Research
研究詳細(工事中、少しずつ更新します)
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エンテロウイルス (Enterovirus)
エンテロウイルスは、ゲノムサイズが約7,500 bの一本鎖+鎖RNAウイルスで、ゲノムは線状で一本のみです(単節型といいます)。ヒトへの感染は主に小児で、手足口病、ヘルパンギーナといった発疹を起こす比較的症状の軽い病態がメインですが、まれに無菌性髄膜炎、脳炎・脳症、急性弛緩性麻痺といった深刻な病態を起こすこともあります。RNA依存性RNAポリメラーゼによって自身のゲノムを複製しますが、校正(proofreading)機能を持たないため、遺伝子変異がとても多いウイルスです。
さて、こうした遺伝子変異の多いエンテロウイルスですが、実験室で培養するときには面白い違いが出ます。それは、ある遺伝子型ではある培養細胞でしか増えず、違う遺伝子型では違う培養細胞でしか増えない、ということです。これは単純なゲノム比較では説明がつかない現象で、近しい遺伝子型でも違う培養細胞を使う必要があったり、遠い遺伝子型でも同じ培養細胞が使えたりします。こうした違いが何に起因するのか、を中心に研究しています。これは、ウイルスの進化適応を知ることにつながると考えています。
アデノウイルス (Adenovirus)
アデノウイルスは、ゲノムサイズが約35,000 bpの二本鎖DNAウイルスで、ゲノムは単節型です。ヒトへの感染は主に小児で、咽頭結膜熱(いわゆるプール熱)、流行性角結膜炎といった眼や喉に炎症を起こす比較的症状の軽い病態がメインです。まれに、肺炎、肝炎、腸炎といった病態を起こすこともあり、人体のあらゆる場所に感染することが知られています。DNAウイルスであり遺伝子変異は比較的ゆるやかであるものの、アデノウイルスの特徴として、遺伝子組換え(異なる遺伝子型で遺伝子同士が入れ替わる現象)が一定程度起こることが知られています。
私はこれまでに、様々な臨床検体からアデノウイルスの全ゲノム配列を取得し、その比較をしてきました。その中で新たな組換え型を見つけました。こうした組換えがどのような機序で起こるのかは未解明の部分が多くあり、これを研究対象としています。
大腸菌 (Escherichia coli )
大腸菌はもっとも一般的に知られる細菌だと思います。その名の通り、ヒトの大腸に共生していますが、一部は病原性を持ちます。O157などの食中毒大腸菌が有名です。また、分子生物学では、有用なツールとしても使用されています。プラスミドを改変して入れて増やすといった遺伝子工学、タンパク質を発現させて目的のタンパク質を大量に得るといったタンパク質工学などに広く使われます。
大腸菌は様々なところへ存在します。例えば、動物ではウシ・ブタなどの家畜大型動物、イヌ・ネコなどの愛玩動物、ウサギ・マウスなどの小型動物、というようにその適応宿主は様々です。また、土壌や河川などの環境、植物にもいます。こうした多様な環境に適応するためか、大腸菌のゲノムは非常に多種多様です。私の大腸菌研究は、下痢を起こす大腸菌(下痢原性大腸菌)の機序探索から始まりましたが、その中でユニークな表現型を見つけました。
炎症応答を抑制する大腸菌
下痢原性大腸菌はヒトの腸内で炎症を起こし、下痢を引き起こすことで環境中に排出され、また環境中からヒトへ帰ってくる、という生活環での生存戦略を取っていると考えられます。こうした考えから、ヒト宿主細胞に対して炎症応答を引き起こす大腸菌を研究してきました。しかし、炎症応答を起こさない菌株群があることが分かり、これは炎症を起こさないのではなく、積極的に炎症を抑制することを発見しました。下痢誘発の生存戦略を反対に捉えると、環境に排出されず宿主内で省エネに生きるために、腸内で積極的に共生する大腸菌がいてもおかしくないと考え始めました。こうした炎症抑制性の大腸菌は、炎症性腸疾患などのヒト腸内で炎症を引き起こす疾患への治療として使用できる可能性があります。炎症抑制の機序は現在のところ多くが不明ですので、これを研究しています。
線虫 (Caenorhabditis elegans )
線虫は体長1 mmほどの小さな虫です。モデル生物として様々な分野で利用されています。大腸菌を餌として生きています。実験室では非病原性大腸菌株を餌として使用しますが、その餌を病原性のある細菌に変えると、線虫に悪い影響が出ます。また、反対にヒトに有用と言われる細菌を食べさせると、線虫に良い効果があることが分かっています。すべての細菌で当てはまるわけではありませんが、細菌の病原性・有用性評価に線虫を用いることで、宿主に対する効果を評価できることが先人たちによって示されてきました。
線虫は下等な生物ですが、遺伝子の70%以上はヒトとホモログ(機能が類似していること)であることが示されています。私はまだ線虫を扱い始めたばかりですが、病原菌・有用菌を給餌した際の線虫の遺伝子発現クラスタリングをすることで、これらの宿主への機能メカニズム探索を目指しています。
その他、中台枝里子教授の研究にも従事しています。大腸菌株の遺伝子ノックアウトや、ラベルした細菌を線虫に給餌してイメージングする、などで貢献しています。
・遺伝子関係:PCR、クローニング、大腸菌遺伝子ノックアウトなど
・タンパク質関係:SDS-PAGE、WBなど
・免疫関係:免疫染色、フローサイトメトリーなど
・細胞培養関係:株化細胞、プライマリー細胞
・マウス飼育:TG, KO, KIなどの維持
・ウイルス関係:培養、プラークアッセイ、TCID50など
・線虫飼育:練習中!
