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@世田谷/24年3月講演 応用物理学会 量子エレクトロニクス研究会50周年記念シンポジウム
カッコ内は、講演中に突発的に喋って分かりにくくなったものをカッコで括ったり、意味を後で補ったものです。
理化学研究所の田渕です。量子エレクトロニクス研究会の幹事をさせていただいおります。量子コンピュータと聞くと、ちょっと量エレ研からは遠い感じかもしれませんが、研究会の広い心によって末席に加えていただいております。今日量子エレクトロニクス研究会とはあんまり関係ないかもしれませんが、私達がやってる量子コンピュータお話をしたいなと思います。
昨年はですね、どこかの記事が言うには量子コンピュータ稼働元年と呼ばれるように、国産機が三つ立ち上がりました。一つは理研の叡という量子コンピュータで、もう一つは富士通さんが10月ぐらいに量子コンピュータを立ち上げてます。三つ目は年末に阪大の方で量子コンピュータを立ち上げて、三つのですね国産呼ばれる私達が基本概念を設計して作ったという量子コンピュータが立ち上がってるというのですごく盛り上がりを見せております。
そんな中で、今日私が喋りたいというか何が言いたいかっていうのは、私達は、特に私が、なぜ量子コンピュータ作るのかっていうことを、最後のテーマとしてお話をしたいと思っております。
量子コンピュータは 普通のコンピュータと違う大きな難しさがあります。それはデジタル素子と違いすごく集積化が難しいです。素子がアナログであるからっていうところがあって、そういうところを簡単に説明します。そして、私達がどうやって1量子ビットから大きな系を作ってきたかという話、あと量子コンピュータ研究することって、実はちょっと量子エレクトロニクスの研究から離れてしまうという話を少しして、最後は国産機の真の意義は何だっていうお話をしたいなと思います。
あんまり皆さんデジタルロジックの話を知らないかもしれませんが、よくですね、例えば、システムデザインですとか、コンピュータアーキテクチャの本の1ページ目に書いてあるところに、三つのシステム設計の要素が必要だと言われております。その三つは、レギュラリティ(正規性)、素子が均一であることなのですが、と言っても原子やイオンが均一であるとはそういう話ではなくて、基本的にはデジタル素子であるっていうことですね。もう一つはモジュラリティ(モジュール性)。これは、モジュールが何か一つ一つまとまっていけばいいという話ではなく、モジュール間にきちんとIO(入出力)がデファイン(定義)されてることが大事。最後はハイエラーキ(階層性)ですね。このモジュール性をうまく使ってシステムを階層的に構築する、これが非常に大事な概念であると。
残念ながらですね、量子コンピュータ全部欠落してます。それは残念ながら量子コンピュータ素子そのものはアナログであって、素子がどうしてもばらついてしまうと。で、閾(しきい)値が無いんですね。閾値が無いってのは致命的で、それがですねIO間の接続をすごく難しくすると。普通の論理回路はですね、きちんとしきい値回路が入って、(入出力間の雑音に影響されることなく)接続すればセルごとに動くんですけれど、私達はアナログ論理回路を、気合と根性で(接続して)集積しなきゃいけない。これが一つ集積性の難しさなっています。もちろんモジュール性も無いため階層性もないと。このため量子コンピュータは非常に難しいことになってます。
このような概念で、今の情報処理の素子をずらっと並べてみたいんですけれど、一つはですね縦軸にデジタルかアナログかをとります。デジタルかアナログかというのは論理の強さを意味していて、強い論理弱い論理と情報(集積回路の教科書だったかも)の言葉で言うんです。横軸はですねステートマシン(状態遷移機械)を組めるか順序回路できるか、コンビネーショナルロジック(組み合わせ論理回路)だけか。この軸で見てみると、半導体は素晴らしいですね、デジタルであって、ステートマシンが組める。ラッチが組める、自己保持回路が作れるという素晴らしい性質を持っている。他には超高速ロジックで有名な単一磁束量子回路なんかもありますし、NTTさんの光トランジスタ、今日納富先生の話で出てきました。これちょっと論理の強さがわからなかったんで縦軸はちょっと曖昧なんですが、そういうロジックもある。
