ペーパーレスという言葉を聞いて、久しくなりますね。もうずいぶん前から学校業界でもペーパーレスが言われ続けています。しかし、転勤のたびにまず最初にする仕事が、ほとんど見ることもない変色した古いペーパー資料の廃棄。本当に、どの学校へ行っても必ずこの作業があります。今は通知文書はだいたいメールで送られてくるので、メール本文やその添付データは、デジタルのまま保管されます。つまり、ひとつの文書を電子データと紙の2通りの方法で保管しているというわけです。こういう部分が、まさにザ・学校だと思います。電子データでの保存がとても便利だと分かっているけれど、それでも紙をやめられない。「もしもの時に紙の方が頼りになる」という感覚が、令和の今に至ってもまだ根強く残っています。
 私はもともとミニマリストっぽいところがあり、不要物はどんどん断捨離してしまう人間です。とにかく学校現場の「紙」には、本当に嫌気がさしています。なぜこんなに紙だらけなのでしょうか。
多分、日本人にとって紙というのは文化であり、心の拠り所みたいな存在なのでしょう。それは理解できますし、悪くはないと思います。しかし、仕事に関しては紙であるが故の不都合がたくさんあり、紙で良かったと思うことよりも、データで良かったと思うことの方が圧倒的に私は多いです。データの方がずっと後まできちんと残ってくれる。紙はそもそも劣化しますからね。茶ばんだ紙にも味わいはありますが、それは趣味の分野だけでいいと思います。ビジネスにおいて、茶ばんだ紙に頼る業務形態というのはどうなのか。仮にそこに日本的情緒があるのだとしたら、私は排除する考え方です。仕事をするのに情緒はほとんど不要だと思います。それによって業務効率が上がらず担当者の負担が減らないのだとしたら、仕事には邪魔ですよね。
結局は感じ方の問題なんですよね。押印した紙資料がファイルに時系列に閉じられて、書棚に保管されている。棚にきれいに並んだファイルが視界に入ることで安心感がもたらされる。多分、それだけのことなんですよ。それだけのために、わざわざ手間をかけお金をかけて、担当者に負担を強いてまでして紙にこだわる。だから肝心なところでペーパーレスが一向に進まない。そして結局DXも進まないのです。これによる損失がどれだけのものか、算出すると面白いかもしれません。
学校では会議資料のPDF化は割とどこでも行われており、場合によってはこれをDXと呼んでいるケースもあり得ます。しかし、会議資料をPDFにする本質的なメリットは何か、というところにほとんど光が当たっていません。多分、紙の節約や配付の手間の削減ということくらいにしか、着目されていない。使うメディアが紙から端末画面に変わるというだけで、その電子データを作成するプロセス(立案や合議、決裁)では紙のままだったりします。つまり、最後の会議本番だけがペーパーレスで、それ以前の準備段階はペーパーのまま、というわけです。これは、DXであるとは全く言えません。
 DXとは、作業プロセス自体をデジタルで変革することを意味します。会議の準備段階をすべてペーパーレスにして、オンラインで意思決定し、最後まで1枚も紙を使わない、というくらいまでやり切らないとDXにはなりません。
 羅臼高校ではチャット決裁を導入してプロセス段階を完全ペーパーレス化したことにより、「小さなことが激変」しつつあります。大きなことじゃないんですよ。小さなこと。しかし、小さなことが激変すると必ず仕事全体が新しい方向へと転がり始めます。結果として出力されるものもDXの範疇ではあるのですが、プロセスにおける小さな激変こそが最後には大変革(トランスフォーメーション)をもたらす力を持つはずなんです。私はそのことにこだわって羅臼高校のDXを進めているつもりなのですが、今後はその小さな激変の「激変幅」をもっと大きくして、「小さいけど大激変」レベルにまで高めようと画策しています。そのためには、ゼロベースの発想だったり、今までの常識では全く考えられないようなワークフローであったり、そういうものを生み出す必要があります。
生徒に探究させたり学びのDXを体験させようとしているのに、教職員側が「紙資料に押印して綴じて棚に保管」なんてことをやっていていいんでしょうか?まずいですよね。だから、校務DXが急がれる。校務がDXしていないのに、生徒の学びのDXを進められるはずがなく、さらに校務DXと学びのDXは一緒に進めていくべきものだと思います。それぞれ別系統で考えても互いのメリットやデメリットの共有ができず、結局デジタル化で留まります。全部を一体的に、同時多発的にやっちゃうという作戦がDXには欠かせないですね。
ペーパーレスはDXの第一歩であると言ってよいと思いますが、それは最後の結果部分だけではなく、最初から最後まで全部をペーパーゼロで進める、という意味で考えるべきです。
R6(2024).7.24 北海道羅臼高等学校長 古屋順一