Research
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リポソーム等の人工細胞は医薬用カプセルとして応用される一方、脆弱性に課題があります。近年、自己組織化したDNAミクロゲルによるネットワーク構造を人工細胞に付与し力学的補強が可能であることが報告されました。現在、DNAネットワークの骨格構造と人工細胞の力学特性の相関の定量化を吸引測定によって行っており、将来的には人工細胞の力学的制御を目指しています。
高分子液滴や脂質ベシクル、生細胞などのソフトマターの力学特性は、基礎科学から応用分野に至るまで極めて重要です。特に、界面を有する微小な系では界面の影響が全体の力学特性を支配的に決定することが想定されます。今回、脂質膜とDNAナノ構造を利用して、人工細胞の「伸びにくさ」と「曲がりにくさ」をそれぞれ独立に制御できることを発見しました。脂質膜で覆われた微小液滴を人工細胞のモデルとして作製し、マイクロピペット吸引法によって変形させた際の圧力と変形量の関係を詳細に測定しました。さらに、膜の「伸び」と「曲げ」の両方を考慮した新たな解析モデルを構築することで、従来は説明が難しかった非線形な変形応答を定量的に解析できるようにしました。この解析により、脂質分子の形状が主に膜の「伸びにくさ」を決定する一方で、膜表面に集積したDNAナノ構造は立体的な骨格として働き、「曲がりにくさ」を大きく向上させることが明らかになりました。本成果は、人工細胞の力学特性を分子レベルで設計できることを示すものであり、将来的には人工細胞や医薬用カプセルなど、用途に応じて最適な硬さや変形能をもつ機能性材料の開発につながることが期待されます。
Masuda, K., & Yanagisawa, M. (2026). Programming Nonlinear Interfacial Mechanics of Synthetic Cells: Lipid Geometry and DNA Nanostructures. Small Science, 2026, 6, e70321.
タンパク質は生命活動を支える重要な分子ですが、その機能は立体構造によって大きく左右されます。近年、アルツハイマー病などの神経変性疾患との関係から、タンパク質が異常な集合体を形成する仕組みに大きな関心が集まっています。しかし、細胞膜のような界面がタンパク質の構造変化にどのような役割を果たしているのかは十分に理解されていませんでした。私たちは、脂質膜で覆われた微小液滴を人工細胞のモデルとして用い、細胞サイズの閉じ込め空間がタンパク質の構造形成に与える影響を調べました。その結果、本来の構造を保ったタンパク質はほとんど変化しない一方で、熱によって部分的に変性したタンパク質は膜との相互作用によって再編成され、βシートと呼ばれる特徴的な構造を形成することを発見しました。さらに、この構造変化はタンパク質と膜の電荷の組み合わせによって大きく変化し、特定の条件では膜表面に殻状の構造が形成されることも明らかになりました。また、液滴が小さくなるほど膜の影響は強くなり、タンパク質の構造変化が促進されることが分かりました。本研究は、細胞サイズの空間では膜が単なる境界ではなく、タンパク質の構造や集合状態を積極的に制御する場として機能することを示しています。この知見は、タンパク質凝集疾患の理解だけでなく、人工細胞や機能性バイオマテリアルの設計にもつながることが期待されます。
Pal, A., Masuda, K., Yanagisawa, M. (2026). Cell-Sized Droplet Interfaces Reorganize Protein Secondary Structures through Confinement-Enhanced Membrane Interactions. under review. bioRxiv. 10.64898/2026.06.17.732854v1
クマムシは乾燥すると極限環境ストレスに対して耐性を示すことで知られている生物であり、乾燥ストレス曝露中に特異的なタンパク質が細胞質中に大量発現します。このタンパク質はヒト培養細胞に発現させるとストレス依存的に線維化することが示されているので、人工細胞中での再現実験を行い、タンパクの線維化が細胞にもたらす力学的影響について明らかにしました。
Tanaka, A., Nakano, T., Watanabe, K., Masuda, K., Honda, G., Kamata, S., ... & Kunieda, T. (2022). Stress-dependent cell stiffening by tardigrade tolerance proteins that reversibly form a filamentous network and gel. PLoS biology, 20(9), e3001780.