学校でもDXを盛んに進めている今日このごろですが、たとえばチャットは若い世代ほど「あまり書かない」と言われます。私の家族(私・妻・長男25歳・長女21歳)のうち、妻と娘は札幌の自宅にいますが、私は羅臼、息子は東京でなかなか会えないため、ふだんはLINEグループチャットで連絡を取り合っています。日中、自宅は無人になるため、小さな愛犬の様子を確認するためのWebカメラ(見守りカメラ)を居間の床に置いています。スマホの専用アプリからカメラを操作すると、アングルを変えたりこちらの声を内蔵スピーカーから鳴らすことができます。うちの犬はそれにすっかり慣れており、カメラ越しに声をかけるとカメラの前にのこのこやってきて、ペロリとカメラを舐めたりします。
そんな、犬までをも巻き込んだ「家庭DX」を実践しているところですが、うちの子供たちはそれほど書き込みをしません。妻もあまりしない。ひたすら無駄にせっせと書き込んでいるのは私なんです。家族は、それに「へぇ~」程度の冷めたリアクションをしてきます。こちらが一生懸命伝えようとすればするほど「へぇ~」率が上がる。そんな感触があります。
では妻や子供たちが何を書くのかというと、妻は「ひとり買い物中~いいでしょ~( ̄∇ ̄)」、息子は「育ててた豆苗、ねこ🐈に食べられた💢」、娘は「パパ、次帰ってくるとき、仕事帰りの迎えに来てほしい~🚙」。しょせん、そんなものなんですよ笑。各自が好き勝手に自分の状況を語っている。チャットって、だいたいそういう感じで使われることが多いんです。
おそらく、生徒も若い先生も同じで、チャットは「軽い会話・連絡」程度にしか使わないのではないか、と私は見ています。そこへ来て、「DXの切り札はチャットだ!!」と私たちアラフィフ・アラ還世代が鼻息を荒くしても、多分空回りしてしまう。実はこれが校務DXを進める上で、想像以上に障壁となる可能性がある、と見ています。せっかくチャットで働き方改革をしようとしても、それを強調し過ぎるとみんな拒絶反応を示すかもしれません。それでペーパー仕事に戻ったら、元も子もありません。そうならないよう、チャット導入には気をつけるべき点があります。
大切なのは「このチャットは〇〇のためのものなので、それ用に使ってください」という説明です。ここを明確にしておかないと、何を書いていいのか(書いてはいけないのか)が分からず、誰も使わないという悲劇が起こります。したがって、チャットを立ち上げる以前にまず「何のニーズがあってチャットが必要なのか」をはっきりさせなければなりません。羅臼高校の場合、日常のやりとりの簡略化はもちろん、「校長決裁が教職員の業務を圧迫し負担を増やす大きな要因である」という考え方のもと、いかに決裁の手続きを簡便なものにするかというのがチャット導入テーマのひとつでした。このように、何を目指したいのか明確になっていれば、みんなからの理解は簡単に得られるはずです。
もうひとつの視点として、DXの担い手の育成という課題があります。私はいつまでも羅臼高校DXの牽引役をするつもりはなく、ある段階が来たらICTリーダーの教員にこの役を譲って、そのリーダーに選択や判断を委ねようと考えています。もちろん経営的視点の部分で校長判断が入るのは当然なのですが、校長がいつまでもネタを考えていては結局誰も育たないんですよね。私の戦略としては、羅臼高校のDXで鍛えられた教職員がよその学校へ行ったときに、羅高DXスピリットをその学校の業務改善に少しでも生かせるようになって欲しい、という願いがあるのです。そのためには、指示待ちではダメで、教職員がどんどん新しい価値を創出するレベルにならないと本物ではありません。これはDXに限りませんが、そもそも学校づくりの担い手は校長ではなく教職員であって、校長のアイデアでいつまでも引っ張る経営をすると、結局次の校長で立ち消えになります。そうならないよう、価値を生み出す主体が教職員となるように仕向けることが大切だと思います。
何をするとDXになるのか。この視点を教職員に持ってもらい、それぞれの持ち味で「味付け」したDXをどんどん増やしたいものです。そういう教職員を育てるのも、私の仕事であります。そして、それは生徒にも言える。どうすれば「DXer」生徒を育てられるか。DXで生徒に変革を味わわせることで終わるのではなく、その生徒がいずれDXリーダーになっていく可能性までを含めて、教育内容を戦略的に描くことも必要だと思っています。「DXで、DXを学ばせる」。そんな軸も見出したいですね。
DXの面白さは、古くさいお作法がなく、お金をかけずに誰でもどんどんアイデアを形にできるということ。私たち50代後半の老い先短い管理職がごちゃごちゃしない方がいい。校長は火付け役にとどまり、建物をたてる仕事は若い世代に任せることが肝要です。
R6(2024).7.11 北海道羅臼高等学校長 古屋順一