主要な論文の内容紹介   Description

勝間進教授による、これまでの研究生活の中で特に大事な論文や印象深い研究の内容紹介です。

(*責任著者,#同等貢献) 


1. piRNA,性決定関係

(1) Kawaoka S, Minami K, Katsuma S, Mita K, and Shimada T*. Developmentally synchronized expression of two Bombyx mori Piwi subfamily genes, SIWI and BmAGO3 in germ-line cells. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2008, 367, 755–760.

河岡くんのpiRNA研究論文第1弾.卒論生の南くんと協力してカイコのPIWI遺伝子であるSiwiBmAgo3をESTからクローニング,配列決定し,発現プロファイルを作成した論文.ノーリバイズでアクセプトされた.南くんは修士課程から理学研究科に移籍したが,今では他分野で活躍しているようで(新年会にもよく来てくれる)嬉しい限りである.

 

(2) Kawaoka S, Hayashi N, Katsuma S, Kishino H, Kohara Y, Mita K, and Shimada T*. Bombyx small RNAs: Genomic defense system against transposons in the silkworm, Bombyx mori. Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2008, 38, 1058–1065.

2008年に発表されたIBMB誌のカイコゲノム特集号のアカンパニー論文として発表したもの.カイコのpiRNA配列を発表した最初の論文である.この時代はまだプラスミドにタンデムにクローニングしたpiRNAをサンガー法で読んでいた.生物測定学研究室の林くんがインフォマティクス解析で重要な役割を果たしてくれた.ここから(12)の論文まで到達できたのは,今になってもすごいことだと思う.

 

(3) Kawaoka S, Hayashi N, Suzuki Y, Abe H, Sugano S, Tomari Y, Shimada T, and Katsuma S*. The Bombyx ovary-derived cell line endogenously expresses Piwi/Piwi-interacting RNA complexes. RNA, 2009, 15, 1258–1264.

カイコ卵巣由来の培養細胞であるBmN-4がpiRNA研究に有用であることを示した重要な論文.カイコ個体でのpiRNA研究に行き詰まっていた時に,以前のプレ実験(2005年だと思う)でチョウ目昆虫の培養細胞であるBmN-4, Sf-9, HighFiveにpiRNA様の小分子RNAが存在することを思い出し,培養細胞での実験系の作成に取り組んだ.この論文では,BmN-4細胞からpiRNA様RNAをクローニングし,それがpiRNAであることを示した.また,SiwiとBmAgo3の抗体を作成し,それぞれに結合するpiRNA配列を調査した結果,この細胞がピンポンサイクルと呼ばれるpiRNA産生経路を完全に保持する細胞であることが明らかになった.これはpiRNAピンポン経路を保持することが証明された初めての細胞であり,現在もpiRNA研究に世界中で広く用いられている.論文審査時には自分の名前を自ら名乗るレフリーに初めて遭遇した.この論文から,鈴木先生,菅野先生,泊先生にお世話になり続けている.また,このあたりから河岡くんの論文のコレスポンディングをするようになった.

 

(4) Kawaoka S, Arai Y, Kadota K, Suzuki Y, Hara K, Sugano S, Shimizu K, Tomari Y, Shimada T. and Katsuma S*. Zygotic amplification of secondary piRNAs during the silkworm embryogenesis. RNA, 2011, 17, 1401–1407.

カイコの胚子piRNAを発生段階別にクローニングして,その配列を解析することで,トランスポゾンに対するpiRNAが産生される様子をモニタリングすることに成功した.修士から加入した新井くんが参加した論文である.投稿がちょうど震災の頃で非常に落ち着かない時期だった気がするが,審査結果が前のBmN-4論文と比較して非常に良かったのでホッとした覚えがある.この頃からインフォ解析を極めるために,河岡くんがアグリインフォの門田先生のところに入門した.

 

(5) Kawaoka S, Izumi N, Katsuma S*, and Tomari Y*. 3' end formation of PIWI-interacting RNAs in vitro. Molecular Cell, 2011, 43, 1015–1022.

(3)の論文のリバイズの時から,河岡くんが分生研の泊先生のところで生化学実験の修行を行った結果生まれた大きな成果であり,2020年5月末ですでに220件以上の引用がある.BmN-4ライセートを用いて,試験管内でpiRNAを産生するシステムを構築することに成功し,piRNAの3'末端を決定するヌクレアーゼ“トリマー”の存在を示唆した.この実験系は後の幾つかの大きな論文につながることになる.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2011/20110920-1.html

 

(6) Kawaoka S#, Kadota K#, Arai Y, Suzuki Y, Fujii T, Abe H, Yasukochi Y, Mita K, Sugano S, Shimizu K, Tomari Y, Shimada T and Katsuma S*. The silkworm W chromosome is a source of female-enriched piRNAs. RNA, 2011, 17, 2144–2151.

W染色体上の雌性決定領域から産生されるpiRNAの発見を報告した論文.カイコのW染色体変異体やpiRNAのSNPs(一塩基多型)を利用して,メスで多い,あるいはメス特異的に存在するpiRNAを同定した.最初のバージョンでは,これらのpiRNAが性決定・性分化と関連している可能性を強く記載したため,piRNAの機能解析を求められ,ハイランクジャーナルからはことごとくリジェクトされた.しかし,この路線での研究はやがて単一のpiRNAが性を決定するという大きな発見につながったものであり,極めて重要な論文であると位置付けている.自分の研究生活の中でも苦労した論文の一つであり,最終的にRNA誌に掲載まで持ち込んだ河岡くんの努力には敬意を表したい.

 

(7) Kawaoka S#, Mitsutake H#, Kiuchi T, Kobayashi M, Yoshikawa M, Suzuki Y, Sugano S, Shimada T, Kobayashi J*, Tomari Y*, and Katsuma S*. A role for transcription from a piRNA cluster in de novo piRNA production. RNA, 2012, 18, 265–273.

バキュロウイルスの研究でもお世話になっている山口大の小林淳教授のグループが作成したGFPレポーター導入BmN-4細胞を用いて,外来遺伝子がpiRNAによる制御を受ける仕組みにアプローチした研究.ハエとマウスで類似研究を行っていたグループとコサブミットすることになったが,結果的にこのジャーナルに落ち着いた.レポーターカセットがpiRNAクラスタにアンチセンス方向で挿入されることが, piRNA経路に認識されるために重要であることが示唆されたが,後述のように未だに議論の余地があるテーマである.

 

(8) Hara K, Fujii T, Suzuki Y, Sugano S, Shimada T, Katsuma S*, and Kawaoka S*. Altered expression of testis-specific genes, piRNAs, and transposons in the silkworm ovary masculinized by a W chromosome mutation. BMC Genomics, 2012, 13, 119.

修士から他研究室より移籍してきた原さんの1st論文. W染色体に変異を持つカイコ間性系統のpiRNAや遺伝子発現を調査した論文.河岡くんにコレスになってもらった初めての論文でもある.この論文で作成したpiRNAライブラリーはのちのFem piRNA論文でいい働きをすることになる.

 

(9) Kawaoka S*#, Hara K#, Shoji K, Kobayashi M, Shimada T, Sugano S, Tomari Y, Suzuki Y, and Katsuma S*. The comprehensive epigenome map of piRNA clusters. Nucleic Acids Research, 2013, 41, 1581–1590.

原さん2nd論文かつ河岡くんのコレス2作目で,取りまとめはほとんど河岡くんがやってくれた.原さんのChIP-seqと庄司くんのqPCR,鈴木先生のインフォや統計処理指導も強力でした.BmN-4細胞における各種ヒストン修飾と遺伝子の転写開始点,piRNAクラスタに関するマップを作成した論文で,のちのHP1a論文に大いに活かされるデータベースが構築できた.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2012/20121225-4.html

 

(10) Izumi N#, Kawaoka S#, Yasuhara S, Suzuki Y, Sugano S, Katsuma S*, and Tomari Y*. Hsp90 facilitates accurate loading of precursor piRNAs into PIWI proteins. RNA, 2013, 19, 896–901.

(5)の論文で確立したin vitro piRNA実験系とpiRNAのインフォ解析を合わせて,分子シャペロンであるHSP90がpiRNA前駆体の loadingに関わることを示した論文.泊研の泉さん,河岡くん,安原くんの共同研究の成果である.

 

(11) Shoji K, Kiuchi T, Hara K, Kawamoto M, Kawaoka S, Arimura S, Tsutsumi N, Sugano S, Suzuki Y, Shimada T, and Katsuma S*. Characterization of a novel chromodomain-containing gene from the silkworm, Bombyx mori. Gene, 2013, 527, 649–654.

庄司くんの第一弾論文.カイコのHP1遺伝子を探索する過程で見つけたクロモドメインのみを持つ新規遺伝子のクローニングと性状解析の報告.ChIP-seqでゲノム上の結合領域を特定し,その近傍の遺伝子発現がBmN-4やカイコ胚子でのRNAiで変化するかを調べたが,特に何も起こらなかった.未だにこの遺伝子の機能は不明である.

 

(12) Kiuchi T, Koga H#, Kawamoto M#, Shoji K#, Sakai H, Arai Y, Ishihara G, Kawaoka S, Sugano S, Shimada T, Suzuki Y, Suzuki MG and Katsuma S*. A single female-specific piRNA is the primary determiner of sex in the silkworm. Nature, 2014, 509, 633–636.

