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 ここに紹介する「AURORA/100」というコンピューターグラフィックスシステムは、現在さまざまな形で流布するその源流のひとつであると同時に、まちがいなく、ぼくの創作の原点でもあります。スタイラスペンでできたペンダコも、そろそろ消えかかっているし、あの目眩く時空との戯れが、記憶の淵深く、ほんとうに沈んでしまう前に・・、気休めかもしれませんが。

AURORA/100のインターフェイスと(1981年頃)

敬愛すべきディック・ショウプを偲び

原点、または蜜月

森田 和夫

1. AURORA/100という伝説

 1981年、当時最新のCGシステム「AURORA/100」との運命的な出合いから、ぼくの愛しのプリンセス・オーロラとの蜜月は始まりました。

 文末に掲載のショートフィルムは、そのころ仕事の合間に実験的に作っていたプライベート作品です。オリジナルデータは、移りゆく時の激流に呑まれてしまいましたが、個人的に記録していたいくつかがVHSテープにかろうじて残っていました。サウンドトラックは制作当初のままのものもありますが、ほとんどは後年にリメイクしました。

 AURORA/100(AU/100 Videographics System / AURORA SYSTEMS *, San Francisco)は、コンピューター・サイエンスの若き先駆ディック・ショウプ ** が、ゼロックスパロアルトリサーチセンターで、NASAの火星探査計画の一環として開発したペイントシステム「SUPER PAINT ***」を、後にテレビ局向けに組み直した2次元CGシステムです。放送機器を扱う商社「報映産業(現/伊藤忠ケーブルシステム)」が、その輸入総代理店となり、ぼくはデモと作画の担当でした。40年も以前のこのシステムのスペックについては言わずもがな、ということで、ぼくの記憶もさだかではないし詳述はできませんが、特徴を一つあげれば、AURORA/100は、たったいま作ったばかりのニュース解説アニメーションや、気象衛星と連携した気象情報アニメーションを、VTR収録なしに、リアルタイムで出力しオンエアすることができたのです。これは現在でいえば、CGアニメーションには欠かすことのできない「フレーム・レンダリング(一コマごとの画像書き出し)」を必要としない、ということです。

脚注 * ** ***
* “AURORA SYSTEMS”
ディック・ショウプが立ち上げたこの会社は、今はもう存在しません。検索するとまったく無関係な同名の会社が表示されます。AURORA/100もとうの昔にディック・ショウプの手から離れ、設計コンセプトも時代に則して一変し、名称も ”LIBERTY” と改められて、一般市場ではまず目にすることのないプロユースのプログラムに進化しています。

**  ディック・ショウプ:Richard G. Shoup (1943-2015)
  参照:https://www.legacy.com/obituaries/sfgate/obituary.aspx?n=richard-shoup&pid=175354140&fhid=11946  参照:https://www.legacy.com/obituaries/name/richard-shoup-obituary?pid=175352035&page=2

***  SUPER PAINT
  参照:https://gfkdsgn.wordpress.com/2019/07/30/super-paint-by-richard-shoup/  参照: https://www.semanticscholar.org/paper/SuperPaint%3A-An-Early-Frame-Buffer-Graphics-System-Shoup/5836c6e03c978682a69e7047c7249b66a3efbdfd

2. アニメーションの方法についての2つの秘策

その1 カラーテーブル・アニメーション

 ディック・ショウプの、その秘策の一つが「カラーテーブル」をアニメーションに利用するという方法です。カラーテーブルとは、プログラム中の「色」を扱う領域のことです。絞り出した絵具を順に並べておくパレットと考えればわかりやすいかもしれません。

 テレビは1秒間に29.97フレームの画像を連続的に表示することで動いて見えますが、まだまだコンピューター技術の黎明期ともいえるこの時代、画面に1枚の画像を呼び出すのに数秒はかかりました。これでは1秒間に30コマ必要なアニメーションをリアルタイムで再生することはできません。ですが、カラーテーブルの色データを書き換えるだけなら余裕です。画像データ上に、連続的に変化する色データのシークェンスをあらかじめ仕込んでおけばいいのです。

 カラーテーブルに並べられるデジタル絵具は、256段階(0〜255)の階調を持つ、R(赤)・G(緑)・B(青)の、いわゆる「光の三原色」です。このR・G・Bの階調を組み合わせてフルカラー(256 x 256 x 256 = 16,777,216色)を作ります。