アナログの一番代表例は計算尺ですね。組み合わせ論理回路…横にスライドするだけでかつアナログなんで目盛りを気合と根性で見れば、そこそこ精度が出ると。他にはですね、位相の干渉を使ってのゲート。これは論理が弱いですね。アナログの論理ゲートになります。この仲間にアニーリングマシンがあったり、私達がやってるNISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum)と言われる近未来というか最近の世代の量子コンピュータがあったりします。(アナログ)なのでこの最近の世代の量子コンピュータはどうしても集積性が難しいんです。回路をカスケード(縦続接続)することができないというのが一番のクリティカルなボトルネックになっていて、大きなものが作れないです。で、そんな中一つフレームワークがあって、量子誤り訂正っていう符号組むことで、アナログからデジタルに変換することできる。誤り訂正符号の中でも二つあって、アナログをよりアナログの精度を高めていくような符号と、アナログを本質的にデジタルするっていう二つの符号の種類があるんです。Googleが狙ってたりするのはこういうデジタルの方で、そういうことを使うとうまくデジタル回路に変換できる。これがスケーラビリティを確保する一つの作戦ですね。
私達が研究をどんなふうに進めてきたかというと、2014年から2量子ビットゲートをポチポチやりながら、学生と2人で実験をやってました。東大中村(泰信)研でですね。この頃は2量子ビットゲットができた、わ~よかったという、いわゆる量子エレクトロニクスのような量子情報ぽい研究をやってるんです。が、ここで満足してるわけじゃなくて、ここから大体ですね、2022年、だいたい6年間ぐらいかけて、このゲートが集積系の上でなんで(どうやったら)動くのかっていう研究をずっとやってました。この(プロセス)トモグラフィをやって、フィデリティ(忠実度)がいくらでしたってので終わりじゃなくて、これをいかに集積系の上で動かすのかってのが非常に難しい。ゲート設計なんですけど、そのゲート設計部分をきちんとやってきた。それはたくさんの量子ビットの形を考えたりですとか、例えばこういう何かチップの上に量子ビットができたのを縦向きに置くのか横向きに置くのかとか、そういうことだけで、本当に細かなクロストークやスプリアス(不要輻射/遷移)やいろんなものが変わってきて、また本当にささいなことなんですけどその些細なことを詰めないと集積化は難しい。そういうのを6年ぐらいかけてやってました。
それから中村先生がファンディング(JST ERATO巨視的量子機械プロジェクト)をいただいて、2016年からずっともう開発ラッシュで私、ずっと5年間ぐらいこういうガントチャートを書いて、これを作るのはこれ作るんだってずっとやってたんですけれど、こういうふうな開発ラッシュをずっと2019年ぐらいまで続けて、あのコロナ(禍)になる前には、もうほとんどシステムは揃ってみんなリモートで実験できるようになってました。
2016年から22年まで稠密集積化をどういうことをやってたかというと、やはりもう2016年の時点でスケールしないものは作っても意味がないので、大体1000ビットぐらいまで動くものを作ろうと最初から意気込んでました。中村泰信先生は、シンプルものは美しいとよく言うんですけれど。美しさっていうのに、すごい私たちが縛られていて、美しいがゆえにいろんなことを犠牲にしなきゃいけないと。私達ももっとアドホック(場当たり的に)にやればもっと良い成果がいっぱい出るような研究もできるんですけど、それも全部縛ってしまって、美しさに特化しました。私が美しい一つの例だと思ってるのは、最初この右上の1量子ビットから始めて、4量子ビットから始まって、16量子ビット、64量子ビットってこういうふうに拡張できる美しさが私達にはある。これができてるのはうちだけなんです。なかなか他の人たちのアドホックに拡張するんでなかなか難しいところですけど、私達はこれができるようにするためにものすごい努力をしてきたっていうのが、私達の研究です。
いろんなゲート設計をやって、この辺までうまくいきそうだっていうので、やっと2022年、設計から5年ぐらい経って、(エラー率が)原理限界というか設計限界に到達しました。1人はですね今アイ・ビー・エムにいる東大の学生さんがすごく頑張ってゲートの忠実度追い込んでくれて、もう1人は理化学研究所にいる研究員の方が頑張って追い込んで、誤り率を攻めてくれました。これがいわゆる設計限界で、次の世代は、設計を変えないと良くならないと。そういうのがあって、小規模な量子誤り検出の実験なんかもやらせてもらいました。
