東海道に分布する「おしゃもじ様」「おしゃもっつぁん」
おしゃもじ様信仰と東海道
東海道に分布する「おしゃもじさま」「おしゃもっつぁん」
江戸末期は 伊勢参り(お蔭参り、ええじゃないか)が流行した時期であり、また、それと比較するとマイナーであるが、「おしゃもじ」信仰が盛り上がった時期でもある。東海道沿いには「おしゃもじ」「おしゃもっつぁん」と呼ばれる神様がいくつも残っている。
「おしゃもじ」の本来のルーツはそれぞれに独特で、石神や社宮司が主のようではあるが、隠れキリシタンの伝説を纏うものまである。ルーツは様々だが、江戸時代に流行した「流行り神」としての東海道の「おしゃもじ」信仰は、 疫病避けの神との関連を強く感じ、諏訪を源流とするミシャグジの流れとは、少々異なる感触がある。
もちろん、違和感があるとはいっても、注意しなければならないのは、「おしゃもじ」の流行は江戸末期くらいまでしか遡れない、さほど古くないかも知れない点である。ミシャグジは縄文まで遡る可能性があり、古層の研究なのか、せいぜい江戸時代後期の話なのか、で視点が変わる点には注意が必要である。ここでは「そもそもミシャグジだから」で済ませないようにする、ということだけ気をつけることにする。
藤枝市内の「おしゃもっつぁん」 (2022/12/20)
掛川市内の「おしゃもじ様」 (2023/5/3)
かつて品川駅高輪口前にあった高山稲荷神社境内の石燈籠(おしゃもじさま)。現在は駅前から移動した。
もともとは高輪の台地の上にあった(つまり元来は東海道沿いにあったわけではない)江戸名所図会に石神社として掲載されていた石神社を高山稲荷に合祀したものとされている。
港区教育委員会の説明文では、もとは切支丹(キリシタン)灯籠だったとする説を紹介している。
江戸名所図会(1836頃)
石神社の挿絵には「縁遠き婦人、当社に詣で良縁を祈れば、必験ありという。報賽には社地に何に限らず樹木を栽ると習俗とせり。相伝う。石剣を祭るという」とある。
横浜市鶴見区(旧・生麦村)の御社母子稲荷神社
御社母子稲荷神社は、生麦事件発生現場にほど近い、旧東海道からは、京浜急行生麦駅に向かって少し歩いた場所にある
悪疫を封じ込めるための横浜市指定無形民俗文化財の奇祭「蛇も蚊も」(「じゃもかも」と読む)がおこなわれる原地区神明社、本宮地区稲荷神社も、近くにある
横浜市西区浅間町(旧・芝生村)にある洪福寺。1970年以前の横浜生まれは、「洪福寺前」は横浜市電のターミナル駅名として馴染みが深い。「洪福寺前行き」の市電をよく見かけたものだ。いまでは「洪福寺松原安売り商店街」に その名前が使われている。
洪福寺境内にひっそりと祀られている社宮司。かつては百日ぜきの子供の軽癒を祈ったおしゃもじがたわわになって捧げられていたという。
近くには「社宮司公園」という名前の公園がある。
藤沢市本町四丁目にある社宮司神社
藤沢市羽鳥にある「おしゃれ地蔵」明らかに地蔵尊ではなく道祖神だが、なぜ「おしゃれじぞう」という名前なのだろうか?
藤沢市教育委員会による「おしゃれ地蔵」の説明掲示板。
藤枝宿にある佐護神社は地元では「おしゃもっつぁん」と呼ばれている。
藤枝市内にはいくつかの「おしゃもっつぁん」がある。ここ佐護神社は旧東海道藤枝宿にある。
藤枝市のおしゃもっつぁんは今井野菊氏の「ミシャグジ」の研究リストには掲載されていない。(ついでに余計なことを言えば、新潟のサクガミも、リストにない)Wikipediaなどの紹介ではミシャグジの中でも「おしゃもじ」が珍しい事例のように書かれているが、旧東海道沿いでは、「『ミ』シャ『グ』ジ」よりも「『オ』シャ『モ』ジ」のほうが遥かに優勢である。
掛川市城西にある社宮寺。「おしゃもじ」と書かれた”しゃもじ”が現在も奉納されているのがわかる。
鎖錠されていて中には近づけません。
「神道大辞典」(第二巻、昭和14年、平凡社)には、遠州中泉町(現在の静岡県、JR磐田駅付近)の「オシャモジ様」について、造酒との関係があるか? と書かれている。
浜松 伊場の賀茂神社。賀茂真淵ゆかりの神社であるが、”針口神”が合祀されている。伽藍神か合祀されたものだろう。
「おしゃもじ」から連想されるものに、鹿児島の田の神がある。東京都内にも田の神があるが、古来からのものではなく、鹿児島からきたものなのかも知れない。写真は池袋駅の北にある水天宮の田の神。(東海道とは関係ありません)
鹿児島県日置市 湯之元温泉にある田の神。やばい側が表を向いているので裏から撮影。右手の飯勺は笠の上に乗せており、左手には椀をもっている。1739年の製作銘記があり、「田之神」と明記されている。(東海道とはまったく関係ありません)
引用文献
『神道大辞典』平凡社(1939,1941,1943)
『日本原初考 古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』ほか2冊、古部族研究会(編)、人間社(2017.9)
『おしゃもっつぁん:平塚市上吉沢台の民俗』平塚市博物館(1998.3)
2023/1/4 - 2024/4/17 眞田則明