 AURORA/100では、パレットの色データと画面の色データを対応させるために、同時表示できる色数を128色に限定しています。でも、この128色は、絵具セットのような定まった色ではありません。フルカラーの中から自由に作り出す色なので、128色をすべて同じ色にすることも、レインボーカラーにすることも自由自在です。そしてこの機能こそが、カラーテーブル・アニメーションのかなめです。

 かといって無闇に色は使えません。それには細心の注意が必要でした。アナログテレビが一般的だったこの時代、作画用のR・G・Bモニターではくっきりと見えていた色が、家庭用のテレビで見ると、滲んでぼやけてしまうということがよくあリました。これはR・G・B信号を、放送用のテレビ信号に変換するために起こるアナログテレビの特性上の現象です。特にグレーの上に描かれた彩度の高い文字や図形などは、まったく見えなくなってしまいます。そんな時、パレットの色と画面の色とが完全に紐づけられたAURORA/100は、接する色と色とを見比べながら、特定の色のみの色相・彩度・明度を微調整することができます。この機能を応用して、色の変化をシークェンスにすることが、すなわち「カラーテーブル・アニメーション」ということなのです。


・ カラーテーブル・アニメーションには、以下「a、b、c、d」の4つの再生モードがあります。

a. ステップ・アニメーション

 イメージしてください。パレット上に、0〜30番までのナンバリングされた色が順に並んでいます。0番は背景色です。これを「R=0、G=0、B=0」に設定しました。この色は「黒」です。それ以外の1〜30番をすべて「R=255、G=255、B=255」に設定しました。この色は「白」です。いま、1番の色で画面の左位置に点を一つ描きました。次に、その右隣に2番の色で点を一つ描きます。この作業を30番の色まで順に繰り返します。黒の背景上に白の点線が描かれました。描画に使用したパレットの1番から30番までの色をすべて選択して、ステップ・アニメーションを走らせてみましょう。「RUN」ボタンを押すと、画面の点線は見えなくなって、白い点が左から右に向かって動きます。「点」が移動するアニメーションの完成です。

 AURORA/100は、ペン・タブレットでの入力なので、フリーハンドで自由に描くことができました。パレットの1番から30番までの色を選択したままペイントツールで描画すると、1番から30番の色が順に繰り返し出力された線になります。

 この状態で画面中央から外側に向かって放射状になるように何本かの線を描いてみましょう。はじめはゆっくりと、外側に向かってだんだんと加速するように描きます。ゆっくり描くと点の間隔が狭まり、速いストロークで描けば点の間隔が開きます。放射状の線が描けたら、ステップ・アニメーションを走らせてみましょう。SF映画によく出てくるようなスターフィールドができあがりました。本記末に掲載の『image R』は、パレット・アニメーションですが、作品中の「点」の動きは、こんな方法でで作っています。ご参考まで・・

 さて、アニメーションを走らせたまま、タブレットの右側をスタイラスペンでタップすると、アニメーションのスピードが速くなり、タップを左方向に移動していくと、それに応じてスピードが遅くなります。遅くなるだけでは動きがカクカクしてしまうのですが、ディック・ショウプは、これをやわらげる工夫をしました。あるテレビ局の技術の方が見学に来られたとき、AURORA/100のこのスピードの変化をご覧になって「ディゾッてるーっ!」と言って驚嘆されました。ゆっくりとした再生スピードになるにしたがい、動きが「ディゾルブ」していたのです。ディゾルブというのはフェードインフェードアウトのような残像効果です。たぶん、この見学者の方はテレビ局で同じようなシステムを開発されていたのだろうと思います。でなければ、それに気づかれるはずがありません。

 サンプル1は、サンプル2をステップ・アニメーションしています。サンプル3の『おさるさんとタイプライター』のように、たった2枚でも、立派にステップ・アニメーションです。(ちゃんとディゾルブしていますでしょ?)

