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@目黒区/26年3月講演 応用物理学会 T04 誤り耐性量子計算の最前線と展望 シンポジウム
こんにちは、理化学研究所の田渕です。本来はプロジェクトマネージャーの産総研・NECの山本剛先生が講演されるところなんですが、現場の指揮官の私が今日は代理ということで送られました。このような機会をいただきありがとうございます。
私の自己紹介からさせていただくと、私はもともと高専出身でして、専攻が情報でした。情報と電気電子から電子デバイスを専攻し、最後就職してから物理をしばらくやっていました。 2016年ぐらいをから量子コンピューター、超伝導量子コンピューターを作るという機会をいただきまして、ずっとそこから九年間、十年間ぐらい量子コンピューターを研究開発しています。2023年には理研の叡と呼ばれる超伝導量子コンピューターを開発しまして、設計と開発をやっておりました。やってましたっていうのは過去形でして、今もうやっておらず、叡の開発は他のメンバーが続けているんですが、私はもっと先進的ことがやりたいというので、今日お話しする内容に専念しています。
2025年にちょうど私たちの分野からノーベル物理学賞が出ております。超伝導回路は電気回路ですので電流 I や電圧 Vの世界なんですけれど、その I とか V とかの世界でも超伝導のリングを作ったりですとか、電荷を一つに閉じ込めた上で、超低温でそれを観測すると、量子化と言われる離散的な物理量が得られるというテーマで、この分野の有名なお三方がノーベル物理学賞を受賞しております。
単純なただの超伝導回路なんですけれど、この回路を使って量子コンピューター構成したものが、超伝導の量子コンピューターです。詳しくは説明しませんが、基本的には超伝導体による電気回路です。基本的に素子として使えるのはキャパシタ(編注:コンデンサです)とコイル(編注:インダクタ)とジョセフソン接合と呼ばれる、超伝導体の間にあんまり電気が流れにくいと言われる絶縁体が挟まれたような、もしくは常伝導金属っていう普通の金属(編注:損失は大きいですが)が挟まれても良いのですが、超伝導が流れにくいような材料が薄く挟まったような接合を用いて電気回路を構成します。
電気回路は 0.02 ケルビン(編注:-273℃)と呼ばれるとても冷たい環境で動きます。このような冷たい環境に置かれて初めて量子性を持つ量子ビットとして機能します。超伝導の量子コンピューターには直接関係しないのですが、面白いこととして、超伝導の量子回路は光量子コンピューターですとか、量子ネットワークなどの実現にも必要不可欠となります。例えば超伝導の光検出器は高速かつ高感度の検出器として使われています。例えば超伝導転移端センサー(TES)や、超伝導単一光子検出器(SSPD)など。SSPDはデジタル回路をも横に構成して信号処理もできたりします。このような超伝導回路も他の量子情報処理実験に使われているということも宣伝しておきます。
こちらが今の超伝導量子コンピューターです。これは阪大にあるものでして、基本的には理研で作ったやつのコピー 3号機です。見ていただくと、冷凍機に馴染みがない方は何かわからないかもしれませんが、大きな冷凍機がフレームからぶら下げられていて、量子ビットのチップがあり、多数の配線があります。制御装置から信号が送出され、量子ビットのチップに照射され、量子ビットのチップから跳ね返ってきた(編注:反射してきた) 信号が制御装置観測装置に戻るという簡単な構成になっています。しかし私は、唯一というか、たくさん気に入らないところがあります。この配線がすごく多くなってしまったりですとか、量子ビットのチップ 2 センチ角程度なのにチップの周囲回路がゴテゴテだとか、多様な部品が必要となったりという点は気に入らないなと思っています。