量子コンピュータを研究するってことなんですけど、残念ながら量子エレクトロニクス研究会のような研究には実はならなくて、何でかというとシステム化の研究ってカッティングエッジ(最先端)の技術が必ず調和しないんですね。どっかで何かおかしなことが起きるんで、この技術を枯らすっていう努力をどっかでやる必要がある。コンポーネント(要素技術)やってる方も必ず技術を枯らすまで系を調べ上げてくれないとシステムには使えないんです。さらに私達は何か(=使えそうな)いろんな技術を探すんですけど、既存の技術だと突破口が開かないんで、新しい基礎研究をまだまだやってほしい。面白いことを考えてほしい、というのが私達からの量子エレクトロニクス研究へのリクエストになります。
私達がやってることは、よく分かっている技術を使わせて頂いて、よくわからない集積法をずっと研究する。これが、私達がやってることです。どうしてもですね、要素技術ってなんかもうトゲがたくさんあって、なかなか中に収まってくれないんですね。ここを磨いて磨いて削って削って、中にはめ込むってのが、私達がやっていることです。ずっと注意してるのは旧知の概念を大事にするってことと、新しい価値観を丁寧に受け入れることっていうのを大事にしてます。開発側の人に言うのは、できない理由がない限り開発は諦めさせないっていうのが私の立場のそれですね。
そういう中で、私達がどういうことを考えているかっていうと、集積法は簡単にシステムとして拡張できるように、タイル化集積法っていうのをずっとやってます。考え方は簡単で、グローバルなもの(大きなシステム)を考えるんですけど、設計はローカルだけでいいよって。一度基礎構造を作った後は、並べるだけっていう風にしたかった。というか今はそうなってます。なんでこういうので(スライド省略)ちゃんとバンド計算なんか入れたりすると、システム、全系の特徴が簡単に抽出できる。これは昔からの知恵をうまく使わせてもらった例なります。
そして研究だけじゃダメで、開発もかなり頑張っておりまして。どうしても入力のIOの部分も同時にタイル集積しなきゃいけない。っていうので、かなり気合を入れてこういう(スライド省略)信号を導波する構造を開発しました。これが今の(拡張性の)リミッティングファクターですけど、大体1000量子ビットぐらいまでだったらこういうので何とかなるでしょうと。開発項目としては恐ろしいクロストーク(抑制)を実現したり、いろんなフィルターを中に組み込んだりして今の量子ビットの系を作っていると。
三つ目の項目としてこういう量子物理系を記述するパラメータってすごく複雑です。恐ろしい数のパラメータがたくさん出てきて、これをどうまとめるかっていうのを考えます。これが、私達が実験結果から得て、何を学んで何がおかしいのかって全部それをグラフにした状況です。これ一部なんですけれど。こういうの(グラフ)がどこのトレードオフがどんなふうになっていて、新しいものを入れたときに、何がどうおかしくするかっていうのを解析に役立っていると。これがずっとやってきて、私たちが煮詰めた一つのアウトプットになります。
最後に、最後ではないですね。4番目の要素として、分野とネットワークがどんどん広がりつつあると。一番上に超伝導量子コンピュータって書かせていただいたんですけれど、量子コンピュータに量子ビットが要るでしょう。量子ゲートも要るんですけど、量子ゲートを制御するのは実はソフトウェアです。ソフトウェアの較正技術があってクラウド技術があって。今、この量子エレクトロニクスの実験を誰がやってるかというと(紫部分)、実は本職のソフトウェアさんです。あの、私は実験してないですね。ソフトの人が、いわゆる実験というのを、やってくれている。量子コンピュータ実験が今どうなってるかっていうと(スライド省略)、大体こんな感じになってるんですけれど、Webブラウザ上で今日はどのビットの実験しようかなっていうと、ピピッてそこの実験がダーッと流れていく。これを実験と呼ぶのか私はわからないんですけど、これがいわゆる量子エレクトロニクスらしい実験の量子コンピュータ版だと思ってください。
量子エレクトロニクスって無いものを自分できちんと作って、自分で作って自分で実験する。霜田先生のエレクトロニックスの基礎にはそういう話がいっぱいあるんですけれど、誰が作るかっていうと、私達ではなくて実はここ(赤色部分)の本職の人が来てくれている。これは電気電子関係の方です。量子コンピュータを作りながら、量子コンピュータのネタで信学会(電子情報通信学会などIEEE系の)学会に発表する。といういい分野のオーバーラップできてるってのがすごく面白いところですね。