サンプル1(step animation)
サンプル2(サンプル1のタネ明かし)
左の細かく色分けされた図は、中心から反時計回りに外側に向かって、パレットの色順に塗ってあります。これをステップ・アニメーションモードで走らせると、上のサンプル1のように動きます。ところどころに白く抜けた部分がありますが、ここで、コマをひとつ飛ばして(動きを一瞬速くして)アクセントをつけています。
サンプル3『おさるさんとタイプライター』(step animation)

b. リヴィール・アニメーション

 基本的にはステップ・アニメーションと同じですが、この再生モードでは、選択した色が順に見えていきます。ですので、線グラフや棒グラフの線伸びや、漢字の書き順を示すアニメーションなどに使えます。ゆっくりしたスピードで再生すれば、フェードインしながら漢字が書かれていき、書き順をわかりやすく学ぶことができます。

 下の、ワインが減っていくサンプル4のアニメーションは、じつは、ワインのピンク部分が色番号0番の背景です。背景に見立てたブルーグレーの面にはグラスの形の穴が開いていて、ほんとの背景のピンクが覗いています。そこに、このブルーグレーとまったく同じ色を下方向に伸ばしていく、という逆転の発想です。

サンプル4(reveal animation)

c. サイクル・アニメーション

 この再生モードは、選択した複数の色を順ぐりにシフトしていきます。1番の色データを2番に、2番は3番に、3番は4番に、・・最終色は1番に、という具合です。たとえば下のサンプル5のように、複数色をグラデーションにして、ドローツールで線や曲線を描けば、グラデーションが流れるようにして動き、方向を示したり液体の流れを表現する効果を作ることができます。必ずしもグラデーションでなければならないということではなく、サンプル6は、ランダムに配置したそれぞれの升目の中を「ピンク・紫・白・紫・黒・紫・紫・」の順で色がループしています。

サンプル5(cycle animation)
サンプル6(cycle animation)

d. パレット・アニメーション

 この再生モードはほかとは少し異なります。点を動かす程度のステップ・アニメーションでは、点が重なって接してもさして問題はありませんが、これが重なって接すると大いに問題があるような場合、たとえばすこし大きめの点、すなわち塗りつぶされた円の場合、これを動かそうと重ねて描くと、後描きが優先されて直前に描かれた円は三日月のように削れてしまいます。このようなとき、削れてしまう部分をパレットの別番号の色で補います。このパレットの状態を「パレット1」として保存し、次の補われたパレットの状態を「パレット2」として保存します。このようにして順次保存されたパレットを連続的に呼出すことでアニメーションが再生されるのです。右のサンプルでの8つの白い円は、15色で色分けされています。最初の白い円は、1番と9番を白に、他をすべて背景色と同じ黒に、2つめの白い円は、9番、2番、10番が白、ほかを背景色と同じ黒に、3つめ以降も同様です。

 サンプル7とサンプル8は、1枚の絵の中に動かす要素をすべて描き込んでいて、それぞれの色の可視・不可視(背景と同じ色)のパレットを作っています。

サンプル7(palette animation)
サンプル8(palette animation)

その2 トゥープレーン・アニメーション

 「トゥープレーン」とは、背景と前景の「二つの平面」を意味します。リアルタイム・アニメーションのための、ディック・ショウプのもう一つの秘策が、少々強引とも思われる、ハードウェア的に画像をスライドさせるというこの方法です。ハードウェアは、家が1軒建つほどのAURORA/100 Systemの価格の半分を占めるといわれる、メモリの塊、DeAnza製のフレームバッファです。このハードウェアに溜め込まれた画像データを前景あるいは後景として、これをスライドさせることによってアニメーションを作り出します。たとえば、カラーテーブル・アニメーションではあり得ないグラデーションを使って立体的に表現された棒グラフを動かそうというとき、あらかじめ作られた「立体的な棒」の画像データをフレームバッファに読み込んでおき、それを下からニュッとスライドさせてバックグラウンドに貼り付け、また次の棒をスライドさせてバックグラウンドに貼り付ける、といった方法です。

 サンプル9は、『不思議の国のアリス』に登場する「チェシャ猫」のつもり。ニヤニヤ笑う明るい黄色のところが、色番号0番の実際の背景です。ダークブルーの見かけの背景に円いマドを開けているのです。そこに、円いマドと同径のダークブルーの円を、ニヤニヤ笑う三日月型の口をイメージしてぐるぐるとスライドさせています。

サンプル9(2-plane animation)
(サンプル1〜9は、1985年ころの作です)

