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Device Art Symposium "The Relation Between Art and Objects"

Presentation

by Sachiko Kodama

「予感研究所・2006」

プレゼンテーション:児玉幸子

2006年5月7日@日本科学未来館7F:みらいCANホール

3.3■児玉幸子:プレゼンテーション

児玉:児玉です。私は、今までの作品であまり紹介していないものを中心に、あと新しい作品についてビデオで紹介しながら、お話ししようと思います。今、7階のフロアで、タワー型の液体(磁性流体)が動く作品を展示しているのですが、この液体のプロジェクトを始めて、もう6年目に突入しています。

3.3.1●『脈動する──溶ける時間、散る時間』

『脈動する──溶ける時間、散る時間』

今、お見せしている映像は、『脈動する──溶ける時間、散る時間(Pulsate─Melting Time, Dissolving Time)』【図1】 というインスタレーションで、国立台湾美術館で展示したものです。4メートル四方の白い部屋の中に真っ白な砂を敷き詰めていて、壁にはメトロノームがついています。そして、ピンク色のテーブルクロスの真ん中に白い皿があって、皿の中に黒い液体が入っていて、メトロノームの音と皿の中の液体が連動して動いている……という作品で、白い部屋の中に黒い色の液体を置いて色味を強調したりする工夫をしています。

この作品は、女性らしい、ロマンティックでウェットなインスタレーションにしたいと思っていました。というのも、こういったコンピュータを使ったインタラクティブ・アートというのは、シャープだったりハイテックというか、どこか男の子っぽいカッコいいものが多いので、なんとかしてそうではない(ウェットでロマンティックな)作品を作ってみたいという気持ちがあったからです。静かな部屋に音がこだまして、液体の中に無限に静かに時間が溶けていくような、そういう錯覚に陥らせたいなあ……と思って、このインスタレーションを作りました。

このメトロノームは、製品を分解して、針の先の丸い部分をピンクに塗っています。そのピンク色は、私たちの身体の中の色、心臓といったものをイメージしていて、音の間隔もハートビート(鼓動)とほぼ同じような間隔で揺らしています。

3.3.2●『磨くためのオブジェ』から『突き出す、流れる(Protrude, Flow)』に至る

いきなり唐突ですけれど、これは私が22歳の時に作ったスカルプチャーで、FRP(強化プラスティック)を使ったオブジェです。『磨くためのオブジェ』【図2】 というタイトルで、昔から、艶々した表面に興味がありました。

次のイメージ(Boundary)は、アーキテクトの榊原由紀子さんとコラボレートしたプロジェクトで『新建築』に応募したのですが、落選してしまった(笑)という、若かりし頃の思い出で、ホログラフィーを使った建築です。ガラスの建築とホログラムの色面が夜と昼で入れ替わって見えるものです。表面(surface)に対する興味というものが、やはりありました。

次の写真は、2001年に竹野美奈子さんと作った『突き出す、流れる(Protrude, Flow)』【図3】という作品で、それまでの作品は形状が動かないものだったのですが、これでダイナミックに動くものが現われて、自分自身としては「動きというのは何て凄いんだ!」と思い、動く液体によるインスタレーション、もしくは彫刻というプロジェクトを始めました【参照サイト】

このビデオは、実際にどういうふうに展示されたかという記録です。スクリーンと共に展示しています【図4】。そして観る人は、口笛を吹いたり手を鳴らしたりして音をたてることで、色々と液体の動きを変化させることができます。この作品で工夫しているところは、音が出ると液体が沈むようになっているところ。それは、本当は逆にすることも可能で、音があると液体が出てきて上に登っていくようにも(ソフトウェア上は)できるのですが、その逆のアクション(声を出すというアクション)があった時、トゲが水中に消えてしまう……という出来事に、声が液体をおさえているような感覚を持つなぁという発見があって、そういうふうにしました。

これ(『均衡点(流れるとげとげ)』:沖縄チルドレンズミュージアム)【図5】【図6】は「磁石の形自体を作品化したらどうだろう?」と考えて、なるべく電磁石それ自体の形を美しくできないかという考えで作ってみました。なかなか言葉で説明が難しいのですが、彫刻家の篠田守男先生という、筑波大時代にお世話になった芸術家の作品を思い出しながら作りました。

3.3.3●『ウニのかくれんぼ──ダイナミック・フルイド』展

これ(『波と海胆』【図7】)は、去年(2005年)、科学技術館で『ウニのかくれんぼ──ダイナミック・フルイド』展という磁性流体の作品の展覧会を行なった時のビデオです【参照サイト】

手前に小さな池のようなものがありますが、これは、箱庭的な世界で小さなウニが走り回る……そういうインスタレーションです。最初の頃の実験では、このように真っ白なひょうたん型の容れ物を使い、特に容器には何の模様もなかったのですが、中の液体が、こういうふうに(小さなウニが動き回るように)チョコマカと動きます。