海外の状況を見ておくと、現在のプロセッサは Google、 IBM を筆頭に多くのプロセッサが開発されております。 IBM は 1000 量子ビットを作ったか作ってないとかって言われてたりしています [Link]。中国も、この論文では Zuchongzhi って呼ばれる66量子ビットプロセッサを紹介していますが、もっと大きいやつがあるはずです。富士通さん 256 量子コンピューターを開発したり、大きなプロセッサを作るというところは割と比較的容易い、、たやすくはないのですが、力技でやることができる、と。
今日のテーマの、誤り耐性、、、あ、まずその前に現実を見ておきましょう。量子コンピュータがどれだけ役に立つのかっていうマップをIBMの研究者が試算してくれてます。Tour de Gross [Link] という論文の図1です。少し分かりやすくするために色付けを私がやりました。ざっとこれを見ると、実用的な量子コンピュータっていうのはこのあたり(右上)にあるんだよと彼らは申しております。50万量子ビット以上で、量子的な、その量子力学的に意味を持つゲート数(今日先の講演にて小芦先生がTゲートとおっしゃってましたけど)がだいたい 1兆回から 1京回の間となっています。精度もさることながら、横軸のきちんと使える量子ビット数もたくさん必要なんだよということも分かります。
面白いことに、そこから 2桁ぐらい下のところに科学者の遊び場が用意されていまして、この辺でちょっとちょっとだけ科学技術的なの研究ができたりする、と。今日最後に講演される御手洗さんは、多分このグラフ全体を左下に押しやってくれると信じているんですが、大局的にはお役立ちマップはこんな感じになっています。
右上には入らないものはだいたい試作か教育用というので、ほとんどあまり役には立たないんです。しかし、量子コンピュータの勉強をしたり、システムの勉強するっていう観点だとすごく有用かなと思います。現時点ではどこにいるかというと、残念ながらこの枠外となっています。まあまあ、まだまだちょっと量子コンピュータ役に立つのは時間かかりそうだなという気がしています。
このシンポジウムのお題目にも上がっている誤り耐性の量子コンピュータは、簡単に言うと、情報をちゃんとエラーに耐えられるように符号化して計算するというものです。情報通信などですと、音声データとして「あいうえお」と喋ると、一回符号化して電気信号に変換して、電気信号を PCB 基板とかだと壊れやすいので、スクランブルしたりデスクランブル、弾性バッファいろいろなプロトコルバッファが入って、受け取った後はもう一回復号するんですね。このように通常の通信では、かなり符号化、復号、符号化、復号化という過程が見えないところで入っています。
少し面白いのは、量子コンピューターはそういうことはせずに、一回符号化するとずっと符号のまま計算してるんです。途中で検査を入れて、「あ、何かおかしいとこがあるぞ」と思うと、エラーだと判断して訂正したり、そのイベントを捨ててしまったりということをやると。捨てるのはまずいですね。このような仕組みは、大昔に同じことがあったんです。
例えば真空管っていうのはすごい壊れやすかったらしいです。私はアナログでちょっとしか使ったことないんで分からないのですが、すごい切れやすかった。そういう切れやすい真空管を、二つの真空管を一素子として束ねてしまって、真空管が本当にランプが切れて信号が出ないのか、計算の結果信号が出ないのか、ちゃんと判別するようにする符号化が、例えば1940年代にあった。また、富士通さんはファコム (編注: FACOM128 [Link])で使ってたと思うんですけど、昔の BCD (編注: Binary Coded Decimal) の符号の一種で、そろばんみたいなバイクリナリ(編注: 二五進法)という必ずエラーがちゃんと検出されるような符号の上に情報が符号化され、その符号の上で計算をやっていました。
なぜ今はこのような符号が使われなのかって言うと、半導体プロセス(編注: 素子信頼度)が進化しているためです。製造プロセスやは品質の良さが、このような符号化を不要とした事実は、私たちが学べることかなと。現在このような符号上の計算がどこに使われているかというと、例えばプライバシーを保護したまま計算、医療データですとか、金融データを見ないまま、見ないけど統計処理がやりたいなどです。こういうのは準同型暗号と言いますが、そういう暗号上で計算を行うことができます。量子コンピューターもそれと同じなんです。符号化したまま、中身は見ずに計算だけやるっていうようなスキームをとります(編注: なぜなら見たら状態が壊れるため)。
先ほどからオーバーヘッドの話がちらちらと出てますが、どれぐらいのターゲット精度のアプリケーションを動かすか、どのようなハードウェア仮定を置くかなどによりいろいろ変わるんですけれど、ざっくりオーバーヘッドは数百から千倍だと思ってください。量子コンピューターが使うべきレジスタがあって、それを 1ビットだけ取り出すと、使える 1量子ビットは、約1,000個の「生の」量子ビットのビットで符号化されます。1,000量子ビットや2,000量子ビットにより符号化されるイメージです。
(編注: ここでよくある勘違いを紹介しておきます。)一般的に言われている一つ目の要求1はたくさんの量子ビットが必要であることです。二つ目の要求 は、小さいエラー率を実現しておかないと符号化自体が成立しないことです。今日先ほど小芦先生からご紹介頂きましたが、しきい値定理に関連します。
今日は応用物理学会というデバイスの学会です。量子コンピュータのハードウェアはたくさんの量子ビットを集めて低いエラー率を目指せばいいのかと。ただそれだけなのかというと、実はそうではないというのが今日の話の始まりです。端的に言うと、誤り耐性量子コンピューターは今の量子コンピューターを作り方とは全く違います。今の量子コンピューターはただ量子ビットを集めてきてマイクロ波により制御すれば適当に動くのですが、全くそれとは違う次元の設計や計算による検討をしなければなりません。最も辛いと感じるのは、 100万分率、つまりppm オーダーの精度要求があちらこちらに存在するためです。
例えば、再配線層など狭ピッチの配線がああると、そのような信号伝搬路では必ずクロストークが起きます。グリッジが起きたり、いろんなことが起きるんですけれど、従来のトランジスタの良い性質は、しきい値素子であることです。少しぐらい周囲配線から電圧変動があったとしても問題なく論理回路が動きます(編注:もちろん設計は重要)。量子コンピューターは違うんです。PCB 基板やインターポーザ基板、量子ビットを狭ピッチで並べるとどうしてもクロストークが起きます。量子コンピューターは本質的にはアナログ計算ですので、少しでもエラーが起きるとすぐ周りにエラーが散らばってしまいます。
誤り訂正がすごく便利なのは、この真ん中の素子にエラーが起きても確率p (編注: << しきい値) までだったら許してあげよう(編注: 誤りを容認することができる) というコンセプトで素子設計ができます。例えばこのエラーを0.3%に抑えてしまえば大丈夫。しかし他のクロストークはどうかというと、同時に生じる他のエラーはp 2乗、3つ 同時に生じるエラーはpのキュービック(編注: 3乗)、 周囲4つ全部で起きてしまうエラーはpの4乗以下に抑えておかないとならない。このため、1量子ビット独立エラーを0.3 % に抑えようとすると、この2つの同時エラーはだいたい 50 ppm 程度しか容認されなくなる。これはデシベル換算の信号で -40とか -50 デシベル、 -60 dB だと安全圏となる。その厳しい仕様が、狭ピッチの配線、インターポーザを含む再配線層、量子ビットの制御装置・配線全てに対して要求されるので、なかなかですね、難しい。私たちはこれをまともに実装すると厳しいため、トポロジカル符号という符号を採用しています。、トポロジカル符号だとこの 50 ppm の制約が、なんとか頑張れば 300 ppm ぐらいに緩和されて動きます(編注: その代わり符号化に必要な量子ビット数が増えます)。このトポロジカル符号では、符号に空間局所性に対するエラーの耐性が少しはあるので、ありがたく使っています。
他にもまだまだいろいろ問題があり、例えばダイナミックレンジです。1本の配線に周波数多重化して波形を詰め込みたいと思うんですけれど、D/A変換機の垂直分解能が有限なので、たくさん詰め込むわけにはいかないです。とか、空間的または時間的に量子ビットそのものが揺らいでしまう。ですとか、環境放射線があるですとか、装置そのものが揺らいでしまうですとか、素子がばらつくとか、こういう多くのケースに対して対処、一つ一つ個別に対処していかないといけないのが誤り耐性量子コンピュータの辛くも面白いところです。
