私は令和6年4月1日付で羅臼高校に着任した、新米校長です(いわゆる採用校長)。校長としては初心者で、まだ何も分かっていません。ですから、ある意味怖いもの知らずのまま、いろいろな新しいことをしています。もしかしたら、笑われるようなことをしているのかもしれませんが、みなさまからの暖かい目で見守られていると信じて、今後も面白い学校づくりを追求したいです。
羅臼高校では、まず校務DXを始めました。その根底にある私の考え方は「校長のあり方改革」です。「校長への耳打ちの廃止(ホウレンソウ改革)」「教頭は校長の意を体する仕事、という考え方の排除」「報告待ちの校長の排除」「会議資料の事前決裁の廃止」「校長自らが心理的安全性のシンボルとなる」「校長は肩書きで仕事をせず、役割で仕事をする」といったことを基本にして、教頭や先生方の業務を改革しようとしています。
あまり書きすぎると世の中の先輩諸氏を敵に回しそうですが笑、たとえば教頭の働き方改革を考えようとするときに、一番ネックになるのが「校長の存在」なんです。どんなに校長が気遣いをしても、教頭や副校長にとって最大のストレス要因は校長です。これは構造上致し方ないですよね。しかし、致し方ないからこそ、まずメスを入れるべき部分は校長の考え方や態度だと私は思っています。「教頭に〇〇させる」という考え方は、私は大嫌いです。教頭も事務長も、自分と運命を共にしてくれる仲間であり、重要なブレーンです。自分にはないものを持った、最大の協力者です。だから大切にしたい。教頭や事務長が自分と意見が違うのは当然であり、むしろ校長である自分に考え方の偏りや誤りがあるかもしれないわけです。校長がすべてではない。
厳しい言い方になりますが、教頭のなり手がいない問題の背景には、校長のあり方問題があると私は思います。ネットには「中間管理職は罰ゲームだ」という言葉すら並んでいます。学校業界でも同じで、校長が意識改革しない限り、今後も教頭候補者は増えません。
たとえば会議資料の事前決裁の廃止の裏には、私自身が教頭時代に先生方からよく聞かされた「会議の前に校長決裁をされては、会議の意味がない」という言葉があります。校長から見れば、事前確認をしましたよ、という意味での押印かもしれません。しかし、そこに押印することで「決裁」という体になる。そもそも、事前決裁をしたいのならば職員会議は不要ですよね。その矛盾を先生方はみんな言葉にこそ出さないけれど感じていて、とはいえ校長が言っているのだから仕方ないという「やりにくい状況」となっており、そして教頭に愚痴をこぼすわけです。「これって何のための会議なんですか?」と。教頭も、事前決裁に耐えうる会議資料を持って行かないと校長に叱られるから、担当者には一字一句ミスのない資料づくりをさせなければならなくなる。少しの形式的なミスでも、大事故につながりかねないと言って、すぐに差し戻す校長が世の中には存在します。つまり、校長都合で学校運営しようとするから担当の先生の負担を増やし、巡り巡って結局教頭を苦しめるのです。そんなやりとりに、学校経営上何の価値があるのでしょうか。単なる時間の無駄、そして学校がブラック化する原因を作るだけです。細かすぎる校長の姿勢がピリピリとした現場の空気を生み出し、かえって重大な事故が起こる要因になるのではないでしょうか。しかも働き方改革にも逆行する。校長の意識改革は喫緊の課題です。
羅臼高校では6月の職員会議からチャット上での資料事前確認を導入しましたが、全く問題なくスムーズにできています。むしろメリットだらけで、紙は全く不使用、細かい修正の指示もチャット上で済む、出先からでも確認が可能、など校務運営を大幅に簡略化できました。このチャットは教職員全員が閲覧できるようにしているので、もっと進めばチャット上ですべて事が済んでしまい、部長主任会議自体を廃止できるかもしれません【追記:10月から部長主任会議を廃止することが決定しました】。もし定例職員会議に向けての事前調整のための部長主任会議が不要となれば、部長主任会議の枠組みは別の議論に転用もできます。たとえば将来構想検討など委員会をわざわざ立ち上げずに、部長主任会議で担うこともできます。校長の意識をちょっと変えるだけで組織改革が進み、みんなの負担を劇的に減らすことができると私は確信しています。
5月の全道校長会の場で、私は何人かの校長先生にチャット利用の話をしてみました。しかし多くは「それは不安じゃない?押印したペーパーが残らないと、把握できなくなるのでは?」という反応でし た。それは分かるのですが、ペーパーのような「実物」主義でやろうとすると、負担がただただ増えるだけなんです。「不安だからやらない・できない・やるべきではない」理論でいくと、たとえば「マスターキーを持ち歩くのは不安だから常に金庫に保管する」みたいな話になるわけです。こういった部分の感覚をどう変えていけるかが、DX を進めるにあたってまず最初に課題となることだと私は思います。
「電話は丁寧だがメールは失礼」という考え方が根強くあります。私は実はメール派で、電話の方が相手に迷惑をかけるとずっと前から思っています。しかしまだまだ、教育業界は電話社会ですよね。なかなか慣習というものは変わらない。これと似たような話で、教頭は何か情報をつかんだら速攻で校長室へ行き、校長の耳に情報を入れるべきという慣習があります。教頭から校長への連絡は校長室で対面で行うのが礼儀だという考え方。私に言わせれば、そんなことをさせるから教頭の激務が一向に減らないわけです。そこで羅臼高校では4月早々に「管理職チャット」を動かし始めました。教頭には「いちいち校長室になんか来ないで、職員室で先生方と楽しく語り合って欲しい」と伝えました。校長への伝達はチャットの方が速く正確で、しかも教頭の時間を邪魔しないのです。全て対面でなければ伝わらない、というのは、校長と教頭間のコミュニケーションに何らかの問題をはらんでいるということです。信頼関係がきちんとできていれば、デジタルだろうがアナログだろうが全く関係ありません。ならば、デジタルの方が圧倒的に相手に迷惑をかけないと思います。
ほかにも羅臼高校で地味に進めていることがあります。それは「校長室のデジタル化」です。私のいる校長室には、小さなブラウン管テレビ(外付け地デジチューナー付き)、パソコンのないパソコンデスク(作業用?)、使えなくなった古い校内LANの配線といったものがありました。これらをすべて撤去し、新たに私の自宅で使っていたちょっと古いSHARP製40型液晶テレビ(HDMI端子付き)、システムエンジニアの息子が以前在宅テレワークで使っていた、お下がりのI-O Data製デスクアーム付き21型ディスプレイ、自分の子供たちの記録写真を残すために20年ほど前に買ったちょっと古いデジタル一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss Digital N)を持ち込みました。40型テレビと机上のノートPCを10mのHDMIケーブルでつないで来校者にいつでもプレゼンできる環境を作り、自分の仕事は拡張ディスプレイで効率化。さらに生徒が何か面白いことをやっていそうなとき、カメラを持ってすぐに現場に直行。こんな感じで、昭和っぽい校長室をリノベーションしてみました。校長室に大型テレビがあると、プレゼンの練習にも使えて便利ですよ。おすすめです。
R6(2024).7.8 北海道羅臼高等学校長 古屋順一