もっと和風のテイストの容れ物にしようという意図もあったのですが、ひとつの丸い壷のようなひょうたん型を作るのがなかなか難しいとわかって、最終的には竹野さんにお願いしてタイル貼りの容器になっています。池の下にコイルが64個敷き詰められており、手の位置を画像で認識して、その64個の電磁石で小さなウニの動きを制御しています。この手前の小さなほうの池にウニが来ると、子供は喜んで、うまくそこに入り込ませようとします。

デザインが違うのですが、『モルフォタワー(MorphoTower)』【図8】という、形を変える塔の科学技術館バージョンの映像です。科学技術館用にシンプルなデザインにしたのです。このときはインタラクティブではないのに、手をかざしたり手をグルグル回して、液体を動かそうとする子供がたくさんいました。

3.3.4●『生きている表面』

これは『生きている表面(Living Surface)』【図9】というタイトルのインタラクティブ・コンピュータ・グラフィクスの作品で、表面のテクスチャーの変化を何とかしてできないかということで、これはCGを使った場合どうなるかという試みです。

私はどうもボトムアップ的に作ってしまう傾向があって、一番最初は、シンプルにスクエアなものを……さっきのホログラフィのミニマルな色面の作品もそうだったのですが……作ってしまいました。テクスチャーの発生に佐山弘樹氏が発明したEvoloopというセル・オートマトンの原理を使っています。模様の中に置かれた黒い図形を、これまた画像認識して、その周辺に小さなセル・オートマトンが増殖していく。それがザワザワと表面のテクスチャーが動くように見せています。

これはCGであって、触覚的なものを喚起するにはどうしても少し何か足りないなというふうに思えて、実は私はこの一枚一枚の画像をキャプチャーして、それをもとに本物の絨毯を編んでみました。その絨毯はもうできているのですが、まだお見せするレベルに至っていない(笑)と思ったので、今日はまだ持ってきていません。

3.3.5●小さな(磁性流体の)もみの木

前々回のデバイスアート・シンポジウムに参加した時、手に持ってきて、その場の実況カメラではあまりよくお見せすることができなかったものを映像に撮ったもので、小さな(磁性流体の)もみの木が卵の中に生まれる作品です。これは光センサーを使っています。

こういう光センサーや画像認識装置を使って、そしてアウトプットは電圧を制御しているというすごくシンプルな構成なので、もしかすると先ほどのクワクボさんのツールキットが使えるのではないか、と、今さっき思いました。

もみの木では3センチぐらいの高さだったのですが、その後10センチぐらいの高さに芯を大きくして、表面の(磁性流体による)質感がどう変化するかというところに興味もあって、実験を重ね、映像作品化しました。ひとつは『呼吸するカオス』という映像作品で、いくつかの映像コンクールに入選し、上映されました。

映像作品の中のワンシーンです。この部分は『突き出す、流れる』という作品を撮っています。この映像は、植物の映像をモンタージュしており、重力と磁場の中に生まれてくる有機的な形……シンメトリカルで複雑な形をテーマにしています。

3.3.6●『モルフォタワー(MorphoTower)』

この映像はまっすぐな『モルフォタワー』で、まだ螺旋の溝が入っていない状態のものです。

次は、今7階で展示している『モルフォタワー』です。塔の形は15センチぐらいまでの高さにすることができました。ちょっと前のバージョンとこれの違うところは、三角錐に溝が切ってあって、その溝のせいで液体に回転運動が加わっていることです。それが磁場をだんだん強めていくと、先端に向かって磁力が強まり、下のプールからその磁力の強まる方向に向かって液体が引っ張りあげられて、登っていくところです。これがその先端の部分。この映像を撮影した当初は、インタラクティブではなかったのですが。今表示している映像では音に対してインタラクティブに動く作品となっています。

3.3.7●『目力』

これは、まだどこでも公開していない映像なのですが、学生たちといっしょにゲームのプロジェクトをやっていて、『目力』【図10】 というゲームです。これは純粋にソフトウェアの仕事なのですが、まばたきするボール型の目玉キャラクターがいて、その目がインタラクション・モデルに基づいて変化していく。明るい所では瞳孔が縮まって、暗いところでは瞳孔が拡がる。これは自分のキャラクターの瞼が閉じている状態ですね。「見る/見られる」という関係性があります。

そして瞳孔が拡がっていると、キャラクターの魅力が増して、相手のキャラクターを止めてしまう。逆に疲れてくると充血してくる、という趣向です。キャラクターは感情モデルを持っていて、感情モデルがそのゲームの状況や、相手の表情に対して影響を受けます。これは自動的に涙が出てくるところ。負けが大きくなってきたりすると、涙が出てきます。その「勝ち負け」の実際の内容は押し相撲で、(キャラクターが)落ちてしまうと負け、というゲームです。

なぜこういうことをしているかというと、今のゲームというのは、対戦するゲームとかが多いのですが、そこで痛みを感じることができないか、と思って、その感情のリアリティを伝えるためのインタラクション・モデルというのを考えてみました。

(急いでしまって)早送りで分かりにくかったかと思いますが、これで私の発表を終わります(拍手)。

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