合同会社Good shotの顧問をお願いしている、元デ杯選手、武鑓正芳コーチ。
前回だけでは伝えきれなかった思いを、今回は「指導」に焦点を当て、更に掘り下げていきます。
----------- テニスの指導において、一番大切にしていることは何ですか。
プレーヤーにとって、「今」必要なことは何かを常に考えて接しています。
プレーヤー自身がご自分のことを、冷静に正確に把握するのは、とても難しいことです。
例えば、プレーヤーが「バックハンドが問題だ」と思っていても、その根本的な原因がフォアハンドにあることがあります。でも、本人の気持ちも大切ですから「いえ、今修正すべきなのはフォアハンドですね」と頭ごなしに言ってもうまくいかないでしょう。バックハンドの修正から始めて最終的に、「フォアハンドへの取り組みも、こう変えていけば、バックハンドがスムーズになるんだ!」と気づくように、アドバイスしていきます。
レッスンの形態によって、長く接することができるプレーヤーもいれば、今しかお話しできない方もいます。それでも、最大限「今」できることを、できれば打ち合いながら伝えられたらと思っています。
------------ Good shotでは、出張レッスンを除いて、全てのコーチのレッスン料金が同じですが、その意図を教えてください。
私は、指導技術と競技技術は別物だと考えています。
もちろん、指導に必要な競技技術レベルはあります。でも、コーチが「私がこのように打ってうまくいったので、あなたもそうしましょう」という指導は、自分の経験によるもので、目の前のプレーヤーを見ていないと思います。
レッスンでは、相対するプレーヤーに必要なアドバイスを必要なタイミングで伝えられるかどうかが重要です。この技術をGood shotのコーチは十分に持っています。その意味で、レッスン料金を同額にしています。
出張レッスンのように、単発のレッスンでは、私の競技経験や、ヒッティングの技術を全面に出したレッスンになる場合があります。その点においては、差がありますので、料金を変えています。
------------ 「1000分の4秒」について、詳しく教えてください。
私がレッスンで「打点の瞬間は1000分の4秒」と多用するので、「250分の1ではだめですか?」「0.004秒ではどうですか?」などともよく聞かれます(笑)
これは、「1秒間に1000回シャッターを切ることが可能なカメラで打点を撮影すると、そのうち4枚にのみラケットとボールが接地している」ことを表しています。そう考えると、「1000分の4秒」というキーワードは譲れないんです。
人間が音や光、画像などを視覚・聴覚で認識して、体を動かすことができる全身反応の最速はおよそ10分の4秒という資料があります。陸上のスタートで、「スタートの合図から0.1秒以内に反応した選手はフライング」というのは、スタートの合図から0.1秒以内に反応するということが、理論的にありえないとされているからですね。
それよりもずっと短い時間に、ボールはラケットを離れます。もう意識して、どうにかできる領域ではない訳です。
でも、感覚的に「今はいい感じで打てた」「ああ、打ち損じた」ということはわかると思います。ですから、その感覚を整えることを、中心に置いて、指導をしています。
------------ 試合で結果を出すために必要なことは何だと思いますか。
結果にこだわり過ぎないことです。練習の成果は「勝敗」だけではありません。
極端な例えですが、こちらが100%の力が出せたとしても、相手によっては勝てないこともあります。
それよりも、1ポイントでも2ポイントでも納得のいくプレーをする、そう考えて目の前のポイントを奪取することに必死になれたら最高だと思います。
また、ゲームは「楽しむ」ものです。自分の状況を少しでも冷静に分析し、相手と比較して判断をし、戦略を立てる。その駆け引きをぜひ楽しんでいただきたいです。
もちろん、自分が関わっているプレーヤーのみなさんに、望む結果が出ることを願ってやまないですよ!!
----------- 怪我や故障の経験はありますか。
現役の時、腰や膝に不調があり、針治療等を受けたことはありますが、プレーができなくなることはありませんでした。
トレーナーの方に「筋肉の質が故障しにくい」と言われたことがあります。それはもともと持っているものとして、幸いだったと思っています。
コーチになってから、不注意で肋骨にひびが入ってしまったことはあります(笑)
----------- ラケットやストリングにこだわりはありますか。
ラケットは、腰が固めのものが好みです。
ここ数年は、「プリンス ファントムグラファイト」の100インチを使用しています。
ストリングは、ナイロンで細めの反発のよいものが好みです。
以前は、ナチュラルを試したこともありますが、私には合いませんでした。
今は「プリンス シンセティック17DF」を20年以上使用しています。はっきりした打感がよく、細い分切れますが(最近は若い時ほどは切れませんし)、張替え頻度も大切だと思い気にせず愛用しています。
----------- 辛いと思うことはありますか。
年々、「体のキレ」が落ちてくることを実感していますので、瞬発力を鍛え続けています。具体的には、ジャンプ系です。やっぱりトレーニングで自分を追い込んでいる時は辛いですよ。でも、前職で資金繰りが苦しかった時の方が、何倍も辛かったですから(笑)
人間、体力的なことより、精神的に追い詰められることの方が何倍も辛いと、つくづく思います。
---------- テニスを楽しむ秘訣を教えてください。
ラリーをしていると、雑念が消えて行く感じがあります。
コートに立つまでは気になっていたことも、嫌な出来事も、打つことに夢中になっているうちに、遠ざかっていく。
ラリーはボールを通してのコミニケーションです。同じボールはまず来ません。それをいかにスムーズに打ち続けることができるか、に集中していると心も頭も体も、大忙しになります。
テニスは、心と体のバランスが大切です。
どんなに体を鍛えても、「できない」と心が思えばできません。
どんなに心で「強気!!」と思っても、体が固くなってしまうこともあります。
そのバランスをとり続けることを、ぜひ楽しんでください。レッスンや練習ではもちろん、可能であれば、試合でもぜひ、トライしてください。
ストロークだけではなく、ボレー&ストローク、スマッシュ&ロブなど、難しいですよね。難しいラリーほど、バランスは難しくなるでしょう。でも、だからこそ、夢中になれるはずです。
ラリーでも、ゲームと同じくらいの緊張感でコントロール性を持っていい質のボールで、しなやかに、スムーズに、続けることはなかなかの技量を要します。
心と体のバランスが取れなくて悩んでいる方は多いと思いますが、そういう時こそ、まずは、体を動かしてラリーをしながら「天気がいいな」、「風があるな」など、テニスとは違う部分で心を動かしてみてください。
ミスが気になったら、できるだけ具体的に短く反省をして次へ行く練習をします。
テニスを楽しむ秘訣は、心と体のバランスを取りながら、ラリーを楽しむことにあると、私は思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました