リー環や量子群の表現論における結晶基底を研究しています。 量子群は、リー環 g の普遍包絡環の q-変形として定義される代数です。結晶基底は、ざっくり言ってしまえば、量子群の表現空間におけるq=0における基底と捉えられるもので、リー環や量子群の表現の構造を明らかにする上で、非常に強力な道具になります。結晶基底は、タブロー実現、パス模型実現、幾何的実現など、多くの組み合わせ論的な実現方法を持ち、これを用いることで、表現の構造を組み合わせ論的に調べることができるようになります。私が主に扱うのは、多面体実現と呼ばれるもので、結晶基底の元を、多角錐や多面体の整数点として実現します。以下、g = sl_3(C) の場合の、ヴァーマ加群と呼ばれる表現の結晶基底 B(∞) を多面体実現した例です:
ここに、 (0,0,0) は最高ウエイトベクトルと呼ばれるもので、このベクトルに柏原作用素と呼ばれる作用素 f_1, f_2を作用していくことで、B(∞)の全ての元が得られます。 この無限グラフに現れるベクトル (a_3,a_2,a_1) は、次のような「多角錐の整数点の集合」と一致します:
以下の問題は、多面体実現を考える上で、最も基本的な問題です:
"上の例のような、多面体実現を定める多角錐や多面体の具体形を求めよ"
この問題に関連した、次の1.~3.の課題について、取り組んでいます:
g がアファインリー環という無限次元リー環の場合に、多角錐・多面体の具体形を、ヤング壁、拡張ヤング図形といった、既存の組み合わせ論的対象を使って表示する。また、多角錐・多面体を定義する不等式を、単項式表示を使って表示し、不等式たちに表現論的な解釈を与える。
g が有限次元単純リー環の場合、多角錐は、ストリング錐と呼ばれる錐と一致する。幾何結晶の文脈で現れるBerenstein-Kazhdan decorationsという関数の具体形が求まると、多角錐の具体形も直ちに求まることが知られている。そこで、この関数の具体形を計算するアルゴリズムを構成する。
Berenstein-Kazhdan decorationsを一般化した、ダブルBruhatセル上のGross-Hacking-Keel-Kontsevich potentials について、その具体形を求めたい。この関数は、クラスター代数の文脈の中で現れるものである。2.のアルゴリズムを一般化することで、GHKK potentialの具体形を計算するアルゴリズムを構成する。