カイコ雌性決定遺伝子がW染色体から産生される一種類のpiRNAであることを証明した論文.内容は下記のプレスリリースをはじめいろいろなところで書いているので,そちらを参照されたい.RNA-seqの解析結果をメーリスで流したとき,それを見たみんなが「これだ!」とFemの本体を見つけたのが2013年2月ごろ.その時点から論文の構成を考え始め,Fem piRNAのターゲットMascの同定,RNAiによるMascの機能解析等を並行して行い,8月終わりにほぼ投稿原稿を作り上げた.2013年10月2日にNature誌に投稿し,エディターキックを逃れた時に一安心し,4人のレフリーからの審査結果がマイナーリビジョンだった時にはガッツポーズが出たが,1stリバイズの結果がメジャーリビジョンに変わった時から地獄が始まった.最終的には,木内くんをはじめグループみんなの不眠不休の努力で,4thリビジョンの段階で2014年の4月8日の夕方にアクセプトメールが届いた.遺伝子量補償に関しては別論文にして詳細に報告する予定だったので,リバイズ時に組み込まなければいけなかった点は非常に残念だった.Nature誌で発表された後は海外のメデイアからも高い評価を受け,その号のHot Topics(最もホットな話題)にも選ばれた.現在,この研究は多くの発展的テーマとして鋭意継続されている.2020年5月時点ですでに260回以上引用されています.

 

・農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2014/20140515-1.html

・東京大学本部による発表

http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/single-female-specific-pirna-is-primary-determiner-of-sex-in-silkworm/

http://www.u-tokyo.ac.jp/en/utokyo-research/research-news/single-female-specific-pirna-is-primary-determiner-of-sex-in-silkworm/

・ライフサイエンス 新着論文レビュー

http://first.lifesciencedb.jp/archives/8827

Nature誌のNews&Views (Marec博士による)

http://www.nature.com/nature/journal/v509/n7502/full/nature13336.html

Nature誌のNews (勝間がインタビューを受けた内容.川本さんの写真が使われている.)

http://www.nature.com/news/silkworm-sex-factor-is-no-ordinary-gene-1.15221

Natureダイジェスト2014年8月号「特集:驚異の生命設計図」のトップ記事及び特別公開記事(勝間はコメントを寄稿)

NatureのHot Topics

http://www.natureasia.com/en/nature/hot-topics/detail/909

Biology of Reproductionでの紹介

http://www.biolreprod.org/content/early/2014/05/23/biolreprod.114.121921.abstract

Genome Biologyでの紹介

http://www.genomebiology.com/content/15/6/118

Nature Reviews Geneticsでの紹介

http://www.nature.com/nrg/journal/vaop/ncurrent/full/nrg3769.html

BioTechniquesでの紹介 (勝間がインタビューを受けた内容)

http://www.biotechniques.com/news/Small-RNA-Determines-Sex/biotechniques-352151.html?service=print - .VoI9HoRdqpM

RNA Biology誌の総説

http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15476286.2014.996060?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed#.VoI6o4RdqpN

・蚕糸昆虫バイオテックでの特集

特集「チョウ目昆虫の性決定・性分化研究の最前線」にあたって

https://www.jstage.jst.go.jp/article/konchubiotec/84/1/84_1_1/_article/-char/ja/

カイコの性決定最上流因子の発見

https://www.jstage.jst.go.jp/article/konchubiotec/84/1/84_1_7/_article/-char/ja/

カイコにおける遺伝子量補正の発見

https://www.jstage.jst.go.jp/article/konchubiotec/84/1/84_1_17/_article/-char/ja/

・F1000 (Exceptional)

http://f1000.com/prime/718387052

 

(13) Shoji K, Hara K, Kawamoto M, Kiuchi T, Kawaoka S, Sugano S, Shimada T, Suzuki Y, and Katsuma S*. Silkworm HP1a transcriptionally enhances highly expressed euchromatic genes via association with their transcription start sites. Nucleic Acids Research, 2014, 42, 11462–11471.

庄司くんの第二弾論文で修論の一部である.原さんが残してくれたHP1aのChIP-seqデータを利用して,カイコのHP1aが発現量の高い遺伝子の転写を亢進する役割があることを示した.インフォ解析をフルに行い,RNAiなどの機能解析も行った重厚な内容になっている.リバイズではBmN-4以外のカイコ細胞においても同じ現象が観察されるか検証しなければならないなど結構大変だったが,庄司くんが踏ん張ってくれ,NAR誌での掲載に至った.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2014/20140929-1.html

 

(14) Kawamoto M, Koga H, Kiuchi T, Shoji K, Sugano S, Shimada T, Suzuki Y, and Katsuma S*. Sexually biased transcripts at early embryonic stages of the silkworm depend on the sex chromosome constitution. Gene, 2015, 560, 50–56.

川本さんの1st論文.Nature論文ではスペースの関係で入れることができなかった,カイコ胚子期で発現に雌雄差がある遺伝子のリスト化論文.初期胚においてメスで発現が高い遺伝子の多くはW染色体から転写されるpiRNA前駆体であり,オスで発現の高い遺伝子の多くはZ染色体上の遺伝子であることが明らかになった.また,遺伝子量補正は産下後72時間でほぼ確立するが、幾つかの遺伝子では遺伝子量補正を免れたり,徐々に補正されることが明らかになった.論文の大部分は川本さんが仕上げ,qPCRによるバリデーションを古賀くんが行った.

 

(15) Fukui T#, Kawamoto M#, Shoji K#, Kiuchi T#, Sugano S, Shimada T, Suzuki Y, and Katsuma S*. The endosymbiotic bacterium Wolbachia selectively kills male hosts by targeting the masculinizing gene. PLoS Pathogens, 2015, 11, e1005048.

Nature論文のMasc KD実験で明らかになった「Mascの発現低下でオス殺しが起きる」という人工的な現象が自然界でも起きているのかを検証した研究.グループ総出で虫取りに行き,福井くんが実験し,川本さん,庄司くんがインフォ解析し,木内くんがインジェクションを行った.ボルバキア感染アワノメイガにおける「オス殺し」がMascの発現量低下による遺伝子量補正の破綻によるものであることを証明できた論文である.PLoS Pathogens誌には最初リジェクトされたが,コメントで書かれた実験を全て行い再投稿することで,エディターレベルでアクセプトに至った.次のゴールはボルバキアの持つ「Masc制御因子」を同定することであり,新学術領域「性スペクトラム」で研究を継続している.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150715-1.html

 

(16) Lee J, Kiuchi T, Kawamoto M, Shimada T, and Katsuma S*. Identification and functional analysis of a Masculinizer orthologue in Trilocha varians (Lepidoptera: Bombycidae). Insect Molecular Biology, 2015, 24, 561–569.

李くんの第一弾論文.カイコの近縁種であるイチジクカサンのMasc遺伝子をクローニンングし,その機能解析を行った報告である.カイコ培養細胞BmN-4における発現,及び胚子におけるRNAiの結果,この種のMascもオス化に関与していることを明らかにした.

 

(17) Shoji K, Katsuma S*. Is the expression of sense and antisense transgenes really sufficient for artificial piRNA production? Current Biology, 2015, 25, R708–710.

人工的にpiRNAを産生させるために必要な条件は何か,についてCorrespondenceとしてCurrent Biology誌に発表した.ゲノム上のpiRNAクラスタにトランスジーンが挿入されることがpiRNA産生に必要であると考えているが,蚊のアルボウイルスに感染した一部の細胞や後述するカイコマキュラウイルスでは,ウイルス抑制にpiRNA経路が関与していることも報告されており,まだ結論は出ていないと言える.

 

(18) Katsuma S*, Sugano Y, Kiuchi T, and Shimada T. Two conserved cysteine residues are required for the masculinizing activity of the silkworm Masc protein. Journal of Biological Chemistry, 2015, 290, 26114–26124.

カイコオス化因子Mascのオス化に関わる領域,及びアミノ酸残基を特定した論文.(12), (15), (16)の論文でMasc cDNAをカイコ卵巣由来BmN-4細胞に導入するとBmdsxのオス型スプライシングとオス型BmIMPの発現が観察されたことから,この実験系を利用してMascタンパク質のオス化に関わる領域を絞り込んだ.その結果,チョウ目昆虫のMasc間で保存されていた二つのシステイン残基がオス化に必須であることが示された.培養細胞系では遺伝子量補償の検証が難しいため,今後は遺伝子量補償に関与する領域を同定するための実験系を構築する必要がある.論文はテーブルをサプリに回すだけのノーリバイズでアクセプトになった.

 

(19) Izumi N, Shoji K, Sakaguchi Y, Honda S, Kirino Y, Suzuki T, Katsuma S, Tomari Y*. Identification and functional analysis of the pre-piRNA 3' Trimmer in silkworms. Cell, 2016, 164, 962–973. 

(5)の論文から約5年,泊研の泉さんがついにトリマーの分子実体を生化学的手法で明らかにした論文.本当にすごい仕事です.piRNAの3'トリミングに関わる酵素が生物種間(昆虫間でも)異なることが示唆されました.庄司くんがpiRNAのインフォ解析で貢献しました.

