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心音図(PCG)は、心臓の聴診音を波形として視覚的に記録するものです。
心電図が電気信号を記録するのに対し、心音図は心臓の弁の動きと血流の変化により生じる音を記録します。
特に心臓弁膜症や心不全の兆候がある場合、特徴的な波形が現れるため、診断に有用です。
正常な心音は「ドックン」と表現され、それぞれの弁の閉鎖音を反映しています。
・ ドッ:Ⅰ音(房室弁が閉鎖する音)
・ クン:Ⅱ音(半月弁が閉鎖する音)
これらの音を心音図で表すと、心電のR波直後にⅠ音、その後にⅡ音がそれぞれ現れ、1心周期となります。
Ⅰ音・Ⅱ音は低い周波数帯の音で、L_1(Low領域)やM1_1(Middle領域)に波形として出現します。(図1)
また、心音データを多角的に解析するツールとしてAMI 株式会社が独自に開発した「Wavlet Visualizer」があります。
心音図と同様、正常心音は低い周波数帯に出現します。(図2)
正常な心音の周波数特性を理解することで、異常心音を識別できるようになります。
図1)正常波形-心音図
図2)正常-Wavelet Visualizer波形
心雑音とは、心臓の弁や形態異常に伴う乱流によって生じる「シューシュー」や「ザーザー」といった音を表します。
心雑音を取得した場合は、その音が心周期において、収縮期または拡張期に発生している雑音なのかを判断することが重要です。
また、収縮期と拡張期の両方にわたって持続する連続性雑音もあります(図1)。
例えば、収縮期雑音はⅠ音からⅡ音の間に聞こえ、大動脈弁狭窄症(AS)や僧帽弁閉鎖不全症(MR)などが考えられます。
拡張期雑音はⅡ音からⅠ音の間に聞こえ、大動脈弁閉鎖不全症(AR)などが考えられます(図2)。
図1)心雑音の種別
図2)収縮期雑音と拡張期雑音
駆出性収縮期雑音は、心臓が収縮する際、血液が狭窄した部分を通過するときに生じる乱流によって発生する収縮期雑音の一種です。
特に大動脈弁狭窄症(AS)のような心臓弁膜症でよく聴取されます。
通常Ⅰ音は僧帽弁が閉じるタイミングで発生しますが、この時点ではまだ大動脈弁は開いていないため、雑音は聞こえません。
その後、左心室からの駆出が始まると、狭窄した弁口部を血液が高速で通過(圧格差が発生)するため、弁尖が振動し、乱流が発生。
それが心雑音として聴取されます。雑音は収縮中期にピークを迎え、駆出が終了するにつれて減弱します。
心音図波形は、Ⅰ音からⅡ音の間に出現し、漸増漸減する「ダイヤモンド型」の形状を示します。特徴は、雑音がⅠ音からわずかに遅れて発生する点です。
周波数帯は、 心音図上ではM_2やH_1の比較的高い周波数帯域で、Wavlet Visualizer上ではMiddle1からHigh2の中~高周波帯域で、それぞれこの特徴的な波形を確認できます(図1、図2)。
図1)大動脈弁狭窄症(severe)-心音図
図2)大動脈弁狭窄症-Wavelet visualizer波形
逆流性(全収縮期)収縮期雑音は、収縮期の開始から終了まで持続する心雑音です。
心臓の弁の異常による逆流が原因で発生することが多く、弁が正常に閉じない場合に聴取します。
収縮期全体にわたり、雑音がⅠ音からⅡ音まで続くことが多いのが特徴です。
僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、収縮期に左室から左房に向かって血液が逆流する病態です。左室が容量負荷を受けるため 、心拡大をきたして心不全にいたる可能性があります。症状として、初期は無症状が多いですが、進行にしたがって運動時の息切れ、疲労感、動悸などを生じます。
心音図ではM_2、H_1の中〜高周波領域でⅠ音からⅡ音にかけて収縮期全体を通して逆流が続く波形が出現します(図1)。Wavlet Visualizerにおいても、収縮期全体を通してMiddle1〜High2の中高周波帯に山なりのシグナルが見られます(図2)。
図1)逆流性(全収縮期)雑音-心音図
図2)僧帽弁閉鎖不全症-Wavelet visualizer波形
拡張期雑音は、血液が心室に流入する際に異常な血流が発生することで起こります。
拡張期雑音は、その発生原因によりいくつかのタイプに分類されますが、今回は拡張期雑音の代表例として、大動脈弁閉鎖不全症(AR)の事例を解説します。
ARは大動脈弁が完全に閉鎖しないため、大動脈から左心室へ血液が逆流することにより、拡張期に心雑音が生じます。ARは進行すると左心室に負担をかけ、心不全を引き起こす可能性があります。初期段階では無症状であることが多いですが、進行するにつれて息切れ、胸痛、動悸、疲労感などの症状が現れます。
心音図ではM_2、H_1の中〜高周波領域でⅡ音から始まり漸減する波形が出現します(図1)。Wavlet Visualizerにおいても、収縮期全体を通してMiddle2〜High2の中〜高周波帯に山なりのシグナルが見られます(図2)。
図1)拡張期雑音-心音図
図2)大動脈弁不全症-Wavelet visualizer波形
過剰心音は、通常の心音(Ⅰ音、Ⅱ音)に加えて聴取される異常な心音です。今回は代表的な過剰心音として、Ⅲ音とⅣ音の事例を解説します。
Ⅲ音は心室が拡大してコンプライアンスが低下した状態で、拡張早期に生じます。病的意義として、心不全や左心室機能不全の可能性が考えられます。特に、心室の充満圧が高く、左心室の拡張が進行している場合に多く聴取されます。
心音図ではL_1の低周波領域でⅡ音の後に波形が出現します。Wavlet Visualizerにおいても、Low~Middle1のⅡ音の後のシグナルとして出現します。(図1,2)
Ⅳ音は心室拡張のコンプライアンス低下の場合と、心房収縮力が強い場合で発生します。病的意義として、左心室の肥大や硬化を示しており、高血圧、心室機能不全を示唆します。
心音図ではL_1の低周波領域でⅠ音の直前に波形が出現します。
Wavlet Visualizerにおいても、Low〜Middle1のⅠ音の前にあるシグナルとして出現します(図3,4)。
図1)過剰心音(Ⅲ音)-心音図
図2)Ⅲ音-Wavelet visualizer波形
図3)過剰心音(Ⅳ音)-心音図
図4)Ⅳ音-Wavelet visualizer波形