植物病原細菌が宿主植物に感染する際、ランダムな運動により偶発的にたどり着くのではなく、植物の傷や気孔・水孔などの自然開口部から放出されるさまざまな物質を感知して積極的に移動し、侵入します。次いで、植物組織内の水溶液で満たされたアポプラストなどの空間に侵入した細菌は、水溶液に含まれる物質などを感知してエフェクターとよばれる因子を産生し、それらを宿主植物の細胞内に送り込むことによって細菌に適した生育環境を誘導します。そして、植物組織内で増殖した細菌は毒素や酵素などを分泌し、最終的に宿主植物を発病させます。このような、植物病原細菌の発病させる性質(病原性)には、宿主植物由来のさまざまな物質を感知し、応答する能力が重要な役割を果たしています。私たちは、植物病原細菌の病原性に関与する植物由来物質の同定および受容機構を解析することにより、新しい植物病害防除技術を開発したいと考えています。(加藤久晴)
<左図 イネかさ枯病菌の感染による病徴> イネかさ枯病菌は気孔から侵入し、タブトキシンという毒素を分泌します。その毒素の作用により葉緑体が崩壊し、退緑とよばれる症状が現れます。
<右図 イネ由来物質に対する細菌の反応> イネかさ枯病菌の懸濁液にイネ由来物質をシャーレーの中心に滴下したところ、それを感知した細菌が移動してリング状の模様が形成されました。