 

(20) Sugano Y, Kokusho R, Ueda M, Fujimoto M, Tsutsumi N, Shimada T, Kiuchi T, Katsuma S*. Identification of a bipartite nuclear localization signal in the silkworm Masc protein. FEBS Letters, 2016, 590, 2256–2261. 

(18)の続き.培養細胞を用いて,Mascタンパク質の核移行シグナルを同定し,核移行の程度とオス化能力の関係を調査したもの.植物分子遺伝学研究室とのコラボレーションにより,非常に美しい共焦点画像を取得することができた(ありがとうございます).菅野くんの第一弾論文.彼は専攻長賞を授与され,とある製薬会社に就職した.

 

(21) Sakai H, Sumitani M, Chikami Y, Yahata K, Uchino K, Kiuchi T, Katsuma S, Aoki F, Sezutsu H, Suzuki MG*. Transgenic expression of the piRNA-resistant Masculinizer gene induces female-specific lethality and partial female-to-male sex reversal in the silkworm, Bombyx mori. PLoS Genetics, 2016, 12, e1006203. 

新領域研究科の鈴木雅京准教授,農研機構の瀬筒先生のグループとの共同研究.piRNA抵抗性のMascを導入したトランスジェニックカイコの解析によって,メスで精子が形成されるなど,Mascタンパク質のオス化能を実証することができた.Natureにほぼアクセプトの状態であった2014年の蚕糸学会で瀬筒先生に共同研究をお願いし,その研究を酒井くんと笠嶋さん仕上げた成果.この結果は特許の取得にもつながっている.

 

(22) Shoji K, Suzuki Y, Sugano S, Shimada T, Katsuma S*. Artificial "ping-pong" cascade of PIWI-interacting RNA in silkworm cells. RNA, 2017, 23, 86–97. 

庄司くんが昆虫遺伝研に所属していた時に出したラスト論文.カイコBmN-4細胞を利用して,piRNAのping-pongサイクルの存在を実験的に証明した論文である.また,この実験系を利用して,piRNAがターゲット配列を認識するのに必要な配列の条件を探索し,5'末端から17塩基分連続した相補性があればpiRNAによってターゲット配列を認識できること,および22塩基分の相補性があればそれ以上の相補性は認識効率には影響しないことを明らかにした.この実験系を利用した研究は現在も発展継続中です.論文を最初に投稿してからアクセプトされるまで約1年を要したが,最終的には良い論文になったと思います.この研究結果は,下記の通りプレスリリースしました.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2016/20161101.html

 

(23) Katsuma S*#, Kawamoto M#, Shoji K#, Aizawa T#, Kiuchi T, Izumi N, Ogawa M, Mashiko T, Kawasaki H, Sugano S, Tomari Y, Suzuki Y, and Iwanaga M*. Transcriptome profiling reveals infection strategy of an insect maculavirus. DNA Research, 2018, Vol. 25, No. 3, 277–286.

カイコマキュラウイルス(以前はBmMLVと呼んでいましたが,現在はBmLVと名前を変えています)は植物ウイルスに属しますが,これまで調べられた限りではカイコの培養細胞以外では増殖することができません.この研究では,まず,トランスクリプトーム解析を行うことによって,BmN-4細胞の約15%のmRNAがBmLV由来であることを明らかにしました.また,BmN-4由来の小分子RNAにはBmLV由来のpiRNAとsiRNAが存在すること,そしてこれらがBmLVの過剰な蓄積を抑制していることを明らかにしました.実際,SiwiAgo2の発現を抑制するとBmLV由来のmRNAが増加し,細胞の生存率が低下することがわかりました.この結果から,ウイルスRNAはゲノムに挿入されていなくてもpiRNA経路に認識されることがわかりました.論文は最初PLoS Pathogens誌に投稿しましたが,2回のリバイズの後でリジェクトされるという経過を辿りました.最終的には,かなりのデータを抜いた状態でDNA Research誌にアクセプトされました.成仏していないデータはなんとかしないといけません...

この研究結果は,下記の通りプレスリリースしました.

農学生命科学研究科による報道発表

https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2018/20180119-1.html

 

(24) Fukui T, Kiuchi T, Shoji K, Kawamoto M, Shimada T, and Katsuma S*. In vivo masculinizing function of the Ostrinia furnacalis Masculinizer gene. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2018, Vol. 503, No. 3, 1768–1772.

(15)の続き.アワノメイガの卵塊から胚子を一個一個単離する方法とRNAiを合わせて,アワノメイガMascがオス化に関与することを個体において証明した研究.福井くんの修士論文の一部であり,彼の卒業後にまとめて論文化した.この研究で見つかった知見の一つが現在のプロジェクトのきっかけになっている.なお,福井くんは2020年度から,また,ラボの一員として復帰することになった.

 

(25) Kiuchi T*, Sugano Y, Shimada T, and Katsuma S*. Two CCCH-type zinc finger domains in the Masc protein are dispensable for masculinization and dosage compensation in Bombyx mori. Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2019, Vol. 104, 30–38. 

木内くんのCRISPR/Cas9によるMasc KOカイコの解析.様々な領域を欠損したMasc変異体を作成し,それらの性状を解析することで,Mascタンパク質の大きな特徴であるZinc Fingerドメインがオス化にも遺伝子量補償にも必須ではないことが明らかになった.培養細胞の研究(18)において,Zinc Fingerドメインがオス化に関与しないということは示されていたが,個体においてそれを示した点は大きいといえる.

 

(26) Katsuma S*#, Shoji K#, Sugano Y, Suzuki Y, Kiuchi T. Masc-induced dosage compensation in silkworm cultured cells. FEBS Open Bio, 2019, Vol. 9, No. 9, 1573–1579. 

(18)の続き.Masc依存的オス化の培養細胞でのアッセイ系はすでに(18)で確立していた.そこで,カイコのBmN-4, M1の2つの培養細胞とRNA-seqを用いて,遺伝子量補償をアッセイする実験系ができないかどうかを検討した.その結果,BmN-4細胞を用いた実験系において,微細な変化ではあるが,Masc過剰発現時にZ染色体上の遺伝子群の発現が低下することがわかった.また,この実験系を用いて,301番目のシステイン(以前の研究で,オス化に重要であることが判明しているアミノ酸残基)が遺伝子量補償にも関与していることを明らかにした.この論文はFEBS lettersに投稿したが,リジェクトされたため,おすすめ転送先のFEBS Open Bioに初めて投稿した.

 

(27) Izumi N#, Shoji K#, Suzuki Y, Katsuma S, Tomari Y*. Zucchini consensus motifs determine the mechanism of pre-piRNA production. Nature, 2020, Vol. 578, No. 7794, 311–316. 

(19)の論文から約4年,泉さんと泊研に異動した庄司くん(現在,泊研助教)がBmN-4細胞の実験系を用いて,Zuc依存的,非依存的なpiRNA産生経路を解明しました.泉さんの生化学と庄司くんのインフォマティクスがうまく融合したすばらしい結果です.庄司くんは博士課程時代からインフォ解析を行っており, (22)で開発した方法を改良して,Zucの認識配列の同定につなげました.以下の記事にこの研究成果とともにBmN-4細胞を用いたpiRNA経路の歴史が紹介されています.

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-01/uot-uhc012420.php

 

 

2. バキュロウイルス関係

(1) Katsuma S, Noguchi Y, Zhou C.E*, Kobayashi M, and Maeda S. Characterization of the 25K FP gene of the baculovirus Bombyx mori nucleopolyhedrovirus: implications for post-mortem host degradation. Journal of General Virology, 1999, 80, 783–791.

記念すべき最初の原著論文.当時,埼玉県試験場の野口洋子博士が突然変異誘起剤の処理により単離した5株のカイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)のFew polyhedral (FP)変異体を解析する過程で,原因遺伝子であるfp25Kが死後溶解に関わる新規遺伝子であることを見出した.最初,JVI誌に投稿しリジェクトされたため,初リジェクトを受けた論文でもある.

 

(2) Katsuma S, Noguchi Y, Shimada T*, Nagata M, Kobayashi M, and Maeda S. Molecular characterization of baculovirus Bombyx mori nucleopolyhedrovirus polyhedron mutants. Archives of Virology, 1999, 144, 1275–1285.

卒論の時から始めた研究内容をまとめたもの.最終的にはBmNPV変異体6株の変異領域と表現型との関係をシークエンス解析と組換えウイルスの作成により証明することができた.この研究で使っている立方体の多角体を形成する#220株のポリヘドリン遺伝子を使って,初めて遺伝子組換えバキュロウイルスを作成した.好きな変異株の一つであり,ウイルス研究にはまるきっかけとなったウイルスである.20年経った2020年の現時点でも多角体の形とウイルス粒子の包埋メカニズムには興味を持っている.

 

(3) Katsuma S, Deng D.X, Zhou C.E*, Iwanaga M, Noguchi Y, Kobayashi M, and Maeda S. Identification of novel residues involved in nuclear localization of a baculovirus polyhedrin protein. Virus Genes, 2000, 21, 233–240.

UCデービスのDengさん, Zhou博士のサポートでBmNPVの多角体形成変異株のうち未発表であったものを全てまとめた論文.ポリヘドリンの核移行シグナルが保存されていても,ある領域に変異が入ると細胞質に留まってしまうことがあることを明らかにした.前田さんと行った研究を最終的に全部まとめることができてよかったと思う.

