Summary

和文要約リスト

査読付き論文の簡単な和文要約リストです。

17)Watanabe R, Ohba S, Sagawa S (2024) Coexistence mechanism of sympatric predaceous diving beetle larvae. Ecology, e4267.
オンライン版(オープンアクセス) 

水田に生息するゲンゴロウ類4種(ヒメゲンゴロウ、シマゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、クロゲンゴロウ)の幼虫の共存機構を主に夜間観察から明らかにしました

5~6月に出現ピークが重なる3種(ヒメ、シマ、コシマ)は、微生息場所利用が異なり、それぞれの微生息場所で遭遇しやすい餌を捕食していました。具体的には、ヒメは水底にいて、泥に潜るユスリカ幼虫などを主な餌としており、シマは水底や水草などの基質に掴まり、水中を遊泳するカエル類の幼生(オタマジャクシ)を主な餌としていました。一方、コシマは水面に浮遊しており、水面付近を漂うボウフラ(カの幼虫)やミジンコ類、水面に落ちてきた陸生昆虫類を主に捕食していました。クロはシマと微生息場所利用が重複していましたが、3種よりも出現時期が遅く(7~8月)、異なる餌(ヤゴ:トンボ類の幼虫)を捕食していました。また、シマとクロはそれぞれの主な餌(オタマジャクシ、ヤゴ)と出現時期のピークが一致していました。したがって、ゲンゴロウ類4種は、水田という水深の浅い一時的な水域において、幼虫期の季節消長や微生息場所利用、食性の違いによって共存していることが示唆されました。 

詳細は兵庫県立大学および長崎大学よりプレスリリースをご覧ください。


13)Watanabe R, Iwata Y, Kato A (2022) Rediscovery of Helophorus auriculatus Sharp, 1884 (Coleoptera, Helophoridae) in Saitama Prefecture, Japan, with ecological notes. Japanese Journal of Entomology (New Series), 25: 111-116.

セスジガムシHelophorus auriculatusは水田内や河川敷にできた小規模な水溜まりを生息環境とする、体長4.1~6.5mmの水生甲虫です。本種の生活史は以下の通りです:成虫は初春(4~5月初旬)に出現し、夏(5月中旬~9月)には水域から離れて成虫の状態で休眠し、晩秋~冬(10月中下旬~3月)にかけて再び成虫が水域に出現し、繁殖を開始する。幼虫は水田畦畔など、湿った土壌を生息場所としており、泳ぐことはできません。

国外では中国および韓国から記録があり、国内では関東(埼玉・栃木・茨城・神奈川・群馬)、奈良、対馬と飛び地的に分布します。本種は箱根の宮ノ下において発見され、1884年に記載された。その後、1978年に再発見されるまでの94年間は採集記録がなく、「幻の水生昆虫」とされていました。1980~1990年代頃、荒川流域において相次いで新産地が発見されましたが、2010年以降の確実な記録があるのは茨城県(2019年)と対馬(2020年)に限られていました(Watanabe et al. 2020; Watanabe & Ohba 2021)。その希少性から、本種は環境省レッドリスト2020において絶滅危惧IB類に選定されており、圃場整備による晩秋~冬季の乾田化や河川改修によるワンドの消失が減少要因と考えられています。

この度、第3著者の加藤さんが、埼玉県川島町において本種を発見し、私にお声がけいただき、発表するに至りました。埼玉県におけるセスジガムシの記録は1987年以来皆無であったため、実に34年ぶりの報告となります。

本生息地は、セスジガムシが生活史を完結するための条件(日当たりが良く、傾斜が緩やかな泥の斜面:産卵・幼虫の成長に必要、冬も湛水された水域:成虫の生息に必要)を有しているため、安定した個体群が維持されてきたのだと考えられます。

本地域には類似した条件の湿地が残存していますので、今後も調査を実施する予定です。国内のサンプルが集まってきたので、来年度には遺伝子解析を本格的に実行します!

12)Watanabe R, Ohba S (2022) Comparison of the community composition of aquatic insects between wetlands with and without the presence of Procambarus clarkii: a case study from Japanese wetlands. Biological Invasions, 24: 1033-1047.

長崎大学よりプレスリリースを発行いただきましたので、ご覧ください。

11)Watanabe R, Ohba S(2021)Rediscovery of Helophorus (Gephelophorus) auriculatus Sharp, 1884 (Coleoptera, Helophoridae) from Tsushima Island and comparison of its habitat, morphology and mitochondrial COI among another Japanese population. Elytra, New Series, 11(2): 295-300.

