トヨタコンポン研究所 探査プロジェクト

未踏探索の原理と限界

Principles and Limitation of Frontier Exploration

プロジェクトの狙いと概要

探索は生命現象、社会活動、工学技術、情報学を含め、多様な分野や現象において重要となるプロセスである。その中でも、個や集団が有する現時点での知識や形質には含まれないにもかかわらず、しかしそれを見つけ出す事によって集団や集団の知識に大きな利益や革新をもたらすものの探索、つまり0を1にする「何か」の探索と発見は、科学・工学・産業のみならず生命の進化にもかかわるステップである。

本プロジェクトではこのような「何か」を未踏、それを見つけだすプロセスを「未踏探索」と定義し、未踏探索の原理と限界、つまり未踏探索の効率を高める理論・アルゴリズム・方法論、そして未踏探索における達成限界を明らかにする研究を展開する。

具体的には、関係諸分野に潜在する未踏探索としての側面を明らかにし、その知見を統合することによって未踏探索においてどのような方法論あり得るのかの具体事例を探索するとともに、それらの方法論が本質的に有効なのか、そしてその限界はなんなのか?を数理的立場から理解することを目的とする。

未踏探索現象の具体事例

未踏探索の最も典型的な事例は生命現象とその進化である。

非生命的な化学反応から始めての生命的な反応系が生まれる過程、遺伝子の変異の蓄積や新規遺伝子の出現によりこれまでと異なった形質が出現する過程、発生プロセスに異なるモジュールが現れ組み入れられる過程、まったく新しい環境やニッチに個体群集が進出する過程など、生命進化の歴史はまさに未踏探索の連続である。

同じ様に世界への人類の進出、そして科学技術も未踏の発見によって飛躍的に進歩してきたという経緯がある。特にこれまでに無い物質を発見する、これまでに無い法則を発見する、これまでにない環境に適応するロボットを作るなど、科学・工学・技術における様々な課題は未踏探索と結びついている。

数理的に考えれば未踏探索とは、膨大な探索空間の中で探索を実施するエージェント(生物集団、遺伝子の集合、人類、ロボット、etc)が観測情報もしくは集団の形質として持っている有限の部分集合からその内挿では得られない外挿的な集合を見つけること、もしくは現在の情報に直交する新たな次元を発見すること、と大まかにとらえられる。既知の有限情報から如何にその外側の可能性空間を探索することが効果的なのか、またそこにどんな理論的な限界があるのか、を明らかにすることが未踏探索の数理的課題となる。

未踏を探索する最も単純な方法は、突然変異に代表されるようなランダム性を援用した局所探索である。しかし生物現象に目を向ければ、平均から大きくハズレた個を作り出す機構(思い込み、大偏差)、未知(情報量)を糧とした探索行動(情報走性、好奇心駆動形探索)、個の知識や知見のシャッフリングによる非局所的な探索(組み換え、モジュール性の活用)、集団による相互排他的な探索(他人と違う天邪鬼行動の促進)など、局所探索を超えた探索方法を活用していると目される事例は多数見出される。これらの有効性や効率、そしてその限界を明らかにするための数理的枠組みを作りこれらの問題にアプローチすることが、本プロジェクトの目指すところである。

研究チーム