 

(4) Katsuma S, Shimada T*, and Kobayashi M. Characterization of the baculovirus Bombyx mori nucleopolyhedrovirus gene homologous to the mammalian FGF gene family. Virus Genes, 2004, 29, 211–217.

6年間勤めていた製薬会社の研究所を退社し,東大の研究室でリサーチフェローとして在籍させていただいた8か月の間に行った仕事.昔から気になっていたバキュロウイルスの成長因子FGFの簡単な性状解析.バキュロウイルスのFGFとしては最初の報告になる.初期遺伝子であり,実際にタンパク質として細胞外に分泌されていることを証明した.

 

(5) Katsuma S, Tanaka S, Shimada T*, and Kobayashi M. Reduced cysteine protease activity of the hemolymph of Bombyx mori larvae infected with fp25K-inactivated Bombyx mori nucleopolyhedrovirus results in the reduced postmortem host degradation. Archives of Virology, 2004, 149, 1773–1782.

FP論文の第2弾.リサーチフェロー時に行った研究で,FP変異体における死後溶解の抑制がカテプシンの分泌低下に依存している可能性を報告したもの.当時,大学院生であった田中君にqPCRを手伝ってもらった.

 

(6) Iwanaga M#, Takaya K#, Katsuma S#, Ote M, Tanaka S, Kamita SG, Kang WK, Shimada T*, and Kobayashi M. Expression profiling of baculovirus genes in permissive and nonpermissive cell lines. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2004, 323, 599–614.

現在,宇都宮大・准教授の岩永博士が進めていたバキュロウイルスのマイクロアレイの研究をまとめた論文.近縁な2種類のウイルスであるBmNPVとAcMNPVを用いて,宿主特異性とウイルス遺伝子の発現との関係を明らかにした研究である.京大の助手に異動してからUCデービスのKamita博士とメールで相談しながらまとめたことを思い出す.会社時代に取得したマイクロアレイ解析を違う材料に適用できた論文でもある.

 

(7) Katsuma S, Tanaka S, Omuro N, Takabuchi L, Daimon T, Imanishi S, Yamashita S, Iwanaga M, Mita K, Maeda S, Kobayashi M, and Shimada T*. Novel macula-like virus identified in Bombyx mori cultured cells. Journal of Virology, 2005, 79, 5577–5584.

(6)のバキュロウイルス感染細胞のマイクロアレイ論文で発現変動している遺伝子を調査していた時に,植物ウイルス様の配列を見出し,それがカイコ培養細胞に慢性感染しているRNAウイルスであることを証明した論文.数年前の論文でゲノム中の反復配列と発表されていたので,ラボのとある先生はこの配列がウイルスであるという考えに否定的であった.しかし,渾身のノザンブロットの結果を見せたときに「そう思っていましたよ」と言われたのには拍子抜けしてしまった.最終的に超遠心で精製した画分の電顕観察でウイルス粒子が見えた時には,未知ウイルスを発見した喜びに酔いしれた.この植物RNAウイルス様ウイルスが昆虫細胞に感染するようになった起源や増殖の仕組みなど未だに不明な点が多い.最近の研究では,ミツバチなど他の昆虫にも類似のウイルスが存在することが報告されている.初めてウイルス学雑誌の最高峰であるJVI誌に掲載され,少し自信が出てきた頃である.現在,このBmMLVに関する研究は宇都宮大の岩永准教授のグループが主体となって進めている(piRNAの項の(23)も参照してください).

 

(8) Katsuma S*, Daimon T, Mita K, and Shimada T. Lepidopteran ortholog of Drosophila Breathless is a receptor for the baculoviral fibroblast growth factor. Journal of Virology, 2006, 80, 5474–5481.

今のポジションについて最初に執筆した論文で,FGFの第2弾論文である.京大にいる頃から計画を練っていたバキュロウイルスFGFの宿主受容体のクローニングとその機能解析を報告した.バキュロウイルスが宿主受容体を介して宿主の細胞内シグナリングをハイジャックすることを証明した最初の論文であり,ウイルスFGFが宿主細胞のケモタキシスを誘導することを示した報告でもある.初めてコレスポンディングオーサー(責任著者)になった記念論文でもある.

 

(9) Katsuma S*, Horie S, Daimon T, Iwanaga M, and Shimada T. In vivo and in vitro analyses of a Bombyx mori nucleopolyhedrovirus mutant lacking functional vfgf. Virology, 2006, 355, 62–70.

FGFの第3弾論文.fgf欠損ウイルスを作成し,その性状を培養細胞とカイコ幼虫において解析したもの.fgf欠損BmNPVは,培養細胞及びカイコ幼虫においてウイルスの増殖が低下していた.エディターであったジョージ・ローマン博士の要求が細かく,2–3回リバイズした記憶がある.このあたりから,近縁のAcMNPVとはFGFの機能が少し違うのではと感じ始める.

 

(10) Katsuma S*, Daimon T, Horie S, Kobayashi M, and Shimada T. N-linked glycans of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus fibroblast growth factor are crucial for its secretion. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2006, 350, 1069–1075.

FGFの第4弾論文.FGFタンパク質の性状を組換えタンパク質を用いて解析したもの.BmNPVのFGFにはN結合型の糖鎖が2か所に付加されており,それらがFGFの分泌性に関与していることが判明した.また,AcMNPVのFGFには糖鎖は付加しておらず,ほとんど分泌していないことも分かった.実際,AcMNPVのFGFにアミノ酸置換を導入し糖鎖が付加されるように改変すると,効率よく分泌されるようになったことから,このFGFは分泌せずに機能するタンパク質として進化してきたようである.この発表後に,パサレリ博士らの研究によって,AcMNPVのFGFがエンヴェロープ上に提示されて機能している可能性が報告されている.BmNPVとAcMNPVという非常に近縁なウイルスにおいて,FGFタンパク質の機能が異なっていることを示唆した興味深い結果である.

 

(11) Katsuma S*, Mita K, and Shimada T. ERK- and JNK-dependent signaling pathways contribute to Bombyx mori nucleopolyhedrovirus infection. Journal of Virology, 2007, 81, 13700–13709.

今で言うところのケミカルバイオロジー的アプローチで,バキュロウイルス感染に重要な役割を果たすMAPキナーゼ経路を明らかにした研究.この論文のために毎日たくさんのタッパーを揺らして,ウエスタンブロットに明け暮れていたことが懐かしい(今では確実に無理です).一度JVI誌にリジェクトされたが,リバイズの結果,最終的にはかなり完成度が上がってよかったと思う.この頃,アメリカウイルス学会のシンポジウムに呼ばれ,主たるバキュロウイルス研究者と知り合いになった.

 

(12) Katsuma S*, Kawaoka S, Mita K, and Shimada T. Genome-wide survey for baculoviral host homologs using the Bombyx genome sequence. Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2008, 38, 1080–1086.

2008年に発表されたIBMB誌のカイコゲノム特集号のアカンパニー論文として発表したもの.カイコゲノム情報を用いてバキュロウイルスに存在する宿主遺伝子候補を網羅的にスクリーニングし,BmNPVの宿主ホモログについては欠損ウイルスの性状を簡単に報告した.宿主ホモログの研究は今もほそぼそと継続している.

 

(13) Katsuma S*, Fujii T, Kawaoka S, and Shimada T. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus SNF2 global transactivator homologue (Bm33) enhances viral pathogenicity in B. mori larvae. Journal of General Virology, 2008, 89, 3039–3046.

バキュロウイルスの宿主ホモログの一つであるSNF2 (Bm33)の欠損ウイルスの性状解析を報告した論文.強い表現型は示さなかったものの,カイコ幼虫における病原性に関与するという結果が得られた.

 

(14) Katsuma S*, Nakanishi T, Daimon T, and Shimada T. N-linked glycans located in the pro-region of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus V-CATH are essential for the proper folding of V-CATH and V-CHIA. Journal of General Virology, 2009, 90, 170–176.

バキュロウイルスの宿主溶解に関与するカテプシン(V-CATH)とキチナーゼ(V-CHIA)の機能的な関係を明らかにした論文.かなり実験を繰り返したが,この両者が結合するという免疫沈降の結果は再現よく取れなかったため,この論文には含めなかったが,カテプシンの糖鎖がキチナーゼのフォールディングにも関与するという興味深い結果を報告できたと自負している.すぐ後に別のグループから,両者の結合をFRETと生化学的実験で示した論文がJVI誌に報告された.2番目のバキュラー学生である中西君にウエスタンデータの一部を取ってもらった.

 

(15) Katsuma S*, Horie S, and Shimada T. The fibroblast growth factor homolog of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus enhances systemic virus propagation in B. mori larvae. Virus Research, 2008, 137, 80–85.

FGFの第5弾論文.GFPをレポーターにして,FGFの有無が宿主感染のどの段階で重要なのかを調査した論文.結果としては,血球への感染に重要であるという結論を得ることに成功した.この頃から,GFPをレポーターとして組換えウイルスに導入することが普通になってきたように思う.東大に来て初めて指導した堀江くん(修士から新領域研究科へ移籍)のデータが主体となっている論文である.