セスジガムシは国外では中国、日本では関東・奈良・対馬と局所的に分布しています。対馬ではNakajima & Tsuru (2005)による2001,2002年の記録以降、正式な採集記録がありませんでした。生息状況を確かめるために調査を行い、無事18年ぶりに再発見に成功したという論文になります。

採集地は氾濫原内の水溜まりです。この場所には同じような水溜まりが無数にあり、2日間粘って、何とかメス1個体だけ採れました。外部形態とCOIを茨城産個体と比較した結果、本種で間違いないだろうと結論付けています。

今後は、国内外のサンプルを集め、遺伝的距離を計算したいと考えています。

10)Watanabe R, Kitano T (2021)  Ecological notes on the filter-feeding water scavenger beetle, Spercheus stangli (Coleoptera: Spercheidae) on the Iriomote Island, Japan. Aquatic Insects, DOI: 10.1080/01650424.2021.1933049.

オニガムシ科は英名をFilter-feeding water scavenger beetleといい、コウチュウ目では唯一の"濾過食者"であり、成虫は口器を回転させ、水面に浮遊する有機物等を吸い込むように摂食します。また、メスは孵化するまで卵嚢を腹部に付着させ、抱卵します。世界から18種が知られていますが、ヨーロッパ産のS. emarginatusと南米産のS.  halophilusを除いて、生態に関する知見は報告されておらず、飼育手法もよく分かっていませんでした。

コブオニガムシは体長約4mmのオニガムシ科の一種であり、東南アジアや南アジアから記録されています。我が国における生息地は南西諸島の"西表島"のみであり、2019年に記録されたばかりの種です(Kitano et al. 2019)。本研究では、オニガムシ科の生態に関する知見を蓄積することを目的として、コブオニガムシの西表個体群を対象に、飼育実験と野外調査を実施しました。

西表島の年平均気温下(25℃)で冷凍赤虫等を餌として飼育した結果、本種は孵化後わずか17日間で羽化に至りました。野外調査では3月と8,9月に抱卵メスが見られたことから、年2化以上の生活であると考えられました。池が干からびた際、成虫は岸際の湿ったリター中で耐え忍んでいました。さらに、本種の3齢幼虫は腹部背面の突起に木の破片等の有機物を付着させ、蛹化前に上陸し、陸上の樹木や貝殻の表面に蛹室を形成することを明らかにしました。

現在、本種の我が国における生息地は西表島の一箇所でしか知られていません。本種を保全する場合には、成虫の餌や幼虫の蛹化のために必要となる木片等の有機物が多く水面に浮遊する水域が重要であろうと結論付けています。

引用文献:Kitano, T., Tahira, Y., and Kohno, H. (2019), ‘Discovery of the Familiy Seprcheidae (Coleoptera, Hydrophiloidea) from Japan, with Redescription of Spercheus stangli Schwarz et Barber, 1917’, Elytra, New Series, 9, 291–295.

9)Watanabe R, Ohba S, Yokoi T (2020) Feeding habits of the endangered Japanese diving beetle Hydaticus bowringii (Coleoptera: Dytiscidae) larvae in paddy fields and implications for its conservation. European Journal of Entomology, 117: 430-441.

シマゲンゴロウは体長1.2~1.4cmであり、黒と黄色のコントラストが非常に美しく、比較的認知度の高いゲンゴロウ科の一種です。全国的に減少傾向にあり、環境RL(2020)において準絶滅危惧種に選定されています。しかしながら、定量的なデータを伴う生態的知見は少ない状況にありました。ゲンゴロウ類の幼虫は餌の種類によって生存率や成長率が左右されるため、保全のためには主要な餌生物を明らかにする必要があります。

本研究では、地道な野外調査と飼育実験からシマゲンゴロウ幼虫の主要な餌生物がカエル幼生(オタマ)であることを解明しました。2年間の野外調査では、水田2枚における本種幼虫と潜在的餌生物の季節消長及び夜間観察による餌メニューの特定を行いました。飼育実験では、オタマのみ区・コミズムシのみ区・混合区の餌処理区を設け、幼虫から成虫までに至る成長日数・生存率・成虫の体長、湿重量を比較しました。

野外において本種の幼虫は主にオタマを捕食しており、昆虫はほとんど食べていませんでした。5~6月に個体数が増加し、7月に減少するという季節消長は本種幼虫とオタマで同調していました。成長日数はオタマのみ区で最も早く、生存率はコミズムシのみ区で最も低くなりました。成虫の体長・湿重量もオタマのみ区の方がコミズムシ区よりも大きくなりました。

以上より、シマゲンゴロウ幼虫の主要な餌はオタマであり、水田で繁殖するカエル類の生息環境の維持が本種の保全に重要であることが示されました。野外下におけるゲンゴロウ幼虫のカエル卵食いの初報告も行っています。ゲンゴロウ属Cybisterの幼虫は昆虫食いで、オタマでは生存率が低いことが知られています(Ohba 2009a,b )。この対照的な食性の違いは興味深いです。

論文中には餌捕食シーンの写真を多めに入れました。注目すべきは、1齢幼虫でも自身よりも大きなオタマを捕食していたことです。私は本種を「ゲンゴロウ界のタガメ」のような存在だと感じています。

8)Watanabe R, Yamasaki S (2020)  Discovery of larvae of Haliplus kamiyai Nakane, 1963 (Coleoptera, Haliplidae) and implications for its life cycle.  Elytra, New Series, 10(2): 365-371.

