データ解析
散乱長・散乱長密度
中性子散乱の場合、散乱能は散乱長と呼ばれる量で与えられます。原子、原子団、分子あたりの散乱長があるわけですが、実際に必要なのはそれらの物質単位が占める体積で割った、散乱長密度が計算に使われます。散乱長密度の差がコントラストとして散乱振幅、形状因子、構造因子などの計算に使われます。
NIST(アメリカ商務省国立技術標準研究所)が便利な散乱長密度計算用HPをもっています。ご利用ください。
Scattering length density calculator (NIST)
また、元になる各原子、同位体の散乱長、散乱断面積の表は下記のNISTのサイトにあります。
Neutron Scattering Lengths and Cross Sections (NIST)
絶対強度補正
小角散乱で得られる中性子散乱強度は、一般には相対散乱強度です。空気やセルなどの散乱の寄与を差し引くことで散乱強度のq依存性を得ることができます。慣性半径や散乱極大を正しく求めるためにはこの相対散乱強度が必要です。
一方、高分子の分子量決定やミセルの会合数などを評価するためには絶対散乱強度が必要になります。相対散乱強度から絶対散乱強度への変換は、同一条件で標準試料を測定し、スケールファクターを乗じることで可能です。標準試料にはバナジウムや水が使われますが、SANS-Uでは取り扱いが容易で耐久性に優れたポリエチレンを使用しています。絶対強度を得るためにはいくつかの標準試料測定が必要になります。実験の流れのページにその手順があります。
計算式は次のようになります。
ここで、Iは散乱中性子のカウント数、tは測定時間であり、添え字は試料位置に置く物質を表します。添え字はそれぞれ、sample:解析したい試料(固体の場合はsolid sample、液体の場合はliquid sample)、B4C:入射ビームをブロックする吸収体、standard:非干渉性散乱のみを与える試料(ここではポリエチレン)、open:試料位置に何も置かない、を意味します。固体試料の場合は空気の散乱のみを、液体試料の場合は試料容器であるセルの散乱を差し引くことになります。dsampleは試料の厚み[cm]、cos3(2theta)は検出面での立体角および斜め入射の効果を補正する因子です。ここまでの計算結果が相対散乱強度です。
さらに、標準試料の絶対強度補正因子μstandardを用いることにより絶対散乱強度が得られます。SANS-Uで使用しているポリエチレン(低密度ポリエチレン LDPE F200-0(2mm厚))の場合、μstandardは0.0695という値です。従来ご案内していた0.0573や0.0745という値とは異なりますのでご注意ください。
検出感度補正
平成16年度において、SANS-Uの二次元検出器を交換した際、感度の一様性に問題が生じ、検出器の原点からある傾きをもったバックグラウンドしか得ることができませんでした。その問題は現在も解決されていません。そこで、現有検出器の感度補正および絶対強度化に必要なルポレンデータの補正の方法について御説明します。
- 1次元プロファイルに対する補正 -
円環平均を行って1次元になったデータに対しても、2次元の場合と同様にバックグラウンド補正後に非干渉性散乱で感度の補正が可能です。ただし「検出面の各ピクセルにおける検出感度の非一様性を補正する」必要があり、各qにおける補正ではないという点に注意してください。
Lupolenや溶媒などの非干渉性散乱が測定してあればそのデータをご使用いただけますが、補正に使用するには統計誤差に問題があると思われる場合は、(1次元でも2次元でも)データのスムージングを行ってから使用して頂くか、下のリンクからデータをダウンロードして使用して頂くことができます。
IRTで測定したH2Oのデータ ダウンロード
- 2次元プロファイルに対する補正 -
円環平均などの操作を行わない2次元プロファイルに対しては、生データをバックグラウンド補正後、各ピクセルに対して同じくバックグラウンド補正済みの非干渉性散乱強度で除算を行うことで感度の補正ができます。補正式は以下のようになります。
ただし、どのような散乱に対しても同様の補正をする必要があります。