 

(16) Katsuma S*, Nakanishi T, and Shimada T. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus FP25K is essential for maintaining a steady-state level of v-cath expression throughout the infection. Virus Research, 2009, 140, 155–160.

FP論文の第3弾.(5)の論文で見出したFP変異体感染カイコにおけるカテプシンの分泌低下がカテプシン遺伝子の転写量低下によるものであることを証明した論文.中西君の卒論のウエスタンデータも使っている.のちのJVI論文に用いるBm25KD-Bmもこの論文で登場している.

 

(17) Katsuma S* and Shimada T. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus ORF34 is required for efficient transcription of late and very late genes. Virology, 2009, 392, 230–237.

欠損ウイルスライブラリーのスクリーニングによって,ポリヘドリンの合成量に関与する遺伝子の一つを同定した論文.このタンパク質は10 KDa程度の小さな核タンパク質であり,fp25Kvlf-1の転写亢進を介してポリヘドリンの発現に関与していると考えられた.

 

(18) Nakanishi T, Goto C, Kobayashi M, Kang WK, Suzuki T, Dohmae N, Matsumoto S, Shimada T, and Katsuma S*. Comparative studies of a lepidopteran baculovirus-specific protein FP25K: Development of a novel BmNPV-based vector with a modified fp25K gene. Journal of Virology, 2010, 84, 5191–5200.

FP第4弾論文.中西君の修論の内容を発展させたもの.いろいろなバキュロウイルスのFP25KをBmNPVに導入し,その機能の差異を調査し,最終的には発現量の高いBmNPVベクターの開発に成功した.最初,修論プラスαでJVI誌に投稿したところリジェクトされた.ただ,エディターからは再投稿をサジェストされたため,約半年におよぶリバイズを一人で敢行し,最終的には理研の皆さまにLC-MS/MSでお世話になるなど,データ量が最初の2倍以上に増加した.その結果,無事JVI誌にアクセプトされ,ある意味では強く記憶に残る論文になった.

 

(19) Nakanishi T, Shimada T, and Katsuma S*. Characterization of a Bombyx mori nucleopolyhedrovirus mutant lacking both fp25K and p35. Virus Genes, 2010, 41, 144–148.

FP第5弾論文.とある論文と現象をもとに,FP25Kがp35依存的アポトーシス経路と関係しているのではと予想し,行った研究だが結果はネガティブであった.中西君の代わりに休日に研究室に出向き,写真撮影用に死亡個体を並べ,その写真が論文に掲載されている.この論文で中西君の研究データはほぼ全て吐き出せたことになった.

 

(20) Katsuma S*, Kang W-K, Shin-i T, Ohishi K, Kadota K, Kohara Y, and Shimada T. Mass identification of transcriptional units expressed from the Bombyx mori nucleopolyhedrovirus genome. Journal of General Virology, 2011, 92, 200–203.

カイコの完全長cDNAライブラリープロジェクトで作成したBmNPV感染BmN-4細胞におけるシークエンシングデータを用いて,BmNPVゲノムから発現する転写ユニットを網羅的に同定した論文.この結果からバキュロウイルスから長鎖非コードRNAと考えられる転写ユニットが発現していることが予想された.現在も各遺伝子の転写解析にこのデータを有効に利用している.

 

(21) Katsuma S*, Tsuchida A, Imai-Matsuda N, Kang W-K, and Shimada T. Role of the ubiquitin-proteasome system in Bombyx mori nucleopolyhedrovirus infection. Journal of General Virology, 2011, 92, 699–705.

シグナル伝達論文第2弾.プロテアソーム阻害剤のBmNPV増殖における影響を解析した報告.ユビキチン経路がBmNPVの増殖に強く関与することが示唆された.二人目の女性バキュラーである土田さんと理研の今井さん・姜さんに協力してもらって完成した.IE2の自己分解に関しても言及している.抗IE2抗体が4°Cですぐに活性がなくなってしまうことが分からず,長期間にわたりIE2のウエスタンができない状態が続いてしまった.抗体に関する認識の甘さを痛感した研究である.

 

(22) Kokusho R, Zhang C-X, Shimada T, and Katsuma S*. Comparative analysis of budded virus infectivity of Bombyx mandarina and B. mori nucleopolyhedroviruses. Virus Genes, 2011, 43, 313–317.

現在,金沢大学の博士研究員である國生くんの第一弾論文.浙江大学のZhang教授からクワコNPV (BomaNPV)をいただき,その病原性をBmNPV(カイコNPV)と比較した報告.BomaNPVはBmNPVよりカイコに対する病原性が強いことが判明した.この論文が現在ルーチンで行っているバキュロウイルス感染カイコの行動実験の最初の報告となった.

 

(23) Katsuma S*, Kobayashi J*, Koyano Y, Matsuda-Imai N, Kang W-K, and Shimada T. Baculovirus-encoded protein BV/ODV-E26 determines tissue tropism and virulence in lepidopteran insects. Journal of Virology, 2012, 86, 2545–2555.

山口大の小林淳教授との共同研究.昔からエクジソン不活化酵素遺伝子(egt)欠損ウイルス感染カイコで見られていた絹糸腺での多角体の異常産生が,egt自身ではなくその隣の遺伝子であるBm8 (bv/odv-e26)の発現異常によるものであることを明らかにした.この論文はバキュロウイルス感染における組織トロピズムを定量的に解析した初めての報告であるとともに,それに関与するバキュロウイルス遺伝子を発見した最初の報告である.また,egt欠損ウイルスにおけるカイコの早期致死もBm8の異常によるものであることを証明した点で,これまでの通説を覆す大きな成果であると考えている.

 

(24) Katsuma S*, Koyano Y, Kang W-K, Kokusho R, Kamita SG, and Shimada T. The baculovirus uses a captured host phosphatase to induce enhanced locomotory activity in host caterpillars. PLoS Pathogens, 2012, 8, e1002644.

東大に着任以来取り組んできたバキュロウイルスPTPと行動制御に関する研究.幾多の困難を乗り越え7年越しに結実した研究.BmNPV感染カイコにおいては,PTPは酵素としてではなく構造タンパク質として機能し,脳への効率的感染に関わることで行動制御を司ることを明らかにした.研究の経緯は「昆虫科学読本-虫の目で見た驚きの世界」に詳述したので割愛するが,初代女性バキュラー小谷野さん,理研の姜さん,UCデービスのKamita博士の協力でPLoS Pathogens誌に掲載された.バキュロウイルスの論文としては初めてこの雑誌に掲載されたように思う.この後,AcMNPVにおいては異なるメカニズムでPTPが行動制御に関与するという論文がオランダのモニーク博士のグループから発表された.いくつもの検証実験の結果,現時点ではBmNPVとAcMNPVではメカニズムが異なると考えている.この研究結果は,日経産業新聞,日経新聞の日曜版と英語版などに掲載されるとともに,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2012/20120410-6.html

東京大学本部による発表

http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/baculovirus-uses-captured-host-phosphatase/

「むしむしコラム」

http://column.odokon.org/2012/0626_210300.php

 

(25) Katsuma S* and Shimada T. Comparative studies of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus infection in BmN4 cell lines maintained in different laboratories. Journal of Insect Biotechnology and Sericology, 2012, 81, 7–12.

由来が同じ培養細胞でも長期間異なる研究室で継代されていると,その性状が異なってくることが知られている.この研究では,東京大学,九州大学,山口大学で継代されているカイコ卵巣由来培養細胞BmN-4について,特にウイルス感染性に関してその差異を報告した.いろいろな実験で適したBmN-4が存在することを研究者仲間に伝えたかったというのがこの論文を作った真意である.

 

(26) Hori T, Kiuchi T, Shimada T, Nagata M, and Katsuma S*. Silkworm plasmatocytes are more resistant than other hemocyte morphotypes to Bombyx mori nucleopolyhedrovirus infection. Journal of Invertebrate Pathology, 2013, 112, 102–104.

新領域研究科の堀くん(永田研究室)が昆虫遺伝研に出向して作出したGFPレポーターウイルスを使って,カイコの血球間におけるウイルス感染性の差異を調査した論文である.木内くんに最後の写真データ取得を行ってもらった.プラズマ細胞のウイルス感染性が他の血球種よりも低いことを示した.伝統的な昆虫病理学の雑誌であるJIP誌に初めて投稿した(この後,気に入ったのでよく投稿するようになった).

 

(27) Tsuchida A, Ishihara G, Shimada T, and Katsuma S*. Dimerization and proper degradation of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus IE2 are required for efficient virus growth in B. mori larvae. Applied Entomology and Zoology, 2013, 48, 125–130.

二人目の女性バキュラーである土田さんの修論の内容を論文化したもの.バキュロウイルスのE3ユビキチンリガーゼの一つであるIE2に変異を導入したウイルスを作成し,それらの培養細胞,及びカイコ幼虫における性状を調査した研究である.培養細胞ではウイルス増殖に差がないが,カイコ幼虫では少し増殖が低下するという内容である.

 

(28) Ishihara G, Shimada T, and Katsuma S*. Functional characterization of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus CG30 protein. Virus Research, 2013, 174, 52–59.

宇都宮大学から博士課程に入ってきた石原くんの1st論文である.非コードRNAに関する研究の過程で作成したcg30変異株に関してその結果をまとめたもの.投稿直前に上述の浙江大学Zhang教授のグループから同じ遺伝子に関する論文が発表されてしまったため,いろいろ苦労したが,ドメイン変異株の解析を加えることでなんとか掲載されるに至った.石原くんの博士論文の一部になった.