私たちが進めている研究の中で面白いなと思ったことがあります。例えば3次元実装をやりたい、この図のような構成だと回路の実効的なフットプリント面積も広がるし、いろんな配線も通し放題だし、すごい良いことがたくさんあるように考えられるんです。しかしやってみると大変だなというのも分かりまして。例えばこの基板接合って基板を複数枚重ねるんですけど、乗っけてやればよしという感じに簡単そうに見えるじゃないですか。しかし回路のパラメータ、基板-基板間間隙が 100ナノメートルずれると 875 ppm ぐらい回路パラメータが偏移するんです。これがどの程度かというと、 0.01度傾くと、基板の真ん中と端っこは例えば 6, 000 ppm、±0.6 % もずれてしまうんです。これをどのように制御するのか、または制御しないのでロバストにするのかという、実装の問題が差し迫っている感じです。まともにやると動かない、だからこういう箇所をどのようにうまく動かすのかっていうのを考えながら研究するのが面白いです。
もう一つ大事な事として、デバイスのスケーリング則をきちんと考えないとならない。そもそも半導体素子、集積回路そもそもが大前提として素子がスケールすることを担保しなければならない。スケールの意味なんですけれど、量子ビット数が多いっていう意味ではないです。例えば何かAっていうことをすると品質が2倍になる、 A かけるA(もしくはAプラスA)をすると4倍になる。何かをすると倍々で良くなるっていうものが全ての条件、細部にわたる全体ひっくるめて機能するっていうことがすごく大事です。1974年のIBMの研究者の Dennard は、半導体でよくこれ見つけたなと感心します。これは Dennard 則と呼ばれています。
残念ながら、量子コンピュータには一つもありません。これさえあればスケールするという法則は皆無です。スケーリング則には、量子ビット数以外にも素子品質も重要ですし、安定性も大事です。いろんな観点でこのスケーリング則が成り立つことが大事です。私は、システムを構成するために 4つの"-y"、つまり素子が均一であるという正規性、モジュールで組めること、階層性を持つこと、そして機能は空間的な局所性を元に、スケーリング則をどうやって得ようかといつも考えています。
私たちの前期のムーンショットのプロジェクトは、多岐に渡る重要な技術開発を進めています。「山本プロジェクトは人が多く、研究内容も細かく多すぎるため、全体的に何を進めているのか良く分からない」と言われることもしばしばです。ただですね、全体のチョークポイントが何か分からないうちに、こういう細々とした研究を多岐にわたってやるのががスケーリング則を探求するためには大事なわけで、これら全ては大事な研究要素になっています。体制図よりも飲み会をやってる写真の方が私たちらしいので紹介しておきます。このメンバーで普段研究を進めています。
その中に2つ紹介したい技術があります。一つはデジタルアシストのアナログ技術です。既存の半導体もそうですけど、どんな半導体の工程において、 12インチのウエハに化学的な処理を行って全部の素子が均一になるってことほとんど無いです。そのような不均一な状況においてなんとか素子を動かそうとすると、 USB やPCI Express ですとか 5G の通信など、使う前にキャリブレータションするんです。基板とかの通信とかには必ずキャリベーションを入れて、それをデータとして保持しておくと。DRAM もそうですね。通信ならアダプティブイコライザーっていうやつを入れます。無線通信も同様にマイクロ波のアンプ、歪まないわけがない。なのでこれを線形化するためのプリディストーターを使う前に用意しておくというような、こういう現代的なアナログ技術というのを私たちも採用したいと考えています。(編注:ジョセフソン接合を含む)超伝導回路のループ(編注:閉回路)はすごく面白く、1周すると 1個だけ量子が入るという量子の性質を使って、デジタルの多値メモリとなります。この多値メモリを制御する回路を作って実証したというのがこれまでの基礎研究です。この研究は神戸大・横浜国大とNEC/産総研の共同研究です。
