このページは過去に執筆したくれいに(暮日無音×屑星れいに)の概念を張り付けただけのページです
ちょっとした短編ストーリーとしてお読みください
「さ、帰ろっと」
大学の講義を終え、持ち物の確認をして帰路に着く、今日は4限までだったから小中高の学生たちとだいたい同じだ。
「う、やっぱり混んでるなぁ…」
駅のホームに着くと人でごった返していた。飛んで帰りたいところだがそんな訳にも行かない。
窮屈な電車に揺られ最寄り駅に着く。時間はもう夕方、空には少しづつ星々が浮かんできていた。
「星、見えるくらいまで待ってようかな。」
そんなことを呟きながら近くの公園に向かう。そこには懐かしい人影があった。その姿は夜空の星の光を受け、負けず劣らずの煌びやかさに満ちていた。
小学校の頃に、迷子になったわたしを導いてくれた一番星。
「れいにちゃん!」
咄嗟に呼びかける。静寂の中を流星のように声が響く。
「・・・」
れいにちゃんは反応こそしてくれるが、口を開いてくれなかった。相変わらずシャイなところは変わっていない。
初めて会った時を思い出す。フォルテと一緒に星を見に行った帰り、道がわからずにあたふたしているとフォルテともはぐれてしまった。
心細さから泣きそうになった時、彼女が手を引いてくれた。何も言わずに路地を走り抜けて気が付くと目の前にフォルテがいた。
「ありがとう!」
そう言ってわたしはお昼に買った金平糖を差し出した。そして夜空を眺めながら、れいにちゃんとわかれて帰路に着いた。
はっとして鞄の中をあさり糖分補給に持っていた金平糖を取り出す。小さくつぶつぶとした金平糖は星そのもののようだった。
一緒に食べよう?
いくつかの金平糖を渡し、一緒に空を眺める。
すっかり暗くなった夜空には、あの日見た景色と同じ光景が広がっていた。
今日は休み、レポートも完成しているし、また、久々にれいにちゃんに会いに行こう。
れいにちゃんはあの公園からの眺めが好きなのか、夜になるといつもあの場所にいるみたい。
とはいえまだお昼。今から行くのはさすがに早いだろう、お弁当を作っていこうかな。
そうと決まれば早速買い出し、近くのスーパーに向かう。レタス、チーズとふりかけ、そして金平糖を買って家に帰る。もう夕方だ、急がないと。
炊いておいたご飯をお弁当に詰めて、レタスとチーズを星型に切って並べる。ふりかけをラインを描くようにまぶして、空いたスペースに包みに入れた金平糖を添える。お弁当はこれで完成。
公園に向かう道中、流れ星が視界を横切る。空が私たちを見守ってくれているみたい。歩みも自然と天の川を渡る織姫のように軽くなる。公園につくと、作ってきたお弁当を2人で食べながら、また空を眺める。
その後ろ姿は、まるで連星のようだった。
斜陽が溶ける、高架線を走る列車。
窓を流れる景色が、過ぎ去っていく時間のよう。空に浮かぶ、まだはっきりと見えない星座。繋がりが絶え絶えにはっきりとしない。
隣の線路に併走する列車が現れる。
日に照らされオレンジに染まる車両の窓に青い影がかかっている。
れいにちゃんだ。
レポートで使うデータをとるためにしばらく公園に行っていなかった。久しぶりに足を踏み入れた時、れいにちゃんはそこにいなかった。星は雲よりも流れる速度は遅い。しかし、確実に見えなくなる時が来る。
隣を走る列車に揺られるれいにちゃん。
このままなら星屑のようにちりじりになってしまう。別れたらまた会うことは叶わないかもしれない。星に願いをかける。そんな思いで途中駅で下車する。退勤ラッシュの時間帯、普段降りない駅、迷子にならないように道標を追いかける。
あの時みたいに、手を伸ばそう。
星空へ
駅にほど近い、穴場のスイーツ屋。