余談・アンチ・エイリアシングについて

 コンピューターで描かれた絵は、小さな四角い画素でできているので縁がギザギザしています。なるべくこのギザギザを感じさせないように、現在ではアンチ・エイリアシングという画像処理がなされています。アンチ・エイリアシングは、ギザギザが滑らかに見えるように、隣り合った画素との間をなじませる技術なのですが、じつはこれ、ディック・ショウプが提唱者 **** なんですよ。今ではみなさんあたりまえに使っていますが・・(なんで森田がドヤ顔になってるの?)。しかし、この技術も良し悪しで、たとえばこの技術を使って、上のチェシャ猫のように同径の円を重ね合わせると、縁にわずかな隙間ができて、光が漏れているように見えてしまいます(下図右)。でもAURORA/100で描かれた上のチェシャ猫は、黄色の円いマドと、それと同径のダークブルーの円が、ある一瞬ピタリと一致しています。これはアンチ・エイリアシングしていないからです。最近のテレビは、4Kだ8Kだと、解像度を細かくする方向に技術が進んでいるようですが、グラフィックスも、きっと向かう方向はそっちなんだと思います。つまりアンチ・エイリアシングのいらない方向。

左:アンチ・エイリアシングなし  カーブがギザギザだが、黄色い部分に同じサイズの濃いブルーがぴったりとはまる。
右:アンチ・エイリアシングあり  カーブは滑らかだが、黄色の部分に同じサイズの濃いブルーを重ねるとわずかな隙間を感じてしまう。

 「4Kテレビ」は、画素がよこに3840個たてに2160個、「8Kテレビ」はよこに7680個たてに4320個並んでいます。ちなみにわが家のテレビは、よこに1920個たてに1080個。もう売っていません(たぶん)。そしてAURORA/100の時代は、よこ720 個たて540個とか、よこ640個たて480個です。ギザギザがもろ見えです。なので、アンチ・エイリアシングはとても有効だったわけ。ほんの10年ほど前までこうだったのですよ、おおむかしのような気がしませんか。

脚注 ****
**** ディック・ショウプが提唱者
1987年版『imidas イミダス』(集英社)の項目「コンピューター・グラフィックス」(802ページ)に、東京大学名誉教授の國井利泰先生が次のようにお書きになっています。「・・・ギザギザを減少させる方法がアンチ・エィリアシングである。この方法はサンプリング理論を基礎としており、1973年にアメリカのR・G・シャウプにより提案され、翌74年にE・カトマル、さらに77年にF・C・クロウが発展させた・・・云々」と。ここに書かれている「R・G・シャウプ」こそ、Richard G. Shoup、すなわちディック・ショウプです。(ぼくの耳には「シャウプ」ではなく「ショウプ」と聞こえたので、この書き方を使っています)

3. まとめ

 ふぅ・・、ほかのさまざまは、ぼくの心にしまっておこう、・・書ききれないし。

 以上が、わが敬愛すべきディック・ショウプのAURORA/100のアニメーションの方法です。こうして振り返ってみるとたいへんシンプルです。あとは、このAURORA/100と、どうお付き合いしていくか、です。「点」が動きました・・。はぁ、だから?と・・。これでは仕方ありません。AURORA/100はツールにすぎないのです。AURORA/100が「プリンセス・オーロラ」として変貌を遂げるとき、すなわち「人格」を持つそのとき、映画『2001年宇宙の旅』に登場する「 HAL-9000 "」***** のようなことを言っているのではなく、つまりAURORA/100に「人の心」がかかわってはじめてクリエイティブがなされる、ということ。これは今の世も変わりありませんよね。アプリ頼りはいけません、と、わが身にきつく言いきかせつつ・・。

 いつの日だったか、AURORA/100のグラデーション機能をつかって「球」を作っていました。そこにディック・ショウプが背後から、「モリタ、この球どうやって作ったの?」と訊いてきました(おだててるだけなんだろうけど・・)。「だって、これあなたが書いたプログラムでしょ?」と、うまく返せたかどうか、はなはだ疑問ですが・・、英語できないので。・・・あぁ、ぼくのヒーロー、・・亡くなってしまった。安らかに、安らかに・・・。sayo-nara、そして、ありがとう、Dick。

