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2011年5月28日

世嬉の一酒造場調査レポート #2

土曜日夕刻。小雨がぱらつくなか、研究室の先生とメンバー4人で向かった先は、岩手県南部の一関市にある「世嬉の一酒造」。JR一関駅からほど近いところにあり、周囲には趣きのある建物が立ち並び、街歩きが楽しく感じられる場である。

世嬉の一酒造場は、澄んだ水と豊かな空気がつくるお米を使用して、南部社氏の方々が丁寧な酒造りをすることに定評があり、地元を代表する企業の一つとなっている。そしてこの世嬉の一酒造では、いくつかの蔵を博物館や直売所として公開活用している。今回は引き続き現場の被災調査を進めるとともに、専務の佐藤さんからお話を伺った。

到着して真っ先に確認したのは、目の前の通りに面する「通り蔵」の大扉だった。震災後、片方の大扉を支える軸部が破損し、扉が外れそうになっていたため修理を相談したそうなのだが、修理費用との兼ね合いで壊すことにしたそうだ。余震で扉が倒壊し、お客様や従業員に危険がおよぶことを懸念して、人命第一であると考え早くに取り外したのである。

その後、レストラン「せきのいち」に移動すると、佐藤さんのご好意で豪華な食事が振る舞われ、その様子に皆驚きながらも喜んで食しつつお話を伺う。

震災後、全国から建築家や学生、様々な団体の方々が訪れ、励ましの言葉をかけてくださるそうだ。しかし、まだまだ震災前の客足とはいかず、以前のようなにぎわいには程遠いという。

東北大学大学院 空間文化史学研究室の呼びかけで、亀裂や壁の崩落が見られた箇所の修復をするために、神戸をはじめ全国からボランティアの皆さんがかけつけ、工事を行ってくれたことに大変感謝しておられた。佐藤さんの「登録文化財を修復するのに補助は出ないから実費で直すとなるとなかなか大変。だからこそ、自力で復興していくために、米文化を活かした製品開発をして加工・販売をしています」という話が印象的だった。そして、その活動を後押しするため、様々なメディアが報道してくださっているということも。

いろんな方が手を差し延べてくれる環境は、「世嬉の一酒造」が魅力あふれる企業であると同時に、佐藤専務のお人柄の良さにもあるのかなと感じた。そして、この危機的状況を乗り越えていただくために、私たちにできることを精一杯していきたいと強く思った。

佐藤綾美(東北大学大学院 修士課程在籍)