みなさん、「インターネット100校(新100校)プロジェクト」って聞いたことありますか?平成7~10年度に当時の通産省・文部省が共同で実施した教育現場でのインターネット活用に関する研究です。日本国内での商用インターネットプロバイダは、1993年のIIJ(インターネットイニシアティブジャパン)による接続サービス開始からスタートしました。つまり平成5年です。ここからわずか2年後の平成7年に、教育の世界にインターネットを導入する研究が開始していたわけです。北海道からは小学校1校、中学校1校、小中学校1校、高校1校の4校がこのプロジェクトに参加していました。この高校とは当時の旭川凌雲高校(現在の旭川永嶺高校)で、実は私も平成8年に凌雲高校に視察に行きました。インターネットとは何ぞや?という時代に、想像を遙かに超える先進的な取組が凌雲高校で行われていました。そこで特に印象に残ったのが「生徒の自律的意見交換」でした。当時はまだGWSのようなプラットフォームはなく、メーリングリストを使って全国の高校生たちが学校の枠を超えたコミュニケーションをとり、意見交換をしていくというものです。具体的には参加する各学校に「コア生徒」「コア教師」を設定し、ここを中心にメーリングリストの運営を行いながら、校内および校外の生徒(教師)とさまざまな意見交換をしていくという形で、ネットでのつながりのほかに「ネットワークリーダーズキャンプ(いわゆるオフラインミーティング)」も開催されていました。メーリングリストでの発言の仕方や、他人への配慮、議論の方向性のコントロールなど、当時の高校生たちはさまざまな失敗をしながらも適切なネットワークコミュニケーションを学びとり、オフラインでも対面しながら多くの人との対話を経験したのでした。
メーリングリスト自体が今や過去の遺物となっていますが、上記のようなインターネット黎明期にすでにコミュニケーションに関する学びが研究されてきたわけです。クラウド、DX時代の今、私はむしろこの100校プロジェクトの頃の考え方に今一度立ち戻って、「生徒の自律的な活動・学び」という観点で学びのDXを進められないか、と考えております。ともすれば、学びのDXは「先生が考えた方法でタブレットを使って、あらかじめ決められたルールでクラウドを活用する」という方法になりがちです。しかしここで発想を変えて、「どういうタブレットの使い方をすると、自分たちの学びが完結するか」ということを生徒自身に考えさせてみる。しかも、他校と連携して生徒DXコミュニティを作り、そこで自律的に議論させる。そんな学ばせ方ができないだろうかと、日々校長室で悶々としているわけです。手段は違うけれど、スピリットとしては100校プロジェクトとそんなに変わりません。しかもDX時代の今の方が、当時よりもずっと簡単にコミュニティを作ることができます。ただ、100校プロジェクトの反省の中には「生徒は思った以上に何も始めない」という言葉も見られます。つまり、教師は生徒を少しつついて、何かを生み出したくなるように仕向けることが大事なわけです。これはDXに限ったことではなく、学校での学習活動すべてに言えることですよね。学びのDXに関しては、与えられたDXから自律的(自発的)なDXへの転換を図っていかないと、すぐに時代遅れになってしまう危険があります。
よく高校の現場では「好事例はどこかにないか?」という考え方が出てきます。確かに、先を行く学校で成功している事例を参考にすることは有効なことではあります。しかし私は、事例を探す前にまず自分で試行錯誤して苦しむことが不可欠だと考えており、羅臼高校においても先進事例を横目で見つつ、独自の考え方やスタイルを生み出すことにこだわりを持っています。それがもしうまくいかなければ、そこで好事例から学んで改善していけばいいわけです。最初から好事例の真似をしようとすると、結局定着しないんですよ。だって、他校の実践ですから笑。そっくりそのまま自分の学校に当てはまるはずがありません。好事例を参考にする前にまず自分で汗を流してやってみて、失敗をたくさんした方がいいのです。その先に、自律的DXが成り立っていくものだと思います。事例を参考にしている段階では、まだまだ自律的とは言えません。それは与えられたDXに留まっています。
今日(7/23)、教頭先生が町内教頭会に出てきて、こんな話を聞いたそうです。「夏季休業中の職員動静表をスプレッドシートで作ろうとしたんだけれど、『職員一人ひとりの滞在場所、電話番号、滞在目的、どの部活動を何時から何時まで指導するか、などをすべて調べて校長に報告せよ』と命じる校長がいまだに世の中(注:羅臼町ではありません)に存在し、そういう校長のせいでDXが全く進まない」。そして私に「校長先生がいつも言う『KX』がなぜ必要なのか、今日よく分かりました!」と笑顔で伝えてきました。本当に、いまだに校長がこういう感覚だったりするわけで、困った話だなと思います。こういう現実に風穴を開けるためにDXを進めるという見方も、大切なことかもしれませんね。
R6(2024).7.23 北海道羅臼高等学校長 古屋順一