 

(29) Ito H, Bando H, Shimada T, and Katsuma S*. The BIR and BIR-like domains of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus IAP2 protein are required for efficient viral propagation. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2014, 454, 581–587.

三人目の女性バキュラーである伊藤さんの修論の内容を論文化したもの.IAPはアポトーシス抑制能があることが知られているが,BmNPVに存在するIAP1, IAP2はアポトーシスには関与しない.iap1の欠損ウイルスの性状は論文(12)で報告しているが,iap2は相同組換えで欠損ウイルスが作成できなかったことから,北大の伴戸先生との共同研究でバックミドを用いた解析を行った.その結果,BmNPVの増殖に関与する遺伝子であることが判明した.

 

(30) Katsuma S*, Bando H, and Shimada T. Deletion analysis of a superoxide dismutase gene of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus. Applied Entomology and Zoology, 2015, 50, 57–62.

宿主ホモログの一つであるsod遺伝子の機能解析.iap2と同じようにsodも相同組換えで欠損ウイルスが作成できなかったことから,北大の伴戸先生との共同研究でバックミドを用いた解析を行った.その結果,培養細胞では正常株と異なる表現型を示さなかったが,カイコ幼虫において出芽ウイルス,及び多角体の産生量が低下することが明らかになった.iap2の例も考慮すると,必須遺伝子ではないのに相同組換えで単離できない遺伝子がいくつも存在することがわかった(理由は不明).

 

(31) Katsuma S*, and Shimada T. The killing speed of egt-inactivated Bombyx mori nucleopolyhedrovirus depends on the developmental stage of B. mori larvae. Journal of Invertebrate Pathology, 2015, 126, 64–70.

様々なバキュロウイルスにおいて,egt欠損ウイルスは宿主昆虫の早期致死をもたらすことが知られていた.その原因はマルピーギ管の機能不全によるものであるとされてきたが,エクジソン濃度が低い時期にも同じ表現型が現れることから,エクジソン濃度と早期致死との関係に疑問を持っていた.さらに,(23)の論文から,egt欠損ウイルスによる早期致死の原因の一部は,Bm8の発現異常によるものであることが判明していた.そこで,4齢から5齢にかけて10ステージのカイコ幼虫を使用し,egt欠損と早期致死との関係を詳細に調査した.その結果,Bm8の発現異常をともなわないegt欠損ウイルスは,その感染ステージによって,正常ウイルスと比較して,早期致死,致死遅延,変化なし,及びそれらの複合型という3タイプ+αの表現型を示した.特に早期致死を示すのは,脱皮直前にウイルス感染した場合に限定されることが判明した.

 

(32) Ishihara G, Kokusho R, Shimada T, and Katsuma S*. Functional analysis of antisense long non-coding RNAs transcribed from the Bombyx mori (Lepidoptera: Bombycidae) nucleopolyhedrovirus genome. Applied Entomology and Zoology, 2015, 50, 155–167.

石原くんの2nd論文であり,博士論文の主内容である.長鎖非コードRNAのプロモーターに変異を導入することで,長鎖非コードRNAが発現しないように改良したウイルスを網羅的に作成し,その表現型を記載した報告である.この研究によって,BmNPVゲノムから発現している長鎖非コードRNAの大部分はウイルス遺伝子の発現には大きな影響を与えないことが判明した.

 

(33) Kokusho R, Kawamoto M, Koyano Y, Sugano S, Suzuki Y, Shimada T, and Katsuma S*. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus ARIF-1 enhances systemic infection in B. mori larvae. Journal of General Virology, 2015, 96, 1938–1946.

國生くんの第二弾論文.修論の時に取り組んでいた行動変異体の原因遺伝子が,紆余曲折を経て,arif-1と呼ばれるアクチン骨格のリアレンジに関与すると報告されている遺伝子の変異であることを見出したもの.別目的で行っていたウイルス感染カイコ脳のRNA-seqデータが変異箇所の同定に非常に役立った.最初は行動変異体として論文投稿したが,レフリーからはその方向性をみとめてもらえなかったため,カイコ幼虫個体における感染の広がりが抑制されている変異体として報告することになった.BmNPVの脳への感染を初めて可視化した論文である.現在,新たな知見を得ており,鋭意論文作成中である.

 

(34) Li JJ, Cao C, Fixsen SM, Young JM, Ono C, Bando H, Elde NC, Katsuma S*, Dever TE*, and Sicheri F*. Baculovirus protein PK2 subverts eIF2α kinase function by mimicry of its kinase domain C-lobe. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2015, 112, E4364–4373.

トロント大のSicheri博士,NIHのDever博士,北大の伴戸教授との6年にも及ぶ共同研究の結果を論文化したもの.バキュロウイルスが持つPK2と呼ばれるキナーゼホモログが,宿主のHRIと呼ばれるeIF2αキナーゼと結合することで,宿主の翻訳抑制を解除し,ウイルス増殖を正に制御していることを明らかにし,PNAS誌に報告した.トロント大のグループが生化学的解析,NIHのグループが酵母を用いた遺伝学,私がバックミドを用いた欠損ウイルスの性状解析と宿主のターゲット分子の同定を行った.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150728-1.html

 

(35) Katsuma S*. Phosphatase activity of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus PTP is dispensable for enhanced locomotory activity in B. mori larvae. Journal of Invertebrate Pathology, 2015, 132, 228–232.

PTP論文第二弾.(24)の論文で,PTP活性と行動制御の間には関連性がないと報告していたが,モニーク博士のグループはAcMNPV感染個体では,PTPのフォスファターゼ活性が必須であると発表した(PLoS One, 2012).この二つの研究では,作成したウイルスの構造や変異の入れ方が異なっていたため,できるだけモニーク博士の研究と条件を合わせるべく幾つかの変異BmNPVを追加で作成した.それらのウイルスを用いた性状解析,行動実験の結果,(24)の論文の結果をサポートする結果が得られた.以上のことから,BmNPVとAcMNPVは非常に近縁なウイルスであるにもかかわらず,PTP依存的な行動制御のメカニズムが全く異なるものであることが明らかになった.このデータをどこで発表すべきか悩んだが,最終的にはJIP誌に掲載されることになった.初の単著論文である.

 

(36) Katsuma S*. Transcription of dbp from the coding region of the Bm17 gene is required for the efficient propagation of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus. Virus Research, 2016, 223, 57–63. 

2016年の年始にMacのデータを整理している時に思い出した昔のデータをまとめたもの.同じ遺伝子の変異体なのに表現型が異なるのは?という疑問を転写開始点のマッピング結果から考察したもの.7年以上眠っていたデータを昔のノートの記述を元に思い出し,正月明けから執筆した.結局,再実験をすることになり,思っていたより時間がかかった.単著第二弾である.

 

(37) Kokusho R*, Koh Y, Fujimoto M, Shimada T, Katsuma S*. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus BM5 protein regulates progeny virus production and viral gene expression. Virology, 2016, 498, 240–249. 

國生くんの第三弾論文.最初はウイルス誘導性徘徊行動に関与する遺伝子として解析していたBm5を,変異体の性状解析を中心にしてまとめたもの.BM5が核膜の内側に沿って局在するタンパク質であり,ウイルス遺伝子の発現やウイルス産生量に関与することを示した.植物分子遺伝学研究室とのコラボレーションにより,非常に美しい共焦点画像を取得することができた(ありがとうございます).國生くん初のコレス論文である.

 

(38) Katsuma S*, Kokusho R. A conserved glycine residue is required for proper functioning of a baculovirus VP39 protein. Journal of Virology, 2017, 91, e02253-16. 

突然変異誘起剤であるブロモデオキシウリジンを投与して作出したFP変異体の原因が主要キャプシドタンパク質であるVP39における1アミノ酸置換であることを報告した論文.VP39の機能に重要なアミノ酸を同定した初めての論文であるとともに,キャプシド形成と最後期遺伝子発現の関係を明らかにした重要な報告であると考えている.ほとんどのデータは2012年に取り終えていたが,性決定プロジェクトの方が忙しくなり,5年ほど放置してしまった.幸い國生くんが電顕のデータを取ってくれたので,非常に厚みのある内容にすることができた.電顕室の石綱さんにも大変お世話になった(ありがとうございます).この論文は当該号のSpotlight(注目論文)に選ばれた.このように自分で変異体を作り出し,何百のクローンの中から表現型ベースで変異体を選び出し,変異領域をマーカーレスキューで決定し,最終的に組換えウイルスの作成によって遺伝子を確定する古典的な方法,今でも一番好きかもしれません.

 

(39) Katsuma S*. The very late promoter-driven ptp transcription can rescue the ELA-defective phenotype of a ptp-disrupted BmNPV. Journal of Insect Biotechnology and Sericology, 2018, Vol. 87, No. 1, 25–28. 2018年3月

PTP論文第三弾.当初は(35)の論文に含まれていたデータであるが,査読時に一緒だと混乱するから本体から削除した方が良いと言われたデータを短報としてまとめた.ちょうどヘルニアの厳しいリハビリ期間であり,実験できないので論文でも書こうと考えてまとめた記憶がある.ポリヘドリンプロモータでのptpの過剰発現でも(少しdelayするが)行動惹起はレスキューされることがわかった. 単著第三弾である.

