構造保存型数値解法の開発

構造保存型数値解法とは

何らかの数学的な構造を離散化後も保存するような数値解法である。

 我々を取り巻く様々な現象は時間と空間に対して連続的に捉えられる場合が多い。それをコンピュータ上でシミュレート(模擬)するためには、連続的に表される量をコンピュータで扱うことのできる離散的な量で近似する必要がある。その際に、現象を支配する重要な数学的構造が保存されるように離散近似することによって、常に定性的に正しい数値シミュレーションを行うことができるようになると期待することができる。

非圧縮流れに対する構造保存型数値解法の開発

非圧縮粘性流れの力学は、退化した歪対称のPoisson括弧(あるいは歪対称の南部括弧)と正定値対称の散逸括弧によって記述することができる。その構造を外微分形式の構造とともに保存するように離散化を行うことにより、運動エネルギー(速度ベクトルの自乗量)、ヘリシティ(速度ベクトルと渦度ベクトルの内積)およびエンストロフィー(渦度ベクトルの自乗量)の収支が理論的に記述されるものと同じ形になるようにすることができるとともに、流れ関数、速度および渦度の関係を正確に保つことが可能となる。特に非粘性三次元流れの場合には、運動エネルギーとヘリシティは保存し、エンストロフィーは渦伸張効果によって増加するとともに、速度場と渦度場の発散が正確に零となり、渦度が流れ関数の負のラプラシアンとして表される。


[1] Y. Suzuki (2017) "Bracket formulations and energy- and helicity-preserving numerical methods for the three-dimensional vorticity equation", Comput. Methods Appl. Mech. Engrg. 317, 174--225. https://doi.org/10.1016/j.cma.2016.12.012

[2] Y. Suzuki and M. Ohnawa (2016) "GENERIC formalism and discrete variational derivative method for the two-dimensional vorticity equation", J. Comput. Appl. Math. 296, 690--708. https://doi.org/10.1016/j.cam.2015.10.018

[3] 鈴木幸人, 越塚誠一 (2016) "三次元非圧縮流れに対する構造保存型数値解法について", 日本流体力学会年会2016.

[4] 鈴木幸人 (2016) "三次元非圧縮流れに対する構造保存型数値解法について", 東京大学越塚研究室セミナー, H28.4.6.

二相流れに対する構造保存型数値解法の開発

非圧縮二相流れは Navier-Stokes/Cahn-Hilliard 方程式によってモデル化することができる。この方程式が支配する力学も、非圧縮単相流れと同様に、退化した歪対称のPoisson括弧と正定値対称の散逸括弧によって記述することができる。その構造を外微分形式の構造とともに保存するように離散化を行うことにより、表面張力を伴う相界面がある場合でも運動エネルギー(速度ベクトルの自乗量)、ヘリシティ(速度ベクトルと渦度ベクトルの内積)およびエンストロフィー(渦度ベクトルの自乗量)の収支則を離散系に正しく引き継がせることができるとともに、流れ関数、速度および渦度の関係を正確に保つことが可能となる。

[1] Y. Suzuki (2018) "Bracket formulations and energy and helicity-preserving numerical methods for incompressible two-phase flows", J. Comput. Phys. 356, 64--97. https://doi.org/10.1016/j.jcp.2017.11.034

[2] 鈴木幸人, 越塚誠一 (2016) "非圧縮二相流れに対する構造保存型数値解法について", 第30回数値流体力学シンポジウム.

[3] 鈴木幸人 (2017) "流体力学の解析力学的および非平衡熱力学的定式化について", 東京大学越塚研究室セミナー, H29.12.15.

[4] 鈴木幸人 (2017) "流体力学における構造保存型数値解法について", 東京大学越塚研究室セミナー, H29.12.15.