他には、先進的なデジタル技術を配線の階層性にうまく使いたい。量子ビットの構成として一本の配線が一本の量子ビットにつながるって構成の在り方として間違っていると思うんです。例えば、一本の配線が一つのトランジスタを制御してるような状況って普通はあり得ないと考えています。これをなんとか解決すべく、図左上のような配線の階層性をうまく作りたいと考えています。例えば初期のIC 8008 は 3500 トランジスタをたった 18ピンで制御してるんです。
このような配線の階層性ができないと量子コンピューターのスケーリング則は難しいろうなと思います。どこにその階層性を、つまり制御の階層性を作ろうかと考えると、符号もつ並進対称性をうまく使うしかないと。トポロジカル符号の一種である表面符号ってすごく均質的なんです。均質的という性質を最大限に使うとすると、メモリ操作はほぼ均一な操作ですし、不均一なデータアクセスが生じたところだけスイッチマトリクスみたいなものを作ればよいかな、と考えてスイッチマトリクスの基礎技術を検証していました。(編注:今まで4ケルビンの環境で動かしていた素子を、十数ミリケルビンの環境で動作させるため)新しい製造プロセスを立ち上げたりして、やっと動いたところです。
スケーリング則なき今は、どこに向かえば上手くいくのかはっきりとした評価指標のない戦国時代です。
千里の道も一歩からというので、このプロジェクトではいろんな観点で研究を進めています(編注: これが分散投資だと言われる批判の的ですが、これを戦略無きばらまきでないこと理解してもらいたいです。)左下では品質の改善を研究しています。また他にも冷凍機を一緒になって作っています。やはり違う視点を持っていろいろ会話するというのはすごく大事であり、いろんな会話をしながらどんな冷凍機を作ればいいか、スケールするという意味は何かとは考えならが、スケーラブルな冷凍機を開発しています。理研の私たちは先ほどご紹介した通り 3次元積層の素子構造を研究しています。スケーリング則次第ではありますが、量子コンピューターのプロセッサチップに微細化の限界が生じるのであればウエハを大面積化する必要があるとの懸念により、前期プロジェクトではニコンと産総研において、液浸露光によるジョセフソン接合形成・超伝導回路の製造プロセスの研究を行っています。
スケーリング則に基づく制御・配線様式になどに依存しますが、常温と低温をつなぐ配線がもう金属ケーブルだと限界が生じる場合を見据えて、信号多重度の大きな光ファイバーを用いる制御方法を、大阪大学では進めています。光ファイバーによる量子ビット光制御の基礎実証を行いました。国立天文台ではその電波天文技術を十分に生かし、集積化可能な発振機や混合器や増幅器の研究を進めています。
極低温で動くデジタル回路やCMOS回路、ナノブリッジと呼ばれる低温リコンフィギュラブル回路のデジタル論理回路の低温の動作検証を、名古屋大、NEC、慶応、東大、産総研、ナノブリッジセミコンダクターと一緒に行っています。情報通信研究機構や東京理科大では、量子ビットをダウンサイズする材料を含めた秘密兵器みたいな素子を検証していたり、東北大学では量子ビットの動作点をと変えることで、全体設計をやりなおしてもっと作りやすい量子コンピュータを可能にする(編注:材料開発を含めた)素子開発を行っています。そもそも計算機として量子コンピューターの論理回路をそもそもどう作るのか、きちんとモジュール化されていて、階層性が成り立って、機能局所性をきちんと持つようなコンピューターアーキテクチャなんだという研究を九州大学が行っています。
このような感じで前期の5年は技術開発と基礎検証研究を行っていました。それぞれの技術成熟度 (TRL) を6として、(編注:ラボスケールのTRL4だとまだ近未来ですが)並べていくとだいたい五年から十年スケールだと思います。これ(編注:ポインタを指しながら東北大の研究)などもとても面白いんのですが、真面目に使おうとする、膨大な実証実験を何年も続けないとモノにはならないだろうな考えながら、十五年(編注: 5年プロジェクトを三回)っていう、実用化年を設定させてもらいました。