 

(40) Hikida H, Kokusho R, Kobayashi J, Shimada T, Katsuma S*. Inhibitory role of the Bm8 protein in the propagation of Bombyx mori nucleopolyhedrovirus. Virus Research, 2018, Vol. 249, 124–131. 2018年4月

疋田くんの第一弾論文. (23)の論文で組織トロピズムに関与することが明らかになったBm8の続報である.前の論文では主に絹糸腺,中腸,脂肪体に注目していたが,今回の論文では小林淳先生の研究ですでに明らかになっていた前胸腺をはじめとする他組織における遺伝子発現を調査することで,Bm8がBmNPVの増殖に対して,全ての組織で抑制的に働く因子であること明らかにした.ちょうど蚕糸学会に参加しているときにアクセプトメールがきたのを覚えている.

 

(41) Hikida H, Kokusho R, Matsuda-Imai N, Katsuma S*. Bombyx mori nucleopolyhedrovirus Bm96 suppresses viral virulence in Bombyx mori larvae. Journal of Invertebrate Pathology, 2020, Vol. 173, 107374. 

疋田くんの第二弾論文.國生くんが博士論文で解析していた行動関連遺伝子Bm96の仕事をまとめたもの.表現型としては強いものではないので,なかなか強い主張ができなかったが,なんとか論文として発表することができた.この論文では,疋田くんの新しい行動アッセイ系を用いているが,これについては,現在,別論文として論文投稿中である.

 

 

3. その他

(1) Katsuma S, Shiojima S, Hirasawa A, Suzuki Y, Takagaki K, Murai M, Kaminishi Y, Hada Y, Koba M, Muso E, Miyawaki S, Ohgi T, Yano J, Tsujimoto G*. Genomic analysis of a mouse model of immunoglobulin A nephropathy reveals an enhanced PDGF-EDG5 cascade. Pharmacogenomics Journal, 2001, 3, 211–217.

会社3年目にとある研究所に出向して,その時に会社と共同開発した臓器別マイクロアレイで慢性腎炎モデルマウスの解析をした結果をまとめた論文.慢性腎炎の腎臓において,PDGF(血小板由来増殖因子)とS1P(スフィンゴシン1リン酸)のクロストークが亢進していることを示した報告である.GPCRや医薬系の論文を書くのが初めてだったので,かなり苦労し,8回ぐらいリジェクトされた記憶がある.最終的には,当時にNature publishing groupから創刊したばかりのジェノミクス系の雑誌に掲載されるに至った.研究所のボスから転送されたアクセプトメールを自宅で見た後,ホッとして新日のG1クライマックスをビールを飲みながら楽しんだのを覚えている.また,論文の書き方をしっかり教わったのがこの時だけであり,その時の経験が今すごく活きていることを感じるにつけ,本当に感謝する次第である.

 

(2) Takagaki K*, Katsuma S, Horio T, Kaminishi Y, Hada Y, Tanaka T, Ohgi T, Yano J. cDNA microarray analysis of altered gene expression in Ara-C-treated leukemia cells. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2003, 309, 351–358.

会社で開発した白血病細胞マイクロアレイで,Ara-C (キロサイド)の白血病細胞(K562, CCRF-CEM)に対する効果を調査した論文.Ara-C抵抗性になったCCRF-CEMに関する論文もすぐ後にJournal of Biochemistryに掲載された.

 

(3) Ishiwata H#, Katsuma S#, Kizaki K, Patel OV, Nakano H, Takahashi T, Imai K, Hirasawa A, Shiojima S, Ikawa H, Suzuki Y, Tsujimoto G, Izaike T, Todoroki J, and Hashizume K*. Characterization of gene expression profiles in early bovine pregnancy using a custom cDNA microarray. Molecular Reproduction and Development, 2003, 65, 9–18.

研究所に出向していた時に畜産試験場の先生方と共同開発したウシ胎盤マイクロアレイの論文.大型動物のことを勉強する良い機会になった.2015年秋に岩手大学に出張した時に、この論文で共同研究した先生にお会いすることができ,2016年には獣医学会のシンポジウムにも呼んでいただいた.よく言われることだが,本当に研究の世界は狭い.

 

(4) Hashizume K*, Ishiwata H, Kizaki K, Yamada O, Takahashi T, Imai K, Patel OV, Akagi S, Shimizu M, Takahashi S, Katsuma S, Shiojima S, Hirasawa A, Tsujimoto G, Todoroki J, and Izaike Y. Implantation and placental development in somatic cell clone recipient cows. Cloning and Stem Cells, 2002, 4, 197–209.

(3)の論文で作成したウシ胎盤マイクロアレイを用いて,クローンウシと人工受精ウシとの遺伝子発現の差異を解析した論文.クローンウシにおける問題点などを勉強することができてよかったと思う.すでに130回以上引用されている論文である.

 

(5) Takagaki K*, Katsuma S, Horio T, Kaminishi Y, Tanaka T, Ohgi T, Yano J. Role of Chk1 and Chk2 in Ara-C-induced differentiation of human leukemia K562 cells. Genes to Cells, 2005, 10, 97–106.

白血病論文第3弾.会社でやっていた研究をリーダーの方が私の退社後にまとめた論文.慢性骨髄性白血病細胞であるK562はAra-C添加で赤血球に分化するが,その経路にチェックポイントキナーゼであるChk1とChk2が関わっていることを示した.会社を辞める直前はずっとこの研究に関わる実験をやっていて,ウエスタンの現像のために暗室によくこもっていた.血球細胞へのトランスフェクション効率が非常に悪く苦しんだのを思い出す.細胞分化に関する興味はこの研究で生まれた.

 

(6) Hirasawa A, Tsumaya K, Awaji T, Katsuma S, Adachi T, Yamada M, Sugimoto Y, Miyazaki S, Tsujimoto G*. Free fatty acid regulate gut incretin glucagon-like peptide-1 secretion through GPR120. Nature Medicine, 2005, 11, 90–94.

京大の助手に移動してすぐに携わった研究.不飽和脂肪酸受容体であるGPR120の同定とインクレチンであるGLP-1の分泌制御に関する論文である.着任時には論文はすでに一度投稿したステージで,再投稿するための重要なデータを取る仕事を任された.難しい実験だった事はよく覚えているが,なんとか論文がうまくいってよかったと思う.ハイランクジャーナルでのやり取りを体験することができ,良い経験になった.この論文はすでに1200回以上の引用がある.

 

(7) Katsuma S, Hirasawa A, and Tsujimoto G*. Bile acids promote glucagon-like peptide-1 secretion through TGR5 in a murine enteroendocrine cell line STC-1, Biochemical and Biophysical Research Communications, 2005, 329, 387–391.

GPR120の実験をしている過程で研究を始めた胆汁酸受容体TGR5の研究.STC-1というマウス腸管由来の培養細胞を胆汁酸で刺激すると,TGR5を介してインクレチンであるGLP-1を分泌するという内容.東大への異動がほぼ決まっていた時期だったので,短報としてBBRC誌に投稿したが,結果的にはデータをかなり削ることを要求され,最小限のデータセットでアクセプトになった.予想をしていなかったが,すでに580回以上引用されている.

 

(8) Katsuma S, Hatae N, Yano T, Ruike Y, Kimura M, Hirasawa A, Tsujimoto G*. Free fatty acids inhibit serum deprivation-induced apoptosis through GPR120 in a murine enteroendocrine cell line STC-1. Journal of Biological Chemistry, 2005, 280, 19507–19515.

不飽和脂肪酸がGPR120を介してアポトーシス抑制能を示すことを報告した論文.大部分の実験を自分で行ったので,思い出深い論文の一つである.東大に異動する直前までリバイズを行っていたが,なんとか京大にいる間にアクセプトになった.この論文でその当時のボスからコレスになっても良い,と言われて嬉しかったことを覚えている.この論文は2020年時点で180回以上引用されている.

 

(9) Yamada M#, Katsuma S#, Adachi T, Hirasawa A, Shiojima S, Kadowaki T, Okuno Y, Koshimizu T, Fujii S, Sekiya Y, Miyamoto Y, Tamura M, Yumura W, Nihei H, Kobayashi M, Tsujimoto G*. Inhibition of protein kinase CK2 prevents the progression of glomerulonephritis. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2005, 102, 7736–7741.

東レの山田さんとの研究.抗Thy-1腎炎モデルラットを腎臓標準化マイクロアレイで解析し,高発現している遺伝子の一つとしてCK2を同定した.その後の解析で,この遺伝子が腎炎の進行に重要な役割を果たしていることが判明した.最初はNature Medicine誌に投稿しリバイズになっていたが,ジャーナルのエディターが交替し,リバイズの際にレフリーが全て入れ替えられるという異常事態が発生し,かつジャーナルの方向性が変わったとのことで,適切なリバイズにもかかわらず抗議も実らずリジェクトされてしまった.PNAS誌にアクセプトされたことは東京への引っ越しの最中にボスから電話で知らせてもらった.ギリギリだったが仕事のやり残しがなくなり,なんとか京大での仕事をやり遂げられたので安心した論文である.