最後に国産量子コンピュータの真の意義なんですけれど、私達は去年3つ量子コンピュータが立ち上がって、よかったよかったっていう気分になってるんですけど、量子コンピュータ作ってしまったものにあんまりもう興味はなくて、量子コンピュータそのものがえらい(ありがたい)わけではない。あるいは、ありがたがっても仕方がない。その仕様書はどうかと。これ結構欲しい人はいっぱいいるみたいなんですけれど、仕様書というのも大して意味はないんですね。仕様書そのものはもうできあがった技術であって、私達がこれを作る限り同じエラーレートでしかモノができない。これは面白くない。
私が量子コンピュータを一番面白いなと思うのは、量子コンピュータの作り方を作れることなんですよ。仕様書を作る人になれる。でもそれは実は量子コンピュータを作らないとわからないっていうので、量子コンピュータを作りながら、量子コンピュータの作り方を作るっていうのが、一番私が面白い、面白いなと思ってることです。
10年やってきて分かったことがあるんですけど、量子コンピュータはめちゃめちゃ難しいことが分かりました。これは当たり前なんですけど、今までは、量子コンピュータがどれぐらい難しかった分かんなかったんですよ。これ分かるってどういうことかっていうと、ちゃんと課題を整理して、未来を予測できるんですね。10年先とか、20年先ぐらい何が必要でどんな課題があってが、全部分かっちゃうんです。
これができるとまた面白くて、今度はいろんな技術を探索することができて、上の方の技術(スライド右上)は、皆さん量子エレクトロニクス研究会でやってることですけど、私光電融合とか結構前からずっと注目してるんですけど、どんなものが20年後に差し込めるかな、15年ぐらいで差し込めるかなっていうのを、ずっと実は探索してるんですね。こういう新しい技術が、どんなふうに組み込まれたら面白いっていうのを、見て(考えている)とすごく面白いです。
理研には技術の相談がたくさん来ます。基板メーカーさんですとかファイバーメーカーさんがたくさん来るんです。そういう方に、いやこれは、5年後にもう終わっちゃうよとか、これは10年後から20年後じゃないといけないよっていう、ちゃんと技術の相談に答えられるのは、一つ(量子コンピュータを)やっててよかったと思うんです。
こういうとこですかね。海外から物を買ってくるだけだと、こういうとこ(視点や目線)が落ちるんで、もったいないなと思います。
最後に今日のあの皆さんの飲み会のときにネタにしていただきたいんですけれども、これちょっと余談です。皆さんMRJのお話ご存知かと思います。ちょっと開発をやめちゃったという話なんですけれど、2019年、その辞めちゃう前にですね、MRJは絶対成功しないって記事が出てるんです。そのときは何くそと思って見てたんですけれど、そこに抜き出した一部がすごい的を射ています。巨大なシステムを設計することと、部分、コンポーネントを積み上げることは別問題ってことが書いていて、おっしゃる通り、おっしゃる通りと(思いました)。
量子技術はどうなんだろう(=どう発展するんだろう)っていう、というのはちょっとまだ考えあぐねているところで、まだ(実用まで)30年ぐらい余裕があるんですけど。ユーザーであるべきなのか、(それとも)多分日本が一番強いのはサプライヤーなんですね。要素技術を完成させて海外に売り込むってのが、多分一番強いとこなんですけど、でもそれってYouTuberになって小銭稼ぎをしろって言われてるようなもので、ちょっとシャクじゃないですか。やっぱりプラットフォーマーでありたいんですけれど、(MRJの型式証明の話みたいに大規模なシステムで戦えるところまで)なかなかそこまで行けるかどうかわからない。こういうのを皆さんちょっと議論していただけると嬉しいなと思います。
はい、私発表終わります。たくさんのプロジェクトで量子コンピュータの研究させて頂いて支えて頂いて本当に感謝いたします。はい。今日はありがとうございます。
質疑> 10年後の量子コンピュータってどんな感じなってると思われます?
10年後は全く変わると思います。全く多分今一番大きく変わるのは配線様式だと思います。配線ところを何とかしないといけないってのは、この研究やってる人もみんなわかってるので、配線もしくは省線ですか、配線か省線っていうところに、多分すごく力が入るのが次の10年だと思います。もう量子の研究じゃないんですよ、残念ながら。配線もしくはアーキテクチャの研究なんで、これからちょっと分野の中心が本当にしっかりシフトしてしまうかもしれないのは、ちょっと何か量子エレクトロニクス研究会のあれとしては寂しい感じはしますけど、多分研究の中心はちょっとずつシフトすると思います。