研究概要

1  サステイナブル社会を実現する先端科学技術の開発

今世紀の科学技術の発展により人類は豊かで快適な生活を送ることができるようになりました。しかし、それに伴う環境への負荷や地球温暖化が進むと、私たちの社会は必ずしも快適とは言えません。持続的成長可能な社会を築くことは私たちの次世代への課題です。研究室では脱炭素化を推進する革新的高性能材料の開発を行っています。

2  光機能材料の研究 ― 新しい機能分子を創造する

分子はその構造に応じた様々な機能をもっており、自己組織化や、刺激応答などの分子構造に即した興味深い機能を発現します。研究室では、これらの分子を複合化し、光と分子の相互作用をうまく利用して優れた機能をもつ光機能分子の合成と機能開拓を行っています。電気自動車や航空機などの電気デバイスの高性能化、マイクロマシーンなどに応用できるアクチュエータなどの先端材料への応用を図っています。

高耐熱性ポリイミド電着材料の開発

石油資源の枯渇、温室効果ガス排出削減のため、現在、世界では石油エネルギーから電気エネルギーへのパラダイムシフトが進んでいます。自動車はガソリン車から電気自動車への転換が進められており、高性能電気モーターの開発が重要な課題です。最先端の複雑な形状のモーターには従来の技術で絶縁塗工を行うことはできず、電着法により欠陥のない塗膜を形成することが可能となりました。研究室で開発した電着機能をもつポリイミドは、高分子の中で最も優れた耐熱性、力学物性をもち、従来の絶縁材料の1万倍以上の耐放電摩耗寿命を有する革新的な高機能材料です。脱炭素化を実現する高性能電気デバイスへの応用を行っています。

光反応によるポリイミド表面レリーフ形成

高性能ポリイミドの開発

ポリイミドは優れた耐熱性と機械強度を有する材料で、宇宙材料、電子材料等へ応用されています。研究室ではそのポリイミドに光を照射することにより、溶媒等で現像することなく表面レリーフを形成できる材料を開発しました。また、光照射することによりポリイミドの屈折率や導電性を精密に制御することにも成功しました。従来の技術では露光、現像によって材料にパターンを転写し、そこに別の材料を流し込んで加工することにより極微回路を作成していましたが、この技術は光回路や電気回路を直接描画することができる画期的な手法として注目を集めています。

高機能刺激応答材料

未来社会(Society5.0)ではサイバー空間とフィジカル空間が融合し、私たちの生活はいっそう快適になると予想されています。そのような社会ではものづくりはロボットによる自動化が実現します。現在のロボットはモーターで駆動されていますが、材料自体が自在に変形できれば複雑な作業を行ったり、あるいは人間の体内に入れられるような超小型のロボットを作ることも可能になります。我々の研究室では光や熱の刺激により自在に変形し、その応答を制御できる材料を開発しました
また、自己修復性を有する光機能材料の開発を進めています。

光刺激と熱刺激により異なった応答を示すフォト・サーモ・ メカニカル材料

細胞プラスチックの開発

高分子材料は我々の生活に欠かせない材料ですが、マイクロプラスチックや温室効果ガス排出など深刻な問題を生じています。石油以外の材料から合成され、使用後も環境にやさしい材料が求められています。これまで様々な生分解性樹脂やバイオポリマーが開発されていますが、いずれもそれらの原料を作るために莫大なエネルギーを必要とし、サステイナブルな技術ではありませんでした。
研究室では河川等で増殖できる緑藻細胞を直接樹脂化する技術を開発しました。この材料は大気中の二酸化炭素を吸収して生成した細胞から合成され、優れた力学物性を有し、使用した後も環境に負荷を与えない夢の材料として注目を集めています。

天然素材リグニンから高性能材料の開発

樹木中にはリグニンという成分が30%程度含まれています。セルロースが製紙等に活用されているのに対しリグニンは現在まで資源として活用されていません。研究室では樹木から抽出された改質リグニンから様々な高性能プラスチックを開発しています。石油に依存しないものづくりとして重要です。

またリグニンはポリフェノール構造をもつことから、優れた抗酸化性、抗菌性をもつことを見出しました。化粧品、医薬品、飲料、添加剤などへの応用を進めています。

凝集発光性色素を用いた機能材料の開発

凝集発光性色素は分子の集合状態によって発光性を変化させます。この凝集発光性色素を高分子ゲルに組み込むことによりpHや温度などの外部環境により発光を変化させる機能材料の開発を行っています。また、一般的な蛍光色素は高濃度では消光してしまうのに対し、凝集誘起発光色素は高濃度でも蛍光発光を行います。そこで高濃度に色素を導入したフィルムを作成し波長変換膜を開発しました。太陽光のうち植物の育成に不要な波長の光を植物の生長に有用な波長に変換できる農業用フィルム等への応用が期待されています。


公的資金・助 成   : 

文部科学省科学研究補助金、 内閣府戦略的イノベーションプログラム、NEDO

共 同 研 究: 

Stanford大学、京都大学、京都府立大学、量子科学技術研究開発機構、産業技術総合研究所、 森林総合研究所、HideTechnology、Karolinska Institute、石川島播磨重工業、宮城化成、物質材料研究機構