かることもよくあるんです。行き先を確認しないまま旅に出るようなものであり、ちょうどゲームをするのに攻略サイトを多少見ないとうまく進められず、時間を浪費するのと似ています。
しかし、先に経路を見てから着手する方法はどうしても時間がかかってしまうので、待たされる側から見ると「こいつ仕事遅すぎ💢」という評価になります。自分の仕事には自分なりの基準やクオリティーの追求という要素があるものですが、それが相手にとって価値のないものであれば、結局どんなにいい仕事をしたと思っても自己満足に終わり、相手からも評価されません。つまり、結局は相手のニーズに合わせて「段取り8割」でやっている方が、評価も高くなりやすいんです。「中身よりも、まずは着手することが大事」などと聞かされることも多いですし、仕事の内容はともかくとして、とにかく着手が早い人が能力が高いという評価をされます。このように、学校業界では昔からずっと、段取り8割だったのだと思います。
しかし…。
本当にそれでいいんでしょうか。いつも相手のニーズに合わせてばかり、現場の同調圧力に屈した形の仕事で、果たして学校の改革ができるのか。素早く仕事をする人だけが有能だと言い切れるのか。時間がかかるけれどクオリティーが高く将来性のある仕事をする人は評価に値しないのか。スピードを重視するあまり、形式的で空っぽな結論に落ちてしまってはいないのか?
毎年変わらない機械的なルーティーン業務は別ですが、何かをやろうとしたときに、段取りを重視すればするほど前年度踏襲とか過去枠のままとかに陥り、学校が生まれ変われない大きな原因になると私は考えています。しかも、そういう学校に限って年度末反省では前年度踏襲が批判されたりして、本末転倒な状態になっていたりするんですよ。中身を十分に検討する時間も与えられず、仕事を回すことばかり優先して、どうやって前年度踏襲を打破できるのか。それは不可能だと私は思います。
そもそも学校現場でよく聞かれる、この「回す」という言葉も、正直嫌いです。回ってさえいればいいということになりますからね。そこにイノベーションは全く発生しません。ただ一方で、回っていかなければ学校が動かないのも事実です。つまり、回し方そのものを改革しなければならないわけです。それは従来の段取りという概念ではダメで、回し方の質を高めることが大事です。
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その切り札こそ、まさにDXだと言えます。DXにより、これまで手間のかかってきた「根回し」「段取り」「見える化」が、一瞬で捌けるようになりました。つまり時間が増えたわけです。これからは、増えた時間や余裕を何に使うかを真剣に考える必要があります。
次年度の計画を練る作業は、多くの学校で10月くらいから始まります。特に大規模校ではそれくらいから着手しないと、根回しの時間が足りません。しかし、10月段階で次年度の学校経営戦略がどの程度形になっているでしょうか?多分、その段階ではまだ校長の頭の中にしか存在せず、みんなで戦略を考えて方向性を見出すというところまでは行き着かないはずです。なのに、次年度計画はあれこれと立てなければならない。今年度の反省もまだちゃんと出ていない段階で、次年度の策を練るわけです。10月に中間反省会議というものを取り入れている学校が多いですが、業務の進捗状況を確認することしかできませんので、次年度策に直接つながることはほとんどありません。だから校長の認識と、教頭以下の認識にズレが生じ、校長は「こうすると決めたはずだ」と思い込み、教頭や先生方は「そんなこといつ決まったんだ?」となります。結局、校長の頭の中に描かれている次年度戦略を具体化するところまで行けないのです。
こういう外から見えない隠れた部分に、学校の病気の原因が潜んでいます。
この問題は、DXで簡単に解決できます。DXは時間を大量に生み出し、クリエイティブな仕事をするための余裕を私たちに与えてくれます。逆算スケジュールもそんなにタイトに考える必要がなく、年度末反省も別に年度末だけじゃなく日常的に細かく反省していけばいい。すると、たとえば冬休みとかに何かいいアイデアが閃いたとしても、次年度から実現できちゃったりします。根回し、段取りが不要になるのだから、かなりの余裕ができますよね。
羅臼高校では、今年度「事前調整の廃止」に重点的に取り組みました。正しく言えば廃止ではなく、「事前調整を一瞬で終わらせる方策の導入」です。調整そのものはするけれど、そのための会議はもう開かないし、意見の集約も全部クラウドで済ます。そこを徹底した結果、結局みなさん早く帰宅するようになり、笑顔も増えて、職員室から笑い声が聞こえるようになってきた。聞いていない、見えないということが無くなってきた。
それは明らかにDXがもたらしてくれた、働き方改革だと思っています。
もう、やめませんか。段取り8割。
R7(2025).2.7 北海道羅臼高等学校長 古屋順一