・バイオインフォマティクス:ゲノム解析、RNA-Seq解析など
アデノウイルスのゲノム疫学と脳症事例 【神戸市健康科学研究所(兵庫県立こども病院との共同研究)】
アデノウイルス(AdV)の全ゲノム解析方法を確立し、病原体サーベイランスから神戸市の流行遺伝子型を報告した。
またAdV-14型による小児の脳症事例を報告した。AdV-14は市中感染でも非常に稀な遺伝子型であり、さらにAdVの脳症事例は稀である。過去に報告されたAdV-14とほとんど遺伝子変異が起こっていないことを全ゲノム解析により明らかにした。
Tanimoto Y, st al. 2025 BMC Res Notes; Mizuno S, et al. 2025 Emerg Infect Dis
感染性胃腸炎の原因としてのサポウイルスとアストロウイルス 【神戸市健康科学研究所】
小児感染性胃腸炎患者検体から、サポウイルス・アストロウイルスが検出されることを示し、これらのウイルスが小児下痢を引き起こす重要な病原体であることを示した。
Hanafusa T, et al. 2023 Jpn J Infect Dis
下水中のSARS-CoV-2検出 【神戸市健康科学研究所】
下水はその排出地域を反映した物質が流れ込む。病原体も例外ではなく、その地域に蔓延している感染症をモニタリングすることが期待されている。神戸市内の下水から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNA定量を行い、それが地域内の患者数と有意に相関することを示した。
Tanimoto Y, et al. 2022 Front Microbiol
SARS-CoV-2の検査法比較 【神戸市健康科学研究所】
新型コロナウイルスの検査法(RT-PCR、抗原定量検査、LAMP)を比較し、それぞれの長所・短所を示した。RT-PCRは高感度であること、抗原定量検査は簡便だが少し感度が劣ること、LAMPはRNAの粗抽出と精製で感度が大きく異なること、などを明らかにした。
Tanimoto Y, et al. 2021 Jpn J Infect Dis
APC/T相互作用 【大阪大学微生物病研究所ワクチン動態プロジェクト(青枝大貴先生)】
T細胞応答が起こる際、抗原提示細胞(APC)からの抗原提示がT細胞に対して行われ、APCとT細胞のコンプレックスができる(APC/T)。APCは抗原タンパク質由来のペプチド(CD8に対しては9-11 mer、CD4に対しては12-18 mer、エピトープと呼ぶ)を提示し、T細胞はT細胞レセプター(TCR)を用いてその情報を受け取る。APC/Tを捕まえることができれば、抗原内のエピトープとTCR情報を得ることができる。このことはワクチン開発や疾患治療に役立つと考えられる。我々はモデル抗原を用いてAPC/Tを採取、その情報を得ることに成功した。
Kuwabara S, Tanimoto Y, Okutani M, et al. 2021. PLoS ONE
CpGの抗腫瘍効果 【大阪大学微生物病研究所ワクチン動態プロジェクト(青枝大貴先生)】
CpGはTLR9のリガンドであり、自然免疫を活性化させることから、ワクチンアジュバントとしての応用が期待されている。CpGは多種多様のものが開発されており、大きくAタイプ、Bタイプ、Cタイプ、Pタイプがある。天然型により近いAタイプのCpGであるD35はpDCからIFN-αを多く産生させるが、天然型に近いことから生体内で分解されやすい。そのため、脂質等でCpGを覆うパーティクルを作ることで生体内で留まりやすく、さらにIFN-αを多く産生するものを作製した(D35LNP)。このIFN-αを多く産生する効果は腫瘍増殖抑制に応用できると考えられた。これを担癌マウスに投与したところ、腫瘍内への投与だけでなく、静脈内投与でも腫瘍増殖抑制効果を発揮した。この効果は、CD8に依存しており、腫瘍内の遺伝子プロファイルがTh1型へ転換していることを明らかにした。宿主の免疫に働きかけてT細胞を活性化する本アプローチは、抗PD-1抗体を用いたT細胞のブレーキを解除するアプローチとは違うため、腫瘍治療に対する新たな選択肢のひとつとなる可能性がある。
Munakata L, Tanimoto Y, Osa A, et al. 2019. J Control Release
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y-tanimoto (at) infront.kyoto-u.ac.jp