特に混んでいるということもなく、店内の飲食スペースで、買ったケーキを並べる。
「・・・」
「・・・」
静かな店内で、ただ時間が流れる。
れいにちゃんと親交を深めようと、先輩に教えて貰って、一緒にクレープを食べたことがあるここに連れてきたはいいものの。会話の内容が浮かばない。
「えっとー、れいにちゃん、このケーキ食べてみる?」
適当に切り出してみた。
ラズベリーソースの海にホイップが浮かぶケーキ。
シンプルだけど甘すぎずメリハリがある。
「・・・」
れいにちゃんは口を開きこそしないがそっと頷いた。
ケーキを切り取って手渡す。
れいにちゃんは恥ずかしそうな、嬉しそうな、そんな表情を浮かべてケーキを口に運ぶ。
ひとくちを食べる。
…表情が驚きに変わった。
甘酸っぱいラズベリーの味、はっきり言って好みがわかれる。
合わなかったのかなと少し不安になるが、れいにちゃんは二口目を口に運ぶ。
ケーキを半分ほど食べた時、ふと気がつく。れいにちゃんの鼻の先にホイップが付いている。
本人は気づいていなかったのか拭いてあげると、また恥ずかしそうな顔をした。
会話の数は少ないけれど、確かに親交は深まった気がする。
完全に打ち解けるのはいつになるかわからない、幾星霜の時が流れてでも、私はれいにちゃんと一緒にいたい。
そんな思いを心に秘め、笑顔で微笑んだ。
高架橋とビルの間を縫うようにしてさす朧気な星明かり。宵の明星が儚く瞬いている。
大学の広場のベンチで本を読んでいたらうたた寝をしてしまったらしい。
この時間になると冷たい風が肌をなでて、体温が奪われていくはず。でも、身体は温もりを保っていた。
肩にかけられた1枚のタオル。星と星を紡いだような優しい布。自然と私の口角が上がる。
吸い込まれそうな透き通った青いタオルに、夕闇に溶けた髪が写る。
2色に染めあげられたような布地にも
宵の明星が浮かんでいるようだった。
部屋の掃除をして心機一転、そんな思いで隅々まで箒をかける。
集めた埃が集まって大きな塊になる。放置していたら身体に悪い、定期的な掃除は大切だ。テレビの上を拭き取って、そのままの流れで少し一休み。
映し出されたのはサテライトから届いた中継の映像だ。どうやら今日のよる。ほうき星が最接近するらしい。
「星を見るといったらあそこだよね。」
南東から街を望む山の上の展望台。
結構高いこともあって、行くのは大変だけど街明かりの影響が少ない。
午後7時、夕食を食べ終え支度をして家を出る。ひしめくマンションの間を抜け川にかかる橋の上を歩く。水面に映った夜空の星々が、川の流れで結合して星座になるように感じる。懐かしい景色を噛み締めながら展望台に向かう足を進める。
階段を登りきった先に広がる満点の星空。星々の間を貫くほうき星。
夜空を斬り裂いて照らし、
流れ去っていく一際明るいその星は、
どこか彼女に似ている気がした。
ぽつ…ぽつ…
路面に水の滴る音が響く。慌ててれいにちゃんの手を引き、走ってコンビニに駆け込む。今日も星を見に行こうと思っていたけれど突然の雨だ。ビニール傘を買って店を後にする。敷地内に見慣れない看板がある。どうやら新しくプラネタリウムが開館したらしい。
せっかくだし2人で行ってみることにした。
あいにくの天気だからか館内は空いていて、元の星空と同じように鑑賞することができそうだ。
ほとんど2人きりで、短いようで長い時間が流れる。確かに星空は透き通っている。でも、目の前にあるのは偽物の空。れいにちゃんが私の顔を見て首を傾げる。顔に出てしまっていたのかな。
「なんでもないよ。」
言えるはずがない。好きだなんて。嘘で誤魔化す本当の心。
この空と同じように、私も隠してるのかな。