ピアスをしたアザラシを見かけたら、ご連絡ください!

~アザラシ類標識調査~

標識調査とは?

 動物の移動、分散、社会生態の調査を行うには、11頭を見分け、個体を追跡してその移動や行動、言わば歴史を知ることが必要になります。この、11頭を見分けることを「個体識別」と呼びます。

 アザラシ類を個体識別する方法としては、体の斑紋や傷痕を目印(ナチュラルマーク)にする方法と、タッグや焼印で人為的に標識する方法があります。ナチュラルマークを用いれば、動物を捕獲したり傷つける必要もなく、また調査者が事故にあうリスクも低くなりますが、ナチュラルマークによる識別には調査員の熟練が必要です。一方、人為的な標識をするには捕獲・保定といった大変な手間がかかり、動物にも人にもストレスとなりますが、標識さえ見えれば誰でも個体識別することができ、専門の研究者以外からも情報を集めることができます。現在、アザラシ類の研究は、この2つの方法を併用して行われています。

 ナチュラルマークの記録や分析は、写真とスケッチによって行われます。かつては、写真やスケッチを紙の台帳に貼り付けて整理していましたが、現在では、インターネット上のデータベースで研究者同士が画像データを共有できるようになっています。

 標識には、タッグ(写真1)、ワッペン(写真2)、焼印などが用いられます。標識をするためには、まず「捕獲」しなくてはなりません(写真3)。野生動物の捕獲は簡単ではありませんが、海棲哺乳類の捕獲は特に困難です。


写真1、後肢に装着されたタッグ



標識調査の目的

 ●生態の調査

アザラシの生態は未だ不明なことが多くあります。個体ごとの観察を行うことで、季節移動のパターンや経路、採餌場所、上陸群の構成など、様々なことが明らかになると期待されます。

●漁業被害の調査

 アザラシは、漁網の魚を食べてしまい、漁業者にとっては害獣です(写真4)。漁業被害の対策をたてるにあたって、どのようなアザラシがどのようにして被害を起こしているのかを知るために、網に接近する個体を識別する必要があります。

写真4、 漁業被害  襟裳では、頭だけが食いちぎられた秋鮭が水揚げされ、「とっかり喰い」と呼ばれる。「とっかり」とはアイヌ語でアザラシのこと。


 ●混獲の調査

 アザラシが、漁網の魚を食べてしまう一方で、網に入って出られなくなったり網に絡まってしまって死んでしまうアザラシがいます。このように本来の目的以外の動物が捕獲されてしまうことを「混獲」と呼びます。標識された個体の内、どのような個体がどの程度混獲されているかを知ることで、個体群への混獲の影響を推測することができます。

●救護活動の効果判定

 病気や怪我で弱ったアザラシ、あるいは母親とはぐれた新生仔などが海岸に漂着(ストランディング)することがあります。こういったアザラシは水族館などで救護され、回復すれば再び海へ返されます。こうして放獣されたアザラシが、どの程度自然の中で生き残っているかを知ることで、救護活動の効果を判定し、救護技術の向上を図ることができます。

 

 

北海道におけるアザラシ類の標識調査

 北海道でのアザラシ類の標識調査は、1990年に襟裳岬で、地元有志とゼニガタアザラシ研究グループによって始まりました。その後、襟裳岬では、えりもシールクラブ、帯広畜産大学ゼニガタアザラシ研究グループ、北海道大学、帝京科学大学、NPO北の海の動物センター、ひれあし研究会等の共同によって、標識調査が継続されています。襟裳岬で標識されるアザラシは、ほとんどがゼニガタアザラシであり、少数のゴマフアザラシも含まれます。

 標識は、後ろの鰭(ひれ)の水かき部分へのプラスチック製タッグの装着(写真1)と、頭や背中へのワッペンの装着(写真2)によって行っています。ワッペン体毛の上から接着剤で張り付けるので、換毛(1年に一度の毛がわり)の際にはがれてしまいます。タッグは、ピアスのように装着するので、数年以上保持されます。

 現在では、襟裳岬意外の地域でも標識調査が行われています。また弱って漂着したアザラシが水族館等での救護・リハビリを受けた後、標識されてから放獣されたり、漁網に生きたまま混獲されたアザラシが標識された例あります。

 また、ロシアの研究者によって千島列島で標識されたアザラシが、北海道で確認されたこともあります。

 

 標識だけでなく、発信機を装着して、さらに詳細な行動調査を行ったり(写真5)、標識による生態調査と同時に、採血などを行って獣医学的な調査も行っています(写真6)。

写真5、音波発信機を装着されたゼニガタアザラシ

写真6、後肢付け根部の静脈から血液を採取している

 

写真7、海に帰っていく標識されたゴマフアザラシ



 アザラシの捕獲を行うには、環境省・北海道の許可が必要です。

襟裳岬で標識された個体一覧(表1)

襟裳岬以外で標識された個体一覧(表2)

 

標識アザラシの目撃情をお寄せ下さい

 標識調査は、標識されたアザラシが再確認されることこそが重要です。しかし、限られた調査員では、十分な観察が出来ません。標識されたアザラシを発見した時には、ぜひお知らせください。ご連絡いただいた方には、粗品を差し上げます。

 1 標識アザラシを発見した時には、以下の記録をお願いします。

l  日時

l  場所

l  タッグ、ワッペンの色

l  アザラシの状態(上陸していた、泳いでいた、子供を連れていた、死んでいたなど)

2 以下は可能な場合に記録してください

l  タッグの番号

l  アザラシの大きさ(鼻の先から後肢の先までcm単位で)

l  写真

l  その他 気付いたことは何でも

 3 連絡先

  ひれあし研究会 (担当:藤井啓)

      e-mail:

          電話: 090-3897-5177

   住所: 089-0116 北海道上川郡清水町南86丁目18番地4

 

 

参考

藤井啓・石川朋子・渡邊有希子・齋藤幸子・中川恵美子・小林由美.2005.襟裳岬におけるゼニガタザラシ(phoca vitulina stejnegeri)の標識と計測.えりも研究 21-8

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/840

 

小倉聡子・赤石朋子・ 川島美生・ 長田英己.1994.ゼニガタアザラシの保護管理に関する調査・研究.第1期・第2期プロナトゥーラ・ファンド助成成果報告書:11-17

http://www.nacsj.or.jp/pn/houkoku/h01-08/h01-no02.html

 

小林由美・千嶋淳・藤井啓・刈屋達也・川島美生・石川慎也・中田兼介・藪田慎司.2008.個体識別データベースを活用したゼニガタアザラシの生活史に関する研究.プロ・ナトゥーラ・ファンド第17期助成成果報告書:77-85

 

北海道.2006.アザラシ類保護管理報告書.162 pp