みなさま、お盆が過ぎ夏休みが明け、季節はそろそろ秋へと向かいますがいかがお過ごしでしょうか。ここ羅臼町は道内でも非常に冷涼な地域で、最高気温30℃の日が片手で数えるほどしかありませんでした。一方最低気温はすでに15℃前後であり、下手をすると朝晩はストーブが必要になりそうなくらいの寒さです。したがって、学校でも熱中症対応というのは非常に少なく、今年度配備されたスポットクーラーでも十分な冷房効果があります。ただおそらく、羅臼生まれ羅臼育ちの子どもたちは暑さに弱い可能性があり、WBGT31の基準では厳しいかもしれませんね。
さて、現在羅臼高校ではいろいろなDXを同時多発的に進めておりますが、その中のひとつとして重要な位置を占めている地域DXについて、私なりの考えを述べようと思います。
羅臼町では長年「幼小中高一貫教育」が行われています。3歳から18歳までの15年間、「知床学」を核とした羅臼町独自の学びにより、子どもたちは知床半島をとりまく自然、社会、産業、歴史、文化などを長期的かつ多面的に学びます。これは、持続可能な社会(地域)の担い手を育てる、という羅臼町の願いが込められているもので、羅臼の教育を最も特徴づける素晴らしい実践です。高校業界では中高一貫教育がスタンダードですが、幼稚園から高校までの一貫教育というのは全国的に見ても非常に珍しいのではないでしょうか。小さな町だからこそ実現できる、価値のある学びだと思います。羅臼高校はその最終仕上げ段階を担っており、学術的にも社会学習的にも深みのある探究的な学びを展開しています。
しかしながら、実際の運営においては校種の壁のようなものも少なからずあり、情報共有の不十分さから来る非効率な状況なども見られます。ともすれば形骸化しかねないという課題があり、実際一部は形骸化しつつあるのが実情です。これを何とかできないだろうか?という思いから考えたのが「地域(校種間)DX」です。具体的には、羅臼町教育委員会が保有するrausu.ed.jpと、道立学校のhokkaido-c.ed.jpをドメイン間連携させ、GWSどうしを接続できないか、というプランです。今のところ、さまざまな観点からまだ接続できるかどうかは未定なのですが、利便性と安全性をうまく両立する方法を考えて、何とか進めようと目論んでいます。羅臼小学校に素晴らしいICTリーダー教諭がいますので、この先生と私とで手を組み、町全体を動かすべく今後具体的な一歩を踏み出す予定です。
地域DXで目指すべきものは何か。思うに、結局は「まちづくり」なのだと思います。羅臼で生まれ、3歳から知床学を学び始め、18歳で完結する。こんな長いスパンの学びって、他にないと思うんですよね。羅臼に関する学びは、すべて知床学の中に位置付けされており、単に知識的な学びというのではなく、生活体験とか実感を伴うような学びなのです。これって、要するに探究ですよね。羅臼では、わざわざ探究という枠組みを作らなくても、そもそも3歳から探究学習をスタートし高校まで繋がっている。ここが、他地区と大きく異なる部分なのです。この探究の中に、ふるさとへの思いとか回帰といった要素も当然含まれてきます。高校を巣立つ子のうち、何人かが羅臼に残ってくれて、次の担い手になる。そこで初めて、長年学んだ知床学を社会還元できるスタートラインに立つ。だから、知床学というのはただの勉強ではないのです。羅臼の子たちの「人生設計そのもの」と言っても過言ではありませんし、羅臼町という地域に「血」をめぐらせる、一種の生業のような意味もあると思います。
これだけ価値のある教育を、絶対に形骸化させてはなりません。となると、一刻も早くGWSを使って町内の教育関係を片っ端からDXで改革すべきであり、幼小中高それぞれが自分の手持ち情報を共有し、関係者全員がもっと強く知床学の価値を認識しながら「羅臼でしかできない教育」を形成する必要があると思います。すでに長年行われてきた実践が素晴らしいのだから、ここをDXで改革することでさらに圧倒的な面白い学びを子どもたちに提供できるはずで、それがひいては羅臼町の子育て環境をも改善できると私は信じています。高校だけ単独で教育改善を考えても意味が無い。地元の教育関係者がすべてつながって、全員で超強力なタッグを組むことで、大きな力を生み出せるはずです。
校種間DXが進むことにより教育の中身が改善され、最終的には教育のブランディングにつながることが期待されるのです。教育に付加価値みたいなものをくっつけるのは賛否両論があるでしょう。しかし今、少子高齢化で学校の存続が危ぶまれる時代となり、全国を見渡せば、先進校と呼ばれる学校はだいたいどこも自治体と学校が手を組んでブランディングしている。羅臼町でもそこを狙うことが十分に可能であり、北海道ではまだ例の少ない付加価値の高い教育環境を作れそうなのです。世界自然遺産の町ですからね。きちんとやれば必ず、他にはない価値を教育の中に見いだせると思います。
校務DX、学びのDXという2つの柱がありますが、結局はすべて1つの大きな柱にまとまっていくはずです。地域DXもそこにくっついてくる。DXを進めるのに本当に必要なのはデジタルなスキルではなく、「人の思い」なんだろうと思います。人の思いをどうデジタルで実現するか。そこにDXの醍醐味があります。幸い、文部科学省のリーディングDXスクールがさまざまな実践を紹介してくれていますので、わざわざ遠方まで視察に行かなくても十分学べます。道教委もDXを強力にバックアップしてくれている。まさに今がDXの旬。いつやるの?今でしょ、という状況なのです。
さあみなさん、やっちゃいましょうDX!何も恐れることはありませんよ。失敗してナンボですから。
羅臼高校の取組は失敗も含めてすべてここで紹介します。同じような取組を全道のあちこちで進めて、お互いに失敗を共有しながら精度を上げていこうじゃありませんか。
R6(2024).8.20 北海道羅臼高等学校長 古屋順一