研究概要 化学とバイオを融合した次世代サステイナブル機能材料の開発
高分子材料は、金属やセラミックスと異なり、軽量で自在に形状を変化させることができるため私たちの生活に欠かせない材料です。その一方でマイクロプラスチックや温室効果ガスの排出などの環境問題、石油資源の枯渇などの問題に直面しています。
石油資源に依存せず、環境に負荷を与えず、従来の材料にない優れた機能をもつ新規材料の開発が重要な課題です。研究室では天然素材から高性能樹脂を作る技術の開発、石油に代わる電気エネルギーを支える新素材の開発、光エネルギーを利用した高機能高性能材料の開発を行っています。
研究テーマ
高機能材料の開発
〇高耐熱性電着機能材料の開発
次世代電気デバイスの高性能化を実現する電着ポリイミドの開発
〇光機能材料の開発
光や熱によって形状を変化させる刺激応答樹脂の開発
光に応答して集合・分散状態を制御できる光応答性ベシクルの開発
凝集誘起発光材料を用いた波長変換フィルム、環境応答発光材料の開発
天然素材から作る次世代高性能材料の開発
〇改質リグニンを用いた高機能・高性能材料の開発
改質リグニンからスーパーエンプラの開発
改質リグニンの抗酸化性の評価・食品、化粧品への応用
改質リグニンから光触媒の開発
〇高性能細胞プラスチック・生分解性樹脂の開発
緑藻細胞プラスチックの開発
高耐熱性電着材料の開発
温室効果ガス排出削減の観点から、従来の石油エネルギーに依存する社会から電気エネルギーなどの再生可能エネルギーで循環する社会への急速な変革ーパラダイムシフトーが進んでいます。自動車も従来のガソリン車から電気自動車への転換が進められており、電気自動車用高性能モーターの開発が次世代モビリティーの鍵となる技術となっています。
これまでの電気モーターは鉄芯の周りにエナメル線を巻き付けコイルにより構成されていましたが、近年の電気モーター技術の革新により複雑な形状のモーターコイルが開発されています。エナメル線は銅線の周りをポリイミドで絶縁した構造をしており、銅線をポリイミドワニスに浸漬して製造されていましたが、複雑な形状の導電体は従来の浸漬法では欠陥のない塗膜を形成できません。
そこで研究室では電着機能をもつポリイミドを開発しています。電着とはポリマー微粒子を帯電させ電気泳動法により塗膜を形成する技術で、欠陥のない塗膜を形成できます。これまで種々の分子設計を行ったポリイミドで電着材料を合成し、100ミクロン以上の厚膜を形成したり、500℃以上の高い耐熱性を有する材料を開発しました。この技術を用いて従来の絶縁塗膜の1万倍以上の耐放電摩耗性を有する革新的な塗膜をつくり、今後の電気自動車への応用を進めています。
光機能材料の開発
フォトクロミズムは光反応により分子の構造が可逆的に変化し、それに伴い分子の色が変わる現象をさします。研究室ではフォトクロミック分子を用いて単に色の変化だけではなく、屈折率、キラリティー、表面濡れ性、物質移動、接着性などを光で制御できる種々の機能材料を開発してきました。この分子レベルの構造の変化を材料の巨視的な構造変化に増幅するフォトメカニカル材料が注目されています。
研究室ではこれらの研究を発展させ、光と熱の異なる刺激に応じて異なる応答を示す刺激応答材料の開発を行っています。また環境応答性ゲルはpHや温度の変化に伴い形状を変化させ、さらにそれに伴い発光を変化させるなど環境の微小な変化を大きく増幅することに成功しました。光応答性ベシクルは光反応に伴いベシクルの形成と崩壊を繰り返し起こすことができ、ドラッグデリバリーなどへの応用が期待されています。凝集誘起発光性色素を用いた高分子フィルムは、通常の蛍光材料と異なり色素を高濃度で導入しても発光することができ、効率的な波長変換ができる材料です。これを利用し太陽光のうち作物の育成に不要な波長の光を成長に必要な波長に変換する農業用フィルムへの応用を進めています。
改質リグニンを用いた高機能・高性能材料の開発
石油に依存しない「エネルギー」としては太陽光発電などの再生可能エネルギーなどの技術が研究されていますが、石油以外から「材料」を作る技術として実用可能なものはありません。
リグニンは樹木中に30%程度含まれる成分で、芳香族構造を有するため高性能樹脂と類似の構造ですが、現在まで材料として活用されていません。
研究室ではリグニンから様々な高性能樹脂を合成する反応を開発し、応用を進めています。
またリグニンはポリフェノール構造を有することから優れた抗酸化性・抗菌性をもつことを見出しました。その特性を活用した医薬品、化粧品、食品、添加物などへの応用を進めています。
高性能細胞プラスチック・生分解性樹脂の開発
これまで高分子は石油から得られる有機モノマーを重合して製造されていましたが、脱炭素化のために石油以外の原料から高分子をつくる技術が求められています。農作物等を発酵させ作った有機モノマーから高分子をつくるバイオポリマーなどの技術が広く研究されていますが、原料として農作物を用いるため食料生産に影響する、発酵の過程に時間を要するので世界の高分子を置き換えるのに必要な高分子のうち極わずかの高分子しか生産できない、発酵により生成した成分を分離・生成するのに莫大なエネルギーを要する、など種々の問題があり、サステイナブルな技術ではありませんでした。
研究室では緑藻細胞から成分を抽出するのではなく、緑藻細胞を直接樹脂化する「細胞プラスチック」を世界で初めて開発しました。緑藻細胞は河川等で大気中の二酸化炭素を吸収して素早く成長し、これを原料として樹脂ができるため温室効果ガスの排出がなく、また得られた樹脂は高い力学性能を有しています。