脚注 ***** 
***** HAL-9000
「HAL-9000」とは、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』(1968) に登場する、木星に向かう宇宙船ディスカバリー号の隅々までを制御しているコンピューター。呼称は、「Hal(ハル)」。1992年にイリノイ州のHAL研究所で開発された(もちろん架空ですよ、映画のなかのはなし)。コンピューターに「意識」がめばえることはあり得るのか、という問題を提起している。これは、この映画の重要なテーマ。ちなみに 「H、A、L」 は、「I、B、M」をひとつづつずらしたものとの説があるが、小説版作者アーサー・C・クラークによれば、 "Heuristically programmed ALgorithmic computer" (発見的アルゴリズムコンピューター)の略であって、「I、B、Mをずらした説」は俗説、という。ハヤカワ文庫SF『失われた宇宙の旅2001』(絶版)133ページにこうある。「IBM社は協力してくれた企業なので、早く気づけば避けて通りたかった偶然。確率が26の3乗、17576分の1であるにしても・・」と。でも、どうかなー、そんな偶然、ありますかねー、忖度じゃないのかなー、と、ぼくは密かに思ってるんですけど。どうでもよろしいが・・。・・そういえば、ジャン=リュック・ゴダールの映画『アルファヴィル』(1965)も、「意識」がテーマでした。こういうほんとうにワクワクする映画、イマジネーションをフル回転させてくれる映画がたくさんありましたよね、あのころは・・。余談でした。もひとつ余談(追記)。先日『TENET』という映画を見てきました。これ、やりすぎ。ドキドキしたけどワクワクしませんでした。疲れちゃった。ワクワクが重要ですよね、やっぱり、映画は。

4. AURORA/100という幻影

 AURORA/100、ぼくとともに蜜月を過ごしたプリンセス・オーロラとの愛の合作、古いふるい幻影をいくつかご紹介しましょう。「夢」の中からすくい出してきました。

 ● 絵をクリックすると、YouTubeでご覧になれます。

時 (5' 22" / 1985)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "multicolor video input"

AURORA/100はフルカラー表示ではないので、画像入力もモノクロームのビデオカメラから行います。まだ日本語のフォント自体存在しない時代ですので、ビデオ入力はおもに文字(写植テロップ)の取り込み用でした。モノクローム入力なのですが、選択する色を自由に変えられるので、この作品では、このような色の階調を作ってビデオ入力しました。

ビデオ入力のスタンバイ状態で動いている実画像は、入力した瞬間に取り込まれて固定されます。この作品の冒頭でご覧のとおりです。画面上でチラチラ動いている正方形は位置を選択しているブラシで、ここだけビデオ入力のスタンバイ状態が続いています。入力ペンに圧をかけると取り込まれるので、圧のかかる入力ペンの動くタイミングで、動いている時計の針が変形していきます。この作品は、AURORA/100のマニュアルには書かれていない現象、いわばバグを利用しています。

video rough (16' 35" / 1986)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "palette animation" & "2-plane animation"

恐縮します。長々とご覧になっていただかなくても・・と思います、これ16分半もあるので。この作品のなかのカットの多くはパレットアニメーションです。1枚の画像データの中に動きのすべてが描き込まれていて、カラーテーブルの色データの可視化、不可視化(背景と同色にする)によりアニメーションしています。また、動きが任意に動いたり止まったりしますが、ペンがタブレットに接触するとアニメーションが走り、離れると止まるようになっていて、収録しながらそれをリアルタイムで行っています。音は、YAMAHAのDX-7で作リました。この音は現在使っているLogic Pro Xでは作れなかったので貴重です、へんな音ですけど。この作品、よく一人でボーッと見ていました。

そ ら (6' 18" / 1983)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "multicolor painting" & "2-plane animation"

空に穴が開き夜空が広がっていきます。夜空を広げているのは「マルチカラー・ペインティング」です。マルチカラーでペイントすると、パレット番号の若い方からペイントされていき、次々と隣の番号の色に移り変わっていきます。この作品では、パレットのはじめの2色で「月とその周りの色」のブラシを作りました。最終的に「月夜」になるようにパレットを作ります。最初の色はダークブルーなので、まだ「月」には見えませんが、色が移り変わり、最終の色、背景のダークブルーと黄色みを帯びた白(月)、に達すると、それ以上もう色は移り変わらないので、月が夜空を削り出しているように見えます。空に残っている星は最初は青空と同じ色で描かれているので見えませんが、星だけペイントされないように選択を反転(選択以外を選択)して描いていきいます。

penta (2' 38" / 1986)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "2-plane animation"

星が綱渡りして、左右に動くループを作っておき、それをトゥープレーン・アニメーションで動かします。「RUN」ボタンを押して、ペンをタブレットに接するとアニメーションが走り、ペンを離すとストップします。VTRを回しながら、リアルタイムでこれを繰り返しました。音はYAMAHAのDX-7です。収録済みのテープを回しながら、ビヨーン、ボヨーンと鳴らしたわけです。だからもちろんシンクロしません。でもそれが愉快でした、作っていて。

