第二言語習得、心理学、ネットワーク科学、分析手法など、自分が興味を持っている幅広いテーマに関する本の読書記録
Henseler, J. (2021). Composite-based structural equation modeling: Analyzing latent and emergent variables. The Guilford Press.
院ゼミでも少し話題になったcomposite-modelを含むSEMの理論的側面や分析手順などの概説書。
個人的に馴染みのあるSEMに関する用語についても理解が深めることができた。分析手法特有の用語があるとわかり,正しく結果を伝えるためにも正確に理解する必要があると感じた。また,emergent variableとlatent variableの使い分けでなく,それぞれの変数を組み合わせて使う分析手法があることも紹介されている。第二言語習得研究では,検証的因子分析が頻繁に用いられてきたように思うが,どの個人差要因をlatent veriableとして検討するかemergent variableとして検討するのか,引き続き考えてみたい。
最後に,本書は観測変数と因子(latent variableとemergent variableを含む)の関係を捉え直させてくれるものだった。ネットワークモデルとの比較を踏まえながら,引き続き勉強していきたい。
釘原直樹 (2013). 『人はなぜ集団になると怠けるのか—「社会的手抜き」の心理学』中公新書
1人で課題をこなすときに比べて,集団で作業する方がパフォーマンスが下がる場合がある。「社会的手抜き(social loafing)」と呼ばれるこの心理的現象について,本書では豊富な具体例とともに,理論的概説や対処法をまとめている。
興味深かったことは3点ある。1点目に,本人が無意識的でも社会手抜きが起きてしまうということである。「主観的な努力」と「実際のパフォーマンス」の相関が低いのは,無意識的な手抜きが影響している可能性がある。2点目に,他者に同調して起きてしまうということである。社会的手抜きをしている人がいる集団に入ってしまうと,それが伝染してしまう。そして,社会的手抜きが集団の中で起きてしまうと,集団を解体しない限り,その状況を改善するのは難しいようである。要するに,集団で作業をする場合,はじめが肝心なのだと思う。3点目に,社会的手抜きが起きるメカニズムの複雑さである。個人のパフォーマンスが集団のパフォーマンスにあまり影響しないときに社会的手抜きが起きるのは容易に想像がつく。一方,周りに有能な人が多くいて集団としての成果が評価される場合,「フリーライダー」のような人が出てくることも指摘している。何を評価対象とするかが重要そうだが,集団を構成する人の能力バランスを考えるのは複雑そうである。
また,本書のテーマである社会的手抜きとは逆に,「社会的促進」や「社会的補償」という現象が起きることも説明している。この知見は,グループワークが多く採用される英語教育で生かすことができそうである。