後期のムーンショットではこのような基礎技術開発を続けていたいのですが、お上からですね、量子コンピューターを作れと言われました。近未来の丸の中に入る技術のなかで、できそうな技術をかき集めて量子コンピューター、動くものを作るというプロジェクト設計となっています。このため、光配線は早すぎるだろうですとか、300 mmウエハで作る必要もないな、ですとか、この辺は外してみたりですとか、集積化に取り込める技術をうまく取り込めて、量子コンピューターを作っていきます。
どんな量子コンピューターを作るのか、右側に提案書の一番最初の下書きを示しています。国研をベースに、国のプロジェクトで開発すると、やっぱりフルスクラッチ(編注: ゼロベースで) 量子コンピューターを作るチャンスがあるのは五年に一回 (編注: 10年に1回) だということを痛感しています。量子コンピューターは継続的に改善することができても、一旦以前の開発物を亡き者にして、新しいもの、次世代を作るってなかなか難しいことだなということに気づきました。それであれば、開発者みなが理解し面白い開発をしたい。以前のプロジェクトで失敗したな考えたのが、三人とか四人のコアの人たちだけで鍵となる部分を決めてしまったので、いろんな技術が分野としてコモディティ化されてなかったというのは残念だったんです。そのため、いろんな人に開発に関ってもらうことで、いろんな技術層の人々と意識共有ができるのは面白いと考えて、そのような面白い開発がしたい。今まで使ってた人も作る側にも回ってもらいたい。フルスクラッチで基本的に作りたいので、レガシーがあると新しいことできないので、そういうのを全部忘れたいと思ってます。またスケーリング則を探すという将来のヒントはいつも開発の中にあります。
左下の二つのピラミッドの右側のように、本当はいろんな要素技術をたくさん積んで、世界をぶっちぎるぐらい量子コンピュータを作りたかったのですが、今回は要素技術が確立しておらず (編注: 少なくともTRL4ぐらいまで実証される必要がある)、残念ながら歯抜け状態でして、これはもう積み上げられないというので、二つのピラミッドの左側のように現実ベースで今回世界のフロンティアに達するギリギリのとこぐらいで量子コンピューターを設計することにしました。(編注: 10年に一度の開発もタイミングが悪いとこうなる)。
最後に講演のオチなんですけど、 2030 年の見通しはどこかというと、下の方の矢印を描いておきましたが、こんな感じだと思います(編注:少しだけ量子な量子ゲート数が増えるかもしれない、矢印の高さが少し控えめすぎたか)。残念ながら、飛躍的な改善はしないということで、まだまだここからです。(編注:NISQやハイブリッド, UtilityScale Quantumは別の観点で右上へのリーチは早いと思いますが、コンザバティブな誤り耐性量子計算機として)この辺(左下周辺) までは来れるけど、5年後はまだその程度だろうと考えています。
まだまたスケーリング則の探求も大事ですし、研究分野も広げたいと思ってます (編注:喋りすぎて焦っている)。
そろそろ時間なんで(編注:喋りすぎて時間を超えていた)。はい、終わりにします。皆さんありがとうございました。
質疑:2030年でもお役立ちマップの枠外だと少し寂しいなと考える、 Google とか IBM ずいぶん強気ですよね。彼らは風呂敷を広げすぎたりなど課題はたくさんあるかと考えるか。
(田渕)I社に関しては科学技術に基づく良い戦略を取ったなという感じました。I社は考え方が私たちと違って、ユーザビリティをすごく大事にしてるんで、ユーザーさんに少しでも長く量子回路を使ってもらったりとか。しでも長く計算リソースを提供したい。それが例えば普通のコンピューターで解ける(編注:か解けないかギリギリの)問題だったりしても、(編注:マップの右下方向の面白い問題にいち早くリーチしたいなど)ことだと考えます。ビジネス目線の全く違う戦略でして、私たちとは量子コンピュータの構成が違ってくると思います。