最初に私がイメージしているDX、働き方改革を述べておくと
  DX ~ デジタルを用いて業務内容や業務形態を根底から変える
  働き方改革 ~ 教職員が自分らしい理想的な働き方を主体的に選択し、それぞれの持ち味を120%発揮して学校を良くする
こんな感じです。では、DXと働き方改革は別々のものなのでしょうか。私は、この2つは一体化しているもの、もっと言えばほとんど同一のものと言ってしまってよいと思います。それはなぜか。
 例として、羅臼高校では現在「部長主任会議の廃止」を考えていて、すべてチャットに置き換えてしまうことを検討しています。これまで、部長主任会議は職員会議の前の事前調整の場として開かれ、校長が議題内容を把握し、必要に応じてバックデータを探す等にも生かされていました。部長主任の声を校長が直接聞くという意味合いもありますね。しかし、部長主任側から見れば、同じ説明を部長主任会議と職員会議の2回しなければなりませんし、部長主任会議の前までに会議資料を用意しなくてはならず、しかもそれを校長が事前決裁するから、決裁に耐えうるようなものを作らなければなりません。場合によっては校長からの議案差し戻しもあります。ですから部長主任って本当に会議前が大変なんですよ。つまり、職員会議にあたって①部会・学年会→②資料づくり(紙)→③校長の事前決裁(押印)→④部長主任会議→⑤職員会議(ここだけペーパーレス)、という5つのステップを踏むことになり、これが部長主任の負担を増やす最大の原因となっていたわけです。
  そこで羅臼高校ではこれを①部会・学年会→②資料づくり(PDF)→③チャット上で管理職に提示、管理職はチャット上で確認(リアクション)→④職員会議(①~④すべてがペーパーレス)、の4ステップにしようと考えています。特に③のチャット上でのやりとりに「事前決裁(確認)」「部長主任会議」の2役を担わせてしまい、対面での会議は職員会議のみ行うわけです。
この方式について、9月の定例職員会議で先生方に校長提案し、賛同を得られれば10月以降からこの形で会議を進めることにします【追記:10月から部長主任会議は廃止することになりました】。こうすることで、まず現れる効果が「部長主任を長時間拘束しない」こと。そして「会議直前まで改訂版を作成でき、改訂箇所の校長確認もチャット上で即時に可能」ということ。つまり、部長主任にとっても校長にとっても、圧倒的に負担が無くなります。さらに言うと、仮に部長主任から「中途半端な案」が出てきた場合でも、チャット上でキャッチボールしながら校長が一緒に案を磨き上げられるわけです。それどころか、むしろ中途半端な案からチャット上で完成形に仕上げる方が面白い可能性すらあるのです。その方が、校長の思いや考え方が部長主任に直接伝わるし、部長主任も自然に経営参画していることになる。昔は「校長に持って行く案は完璧に仕上げるのが当然。校長からの質問にすべて答えられるように根拠を用意しろ」としつこく言われたものです。中途半端な案を持って行くなど言語道断。あくまで校長は上の人。下々の人間は校長に不快感を与えてはいけない、とね。
そもそもそんな形式主義だからダメなんですよ。だから、学校はいつまでも変われない。そういう決め方をするから、校長の個人的な好みに左右され、学校組織が閉塞して時代錯誤な学校経営に陥るのです。校長にとっては満足でも、教頭や先生方は誰もついてこない。生徒のためにも地域のためにもならない。しかも校長が変わると昨年度やっていたことが根底からひっくり返ったりする。
  残念ながらこういうことが未だに多々あると思います。本当に学校の大病だと思います。
 DXも働き方改革も、校長はもはや特権的な立場ではないことは明らかです。教職員と対等に、同じ当事者であるというイメージで行かないと、結局「ペーパーレス化」程度しかできません。DXには遥か遠いところで終わっちゃう。
話を戻して、ではDXと働き方改革はなぜ「同一のようなもの」と言えるのか。それは、働き方改革をしようとするとDXは避けて通れないから、そしてDXをしようとすると結局働き方改革にならざるを得ないからです。上記に示したように、例えばチャットを使いこなすことによって部長主任の「発想の仕方」そのものが変革すると思うんです。従来のような「校長に説明するための議案づくり」から、「校長と一緒に経営を考えながらの議案づくり」に変わり、部長主任が学校の共同経営者のように成長する。そうなってくると、校長に指示されずとも部長主任自らが「次の一手」を考えるようになる。その結果、ミドルリーダーとして部長主任が一歩成長し、学校経営にも参画し、校長の独りよがりな判断・決定に陥らず、しかも圧倒的に時間削減ができてもっと面白いことに時間を費やせる。このレベルまで達すると、完全に「主体的に選択した業務」になっていますよね。DXから始まり、先生方の認識に変革が起こり、主体的に選択した道を歩けるようになる。つまり、DXと働き方改革は一本の線でつながっている、というわけです。
前回も書きましたが、従来型の業務にICTを取り入れて効率化する、ということは「中古住宅のリフォーム」に過ぎず、DXでも働き方改革でもありません。今やるべきことは「新築」です。土台から新しく作ってしまう。そして今まで見たことのない全く新しい建物を作ってしまう。
そうしないと、もう学校は生き残れませんよ。学びの場が学校しかなかった時代は、とっくに終わっているのですから。
R6(2024).8.23 北海道羅臼高等学校長 古屋順一