LANDING (3' 46" / 1986)

©︎ Kazuo MORITA , music by Ken ISHIBA

Animation mode : "2-plane animation"

トゥープレーン・アニメーション。くるくる回転している目玉のようなUFOが、トンボのように竿の先の着地を試み、そして、飛び去る。フーム・・・、ウーン・・・。

image R (4' 29" / 1985)

©︎ Kazuo MORITA , music by Ken ISHIBA

Animation mode : "palette animation"

背景に流れる白い点は、一見ステップ・アニメーションのように見えますが、じつはパレット・アニメーションです。黒い「空」の部分と緑の「地面」の部分の、複数の点の色番号を分ける必要があるからです。そこで、最初にステップ・アニメーションの手法で作った点の流れを、地面が背景の部分を選択してほかの色番号に置き換えます。黒い空が背景の部分の色は「白・黒・黒・黒・・・」とつづき、緑の地面が背景になる部分は「白・緑・緑・緑・・・」となります。そしてそれぞれの色グループのシフトを繰り返して、一回ずつパレットの状態を保存していきます。

GALAXY 2 (5' 01" / 1983)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "2-plane animation"

これはショートバージョンです。通常の作画においてトゥープレーン・アニメーションを行うときは、最初に背景の位置を「ここだぞ」とAURORA/100に教えてあげなければなりません。その背景自体をあえて動かしてしまうことで、前景がまるでバグであるかのように崩れます。背景と前景のループの長さを変えることで、ループに少しずつズレが生まれ、時間経過にともないズレが大きくなっていきます。AURORA/100は、レンダリングなしに延々と回すことができるので、この変化を壮大な銀河の誕生に見立てて、ぼくはずっと眺めて楽しんでいました。30分ほど収録したものがオリジナルなのですが、さすがにそれはちょっと・・です。なので、5分で切り上げ、ショートバージョンにしました。変化していますが、変化がないので・・・。

液 化 (6' 24" / 1985)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "cycle animation"

サイクル・アニメーションで、波のような効果を作ろうと試みました。ラインドローツールを使って、1番の色で山の形を描き、2番の色で少し平らになった山の形を描き、順々に山の形が谷の形に変化するように描きます。その複数の色を、まとめてコピー、そして色をシフトしてズレを作ります。作品の中でグレーのチラつきが見えますが、色列をコピー、シフトして置き換えるために選択している状態をそのまま使っています。すみません、うまく説明できません。デジタルの硬い線が液化するように「波」になっていく過程をお楽しみいただければ幸いです。

DANCE 2 (6' 41" / 1983)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "2-plane animation"

トゥープレーン・アニメーションについては、"GALAXY 2"と同じです。音は、この作品の3つ前に紹介の『image R』で参加している友人Ken Ishibaくんが持っていたKORGのアナログシンセサイザー「KORG MS-20」です。単音しか発声しませんが、どうです?この音。ほぼ40年前のぼくが、興に乗って出鱈目に弾いています。・・あほか? でも楽しかった。

chip (11' 13" / 1983)

©︎ Kazuo MORITA , music by GAZZI

Animation mode : "2-plane animation"

これも"GALAXY 2"と同じで、静止しているべき背景がアニメーションしているので、そこに定着するべき前景が背景に引きずられてしまい、こんな動きをしてしまいます。ほとんどバグに近いこの現象を、逆に効果として利用しています。実際の仕事でもトゥープレーン・アニメーションの需要はかなりありましたが、もちろん、こんな使い方はしていません。

CONSTELLATION(星座) (11' 03" / 1987)

©︎ Kazuo MORITA , silent

Animation mode : "cycle animation"

一見ステップ・アニメーションです。でもこれ、釘穴が動いたら? という着想なので、画面の「点」が釘穴に見えるように、限りなく白に近い明るいグレーの背景に、白のエッジのついた黒い点を、サイクル・アニメーションで動かしています。色番号としては、背景の0番が、R=250、G=250、B=250の限りなく白に近いグレー。1番がR=0、G=0、B=0の黒、2番がR=255、G=255、B=255の明るい白、3番以降31番までを背景と同色にして、これが次々とシフトしています。「壁に掛かった動く絵画」というつもりなので、音はつけませんでした。


Old time___原点、または蜜月

2020年8月29日

● お読みくださり、ありがとうございました。