カミヤコガシラミズムシは体長約3mmの小さなコガシラミズムシ科の1種です。日本固有種であり、主に関東でみられ、環境省RL(2020)において絶滅危惧IB類に選定されています。これまで本種の生態に関する知見はほとんどなく、幼虫さえも見つかっていませんでした。

我々は茨城県と千葉県の生息地(常に入水が絶えない水深の浅い休耕田)において、本種の幼虫を発見し、その形態・採餌生態・生活史に関する知見を報告しました。

野外調査の結果、本種の幼虫は夏と冬に、成虫は夏から冬にかけて観察されことから、本種は幼虫、成虫ともに越冬することが明らかになりました。また、本種は(1)幼虫期が非常に長い、あるいは(2)年 2 化または年多化の生活環をもつことが示唆されました。室内飼育下において、本種の3齢幼虫は親指状の頸節葉をもつ前脚を用いてアオミドロ属藻類をつかみ摂食し、成虫まで成長しました。

以上により、本種の個体群を保全するためには、繊維状藻類が豊富に生育する、水深の浅い恒久的な水域を維持することが重要であると考えられました。

7)Minoshima Y, Watanabe R (2020) Morphology of immature stages of Helophorus (Gephelophorus) auriculatus (Coleoptera, Helophoridae). Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae (in print).

セスジガムシの卵嚢、1~3齢幼虫、蛹の形態記載を行いました。私は本種の飼育下繁殖に成功し、卵嚢・幼虫・蛹のサンプルを作成しました。また、卵嚢の記載をしました。

6)​Watanabe R, Matsushima R, Yoda G (2020) Life history of the Japanese endangered aquatic beetle, Helophorus auriculatus (Coleoptera, Helophoridae) and implications for its conservation. Journal of Insect Conservation (early view).

「セスジガムシ」は国内では関東・奈良・対馬に局所的に分布しており、2010年以降の正式な記録があるのは茨城県の1産地に限られる幻の水生昆虫です。保全が急務となっていますが、これまで卵や幼虫の姿を含め、その生態は全くの未知でした。

本論文では、そんな謎多き絶滅危惧種の生活史を野外調査と飼育実験により解明し、水田における保全策を検討しました。

本種は稲刈り後の10月後半から主に水田にできた水溜まりに出現し、冬~春にかけて繁殖、夏は成虫の状態で休眠することを明らかにしました。保全のためには、冬季に少しでも水田に水を張ることが重要であると結論付けています。

5)Watanabe R, Fujino Y, Yokoi T (2019) Predation of frog eggs by the water strider Gerris latiabdominis Miyamoto (Hemiptera: Gerridae), Entomological Science (early view).

野外下におけるヒメアメンボによる3種のカエル卵(二ホンアカガエル・トウキョウダルマガエル・トノサマガエル)の捕食行動を報告しました。アメンボ類による節足動物以外の捕食例は珍しく、カエル卵の捕食は世界初報告となります。 

4)大庭伸也・村上 陵・渡辺黎也・全 炳徳(2019)長崎県南部の学校プールに形成される水生昆虫類相の成立要因. 日本応用動物昆虫学会誌, 63: 163-173.

学校プールに生息する水生昆虫群集(トンボ・コウチュウ・カメムシ目)にプール内外の環境要因が与える影響を解析しました。私は一部の群集解析等を行いました。

3)Watanabe R (2019)  Field observation of predation on a horsehair worm (Gordioida: Chordodidae) by a diving beetle larva Cybister brevis Aubé (Coleoptera: Dytiscidae). Entomological Science, 22: 230-232.

野外下におけるクロゲンゴロウ幼虫によるハリガネムシ捕食行動を報告しました。ゲンゴロウ科の食性のレパートリーを増やしました。また、昆虫によるハリガネムシ成虫の捕食例はおそらく本報告が初です。 

2)渡辺黎也・日下石碧・横井智之(2019)水田内の環境と周辺の景観が水生昆虫群集(コウチュウ目・カメムシ目)に与える影響. 保全生態学研究, 24: 49-60.

水田に生息する水生昆虫群集に対して、水田内外の環境要因が与える影響について解析しました。水生昆虫群集の組成は農法や餌生物の個体数等によって異なること、水生昆虫の種数や個体数に影響を与える空間スケールは2〜3kmであり、周囲の森林や水域が正の効果を与えることを明らかにしました。 

​​1)Liu H-C, Watanabe R (2018) New records of Copelatus minutissimus J. Balfour-Browne, 1939(Coleoptera: Dytiscidae) from Taiwan. Taiwanese Journal of Entomological Studies 3(3): 60-62 (2018).

台湾からチビセスジゲンゴロウを記録しました。