 

(10) Ruike Y, Katsuma S, Hirasawa A, Tsujimoto G*. Glucocorticoid-induced alternative promoter usage for a novel 5' variant of granzyme A. Journal of Human Genetics, 2007, 52, 172–178.

京大で指導していた当時4年生の類家くんの1st論文.私が東大に移ってからもメールで何度かやりとりをして2年後に形になった.彼が朝一(6:00 am前だったと思う)で新規のスプライスバリアントをRACEで取れたと報告してきた時の嬉しそうな顔を今でもよく覚えている(6:00 amで両者ともラボにいたことが今では信じられない).これが学生に研究を指導する醍醐味の一つだろう.彼は博士課程に進み,卒業後,とある製薬会社の研究員として就職したが,その会社に今年,東大で教えた古賀くんも研究職として就職したのは何かの縁かもしれない.この会社には昆虫遺伝研からは開発職としても3名就職している.

 

(11) Kawaoka S, Katsuma S, Daimon T, Isono R, Omuro S, Mita K, and Shimada T. Functional analysis of four Gloverin-like genes in the silkworm, Bombyx mori. Archives of Insect Biochemistry and Physiology, 2008, 67, 87–96.

河岡くんの1st論文.カイコの抗菌タンパク質であるグロベリン遺伝子を4種類クローニングし,それらの抗菌活性を組換えタンパク質を精製して調査した報告.4年生の終わりに先輩が残していったデータをまとめてみたら,と河岡くんに持ちかけたのがきっかけで論文作成が始まった.リバイズでバキュウイルスで発現させたグロベリン4種を精製する必要があり,なぜか僕がバキュロウイルス感染細胞を大量に調製して,河岡くんに渡していた.ジャーナルのレベルの割にはしっかりとした仕事に仕上がったいい論文だと思う.

 

(12) Meng Y, Katsuma S, Daimon T, Banno Y, Uchino K, Sezutsu H, Tamura T, Mita K, and Shimada T*. The silkworm mutant lemon (lemon lethal) is a potential insect model for human Sepiapterin reductase deficiency. Journal of Biological Chemistry, 2009, 284, 11698–11705.

博士研究員だった孟さんの力作.カイコのlemon 変異体の原因遺伝子を同定し,lemon 変異体がヒトのSPR欠損症のモデルになりうることを示した.PNAS誌にもう一歩でリジェクトになった後,弱気になっていたので,自分は一つの論文が8回リジェクトされたことがあると伝え,JBC誌への投稿,そして掲載にこぎつけた.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/hitospr.html

 

(13) Fujii T, Ito K, Katsuma S, Nakano R, Shimada T, and Ishikawa Y. Molecular and biochemical characterization of an acetyl-CoA acetyltransferase from the adzuki bean borer Ostrinia scapulalis (Lepidoptera: Crambidae). Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2010, 40, 74–78.

当時,応用昆虫学研究室のポスドク(のちに特任助教,現在,摂南大学講師)だった藤井君とのコラボ初論文.アズキノメイガからacetyl-CoA acetyltransferase遺伝子をクローニングし,組換えバキュロウイルスで酵素活性を確認したもの.今の居室が耐震工事で3階の部屋を間借りしている時に論文作成が佳境に入り,よく電話で彼の部屋に呼び出されて相談をしながら仕上げた.この後,藤井くんとのコラボ(主にフェロモン関係)が続くことになる.

 

(14) Ito K, Katsuma S, Yamamoto K, Kadono-Okuda K, Mita K, and Shimada T*. Yellow-e determines the color pattern of larval head and tail spots of the silkworm, Bombyx mori. Journal of Biological Chemistry, 2010, 285, 5624–5629.

博士課程からラボに加わった伊藤克彦くん(現在,東京農工大准教授)によるカイコの褐頭尾斑(bts)変異体のポジショナルクローニング論文.幼虫の頭部および尾部が赤褐色になるbts変異体の原因遺伝子が,yellow-e と呼ばれる遺伝子の変異であることを報告した.Yellow-eタンパク質は、昆虫のみでみつかっているYellowタンパク質ファミリーに属するが,キイロショウジョウバエでもその機能がわかっていなかったので,新規性があると考えJBC誌に投稿した.リバイズでは,RNAiやトランスジェニックなどによる機能証明を求められたが,今とは違いトランスジェニックやゲノム編集が困難であったので,リバイズは難航を極めたが,いろいろな追加実験を行うことでなんとか掲載にこぎつけた.この研究結果は,下記の通りプレスリリースした.僕が東大に来て数年は河岡くんと伊藤くんが夜遅くまで実験し,ラボのアクティビティをあげてくれていた.今では考えられないが古き良き時代.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2010/20100215-1.html

 

(15) Niwa R#*, Namiki T#, Ito K#, Shimada-Niwa Y, Kiuchi M, Kawaoka S, Kayukawa T, Banno Y, Fujimoto Y, Shigenobu S, Kobayashi S, Shimada T, Katsuma S, and Shinoda T*. Non-molting glossy/shroud encodes a short-chain dehydrogenase/reductase that functions in the "Black Box" of the ecdysteroid biosynthesis pathway. Development, 2010, 137, 1991–1999. 

光沢不眠蚕遺伝子nm-gのクローニング論文.伊藤くんが同定したカイコnm-g変異体の原因遺伝子を筑波大の丹羽教授,生物研の篠田先生とのコラボとして報告した.原因遺伝子は同定できたのだが,その後の機能解析をどうしたものかと考えていた時に,現在,慈恵医大教授の嘉糠先生に勧められ丹羽先生の部屋を訪問したのがきっかけとなった.偶然,その時,丹羽先生もショウジョウバエでこの遺伝子を同定しており,コラボとして論文を作成・発表することになった.ショウジョウバエの遺伝学のパワーを実感した研究であり,良い経験になった.

 

(16) Fujii T, Ito K, Tatematsu M, Shimada T, Katsuma S, and Ishikawa Y*. Sex pheromone desaturase functioning in a primitive Ostrinia moth is cryptically conserved in congeners' genomes. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, 108, 7102–7106.

応用昆虫学研究室の藤井君とのコラボ第2弾論文.アワノメイガ類の中で最も原始的と考えられるウスジロキノメイガの性フェロモン合成に関わる不飽和化酵素をクローニングし,その活性をバキュロウイルスで発現した組換えタンパク質で調査した報告である.クローニングした不飽和化酵素遺伝子latpg1は、近縁種のほとんどではレトロポゾンが挿入され不活化し機能していないこと,近縁種では突然変異により性質が変化した新しいタイプの不飽和化酵素が使われるようになったことが明らかになった.この酵素はタンパク質としては不安定らしく,綺麗に検出するのが難しく,いろいろな条件を試したことを思い出す.今後も是非,このような素晴らしい共同研究ができればと願っている.

この研究結果は,下記の通りプレスリリースされた.

農学生命科学研究科による報道発表

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2011/20110329-1.html

 

(17) Iwanaga M*, Hitotsuyama T, Katsuma S, Ishihara G, Daimon T, Shimada T, Imanishi S, and Kawasaki H. Infection study of Bombyx mori macula-like virus (BmMLV) using a BmMLV-negative cell line and an infectious cDNA clone. Journal of Virological Methods, 2012, 179, 316–324.

BmMLVの感染性cDNAクローン作成論文.字大の岩永准教授のグループが中心となり,BmMLVの感染性cDNAクローンを作成し,BmMLV非感染VF細胞を用いてその感染性を証明した研究である.感染性cDNAクローンとVF細胞は,その後の研究の発展に多大な貢献をしている.

 

(18) Bono F, De Smet F, Herbert C, De Bock K, Georgiadou M, Fons P, Tjwa M, Alcouffe C, Ny A, Bianciotto M, Jonckx B, Murakami M, Lanahan A, Michielsen C, Sibrac D, Dol-Gleizes F, Mazzone M, Zacchigna S, Herault JP, Fischer C, Rigon P, Ruiz de Almodovar C, Claes F, Blanc I, Poesen K, Zhang J, Segura I, Gueguen G, Bordes MF, Lambrechts D, Broussy R, van de Wouwer M, Michaux C, Shimada T, Jean I, Blacher S, Noel A, Motte P, Rom E, Rakic JM, Katsuma S, Schaeffer P, Yayon A, Schepdael VA, Schwalbe H, Gervasio F, Carmeliet G, Rozensky J, Dewerchin M, Simons M, Christopoulos A, Herbert JM, and Carmeliet P*. Inhibition of tumor angiogenesis and growth by a small-molecule multi-FGF receptor blocker with allosteric properties. Cancer Cell, 2013, 23, 477–488.

2006年の秋(だったと思う)に突然Peter Carmelietという人からFGF受容体の阻害剤の薬効をバキュロウイルスFGFとカイコFGF受容体の系で見て欲しい,とのメールがあり始まった研究.この時,Nature誌にリバイズ中だったらしく,実験を急がされ,化合物を受け取ってから2か月ほどでデータを送った.しかし,Natureには5年?ほど粘ったあげくリジェクトだったらしく,最終的にはCancer Cell誌というガン関係のCell姉妹誌に7年後に掲載された.掲載されたという知らせもなくデータもサプリに回されていたが,昆虫研究者に医学研究者がこういったコラボを申し込むこともあるんだという貴重な経験でした.