Research

研究テーマ  Research Subjects

 1) 幹細胞研究を基軸とした難治性疾患の病態解明と根本治療薬の創製

 2) 臓器間ネットワークと生体ホメオスタシスに関する研究 

1)がん幹細胞を標的とした革新的抗がん剤創製に関する研究

 「がん幹細胞」は、がんの親玉のような役割を担っており、腫瘍全体を作り出しています。蜂に例えると、「がん幹細胞」は女王バチで、「がん細胞」は働きバチと言えます。「がん幹細胞」は、抗がん剤や放射線に対して治療抵抗性を持つことが知られています。したがって、「がん幹細胞」を制圧することができれば、「がんの根治」が期待できます。

私たちは、「血液のがんである白血病」、「難治性の脳腫瘍(グリオブラストーマ)」、「骨肉腫」などに着目しており、がんのモデル動物、モデル細胞、臨床検体を活用しながら、「がんの根治」を目指し、「がん幹細胞」を標的とした革新的な抗がん剤の開発を進めています。

最近私たちは、バイオインフォマティクス解析を駆使したデータ駆動型サイエンスの実践により、「がん幹細胞」に発現するリン酸化酵素CDK8(Oncogene 2021)・Erk5(Cancer Res. Commun. 2023)、タンパク質分解酵素Smurf2(Commun. Biol. 2022)などが「がん幹細胞」の機能を制御していることを発見し、その詳細な分子メカニズムを明らかにするとともに、これらの因子・シグナルがグオブラストーマ治療における有望な創薬ターゲットとなることを明らかにしました。

さらに私たちは、アンメットメディカルニーズ解消を目指し、様々な難治性がんに対する「がんの根治」を指向したがん幹細胞標的薬の創製を進めています。

2)間葉系幹細胞を標的とした難治性骨系統疾患に対する

根本治療薬創製に関する研究

 「間葉系幹細胞」は、骨軟骨組織において骨芽細胞(骨形成を担う細胞)や軟骨細胞(軟骨を構成する細胞)の供給源であり、さらにニッチ細胞として血液細胞の機能調節にも関与することが知られています。

私たちは、軟骨無形成症、進行性骨化性線維異形成症、思春期特発性側弯症のような難治性骨系統疾患に対する新規創薬標的の同定と根本治療薬創製を目指して、間葉系幹細胞や分化細胞の機能調節に関与する因子の探索を行っています。転写制御因子Runx2(Genes Dev. 2006Development 2016)・ATFファミリー(J. Exp. Med. 2011J. Pathol. 2016)、リン酸化酵素Erk5(Development 2018Stem Cells 2022)・mTOR(Stem Cell Reports 2018)・CKD8(Stem Cell Reports 2022)、アミノ酸トランスポーターLAT1(J. Cell. Physiol. 2022)などが、間葉系幹細胞や分化細胞の機能調節を介して、骨軟骨組織の恒常性維持に重要であることを明らかにしてきました。

現在私たちは、これらの基礎研究の成果を基盤として、トランスレーショナルリサーチを展開し、難治性骨系統疾患に対する根本的治療薬の開発を目指して研究を進めています。

 3)骨組織を基軸とした臓器連関による全身恒常性維持機構の解明研究

 「骨」は私たちの体を支える重要な臓器であり、骨の健康が健康長寿に必須であることは周知の事実です。

これまでに私たちは、骨の代謝(骨形成と骨吸収)にとって重要な様々な因子を同定してきました(J. Exp. Med. 2011Cell 2015Sci. Signal. 2019JCI insight 2023)。さらに私たちは、骨組織が生体の恒常性維持(特に糖代謝調節)においてとても重要であることを発見しました。具体的には、骨組織から分泌されるオステオカルシンが、膵臓β細胞からのインスリン分泌を促進させることを明らかにしました(Cell 2007 PNAS 2008)。すなわち、骨組織が糖代謝を内分泌作用により調節することを解明し、「骨は内分泌臓器である」という斬新な概念を提唱しました(J. Cell Biol. 2008J. Clin. Invest. 2009)。血糖値は脂肪組織、肝臓、筋肉あるいは膵臓などの特定の臓器間連携で調節されると考えられてきましたが、私たちの成果は、骨組織が内分泌器官として生体の糖代謝を制御するという画期的内容です。

現在は、私たちが提唱している「骨は内分泌臓器である」という概念を確固たるものにするため、薬理学的あるいは遺伝学的研究手法を含む様々な研究手法を活用し日々研究をしています。

4)運動器疾患に対する予防効果をもつ機能性素材の開発研究

 「変形性膝関節症」は、加齢や肥満などによる膝関節への過度な負荷などにより、関節部の炎症や変形を生じて痛みや腫れなどが起こる病気です。「骨粗鬆症」は、閉経や加齢などにより骨形成と骨吸収のバランスが崩れることによって骨の構造や強度が低下して骨折しやすくなる病気です。これらの運動器疾患は、ロコモティブシンドロームの主要因であり、健康寿命と平均寿命の乖離の大きな原因の一つとなっています。

私たちはこれまでに、疾患モデルマウスや細胞を用いて、これらの運動器疾患に対して予防効果をもつ機能性素材の開発を進めてきました。例えば、国産果実のウンシュウミカンに豊富に含まれるβ-クリプトキサンチン(J. Pharmacol. Sci. 2015Biol. Pharm. Bull. 2017)、梅やにんにくに豊富に含まれるピルビン酸(BBRC 2002Mol. Pharmacol. 2006)、あるいは納豆や味噌、シイタケなどに豊富に含まれるポリアミン(Br. J. Pharmacol. 2012J. Pharmacol. Sci. 2012)、虚弱体質改善に用いられる漢方の補中益気湯(J. Pharmacol. Sci. 2021)、働きバチがつくりだすロイヤルゼリー(Biol. Pharm. Bull. 2023)などがこれらの運動器疾患に対して予防効果をもつことを明らかにしました。

現在も疾患モデルマウスを活用し、ロコモティブシンドロームに対して予防効果を発揮する機能性素材の探索と開発を進めています。

5)中枢神経系を標的とした抗肥満薬の開発

 脂肪を構成する脂肪細胞は大きく2種類に分類されます。脂肪を貯め込む「白色脂肪細胞」と、脂肪を分解する「褐色脂肪細胞」です。私たちはこれまでに、褐色脂肪細胞の機能調節因子を同定し、それらの活性化が抗肥満に繋がることを明らかにしてきました(Diabetes 2014BBRC 2014Cell Rep. 2018)。

一方、私たちの脳内では多くの神経細胞がネットワークを形成し、記憶、学習、認知、言語などの脳の高次機能を司っています。また、脳の視床下部では、神経細胞が様々なホルモン・栄養シグナルなどを感知・統合し、内分泌や自律神経系を介して、体温、血圧、摂食、生殖、睡眠・覚醒などの多くの生理機能を調節しています。

最近私たちは、脳内の肥満センサーの同定に成功しました。具体的には、視床下部の神経細胞に発現するリン酸化酵素Erk5(Endocrinology 2019)やアミノ酸トランスポーターLAT1(JCI Insight 2023)が、体重のコントロールに重要な役割を担っていることを明らかにしています。

副作用等の諸問題などにより、抗肥満薬の開発は国際的に難航していますが、私たちが発見した脳内肥満センサーの解析をさらに進めることで、「中枢性の抗肥満薬」の開発に繋げていきたいと考えています。