学会参戦記 #1 濵渦康範先生【前編】

学会参戦記

ICPH2019 - The 9th International Conference on Polyphenols and Health

信州大学農学部 准教授 濵渦康範

【前編】

11月28日から12月1日まで神戸国際会議場で開催された第9回「ポリフェノールと健康国際会議」(The 9th International Conference on Polyphenols and Health,ICPH2019)に参加した。本国際会議は,第7回国際フードファクター会議(ICoFF2019)および第12回国際機能性食品学会(ISNFF2019)との合同開催となる会期1週間 "Food Factor Week in Kobe" のうちの前半に開催され,500人以上の参加により盛会のうちに終了した。合同開催組織委員会委員長は昨年度に信州機能性食品開発研究会でもご講演いただいた芦田 均先生(神戸大学大学院 教授)である。

筆者がICPHに参加したのは2007年に京都で開催された第3回大会以来,2回目である。今回の第9回大会まで12年を経ているため当然ではあるが,レクチャーや研究発表全体を通じてポリフェノール研究の大きな変革が見てとれた。12年前においても既に「“抗酸化の時代”は終わった」ことを著名な先生方が強調していた(ポリフェノールは生体内で抗酸化物として機能しているのではない旨)が,その一方で「抗酸化」や「酸化ストレス」のセッションも当時は大きな比率を占めていた。しかし,今大会では「抗酸化」という言葉さえほとんど見かけることがなかった。変わって全体の空気を支配していたのは腸内微生物とそれらの働きで分解・改変されたポリフェノール代謝物の構造と機能,およびセルシグナリングなど情報伝達への作用を中心とした機能評価であった。

芦田先生による開会挨拶

寺尾純二先生(甲南女子大学)がオープニングレクチャーの中で,今後の機能性食品因子としてポリフェノールを研究するに当たっての方向性としてまとめられていたことは,1) ポリフェノールの機能発現部位としての消化管の再評価(脳-消化管相互作用をも含めた腸管上皮細胞と腸内微生物の影響),2) 標的部位におけるポリフェノールの代謝改変の重要性(抱合化および脱抱合化のサイクル),3) ポリフェノールの細胞への取り込みおよび細胞内分配(オルガネラにおける蓄積と排出),4) ポリフェノールの生理的機能に及ぼす食品マトリクスの影響(バイオアベイラビリティの調節),であった。

また,フランスのManach博士(INRA,ヒト栄養学ユニット)は,ポリフェノールを含めた全てのフィトケミカルの代謝物を非標的メタボロミクスの技術で網羅的に解析することにより,あまり研究対象にされていないフィトケミカル由来の代謝物情報も収得しながら,個々人が実際にどの程度フィトケミカル代謝物に曝露されているかを評価するための研究を紹介した。おそらく,今後は,どのような食品を摂取すればどのような代謝物が循環系を巡り,また,どのような代謝物に曝露されればどのような健康状態に至るのかを解明するためのビッグデータが蓄積されるものと思われる。ポリフェノール一つとっても摂取後のADME(吸収,分配,代謝,排泄)や,代謝物の種類や量は個人差が非常に大きいことが分かっており,今後の,個人対応栄養学に必須の情報源になるものと感じられた。

Opening Lecture 2 (Claudine Manach博士)

後編へ続く)