Research (Jp)

シミュレーション・観測データ統融合の数理

コンピュータシミュレーションと観測データを統合する統計数理学的な手法を追求しています。コンピュータ上に仮想的な地球や人工物を作り上げる数値シミュレーションは気象学や土木工学の分野では研究でも実務でも非常に多く用いられます。支配方程式さえあれば何でも計算でき、未来を予測することもできることがシミュレーションの強みですが、多くの場合現実を完璧に再現するシミュレーションは難しく、シミュレーション単体で高い精度を上げることは難しいです。一方で観測データは精度は高いものの、広大な地球システム全体を観測することは難しい上、観測単体から未来を予測することは難しいです。そのため両者を統合して相乗効果を引き出すことで実務にも耐える水災害予測の技術を探求しています。具体的にはデータ同化および不確実性定量化と呼ばれる統計数理手法の研究をしています。

特に陸域の水や生態系のダイナミクスを扱う陸域モデルに、人工衛星による観測データを統合するデータ同化・不確実性定量化研究を集中的に行ってきました。さらには大気と陸域の結合系のデータ同化、人々の避難行動や防災意識といった社会ダイナミクスを扱うモデルへのデータ同化研究も行っています。最近では機械学習を有効活用した新しい数理手法の開発も行っています。

生態水文情報学とその干ばつ監視技術への応用

干ばつは世界各国で甚大な人的・経済的被害をもたらしており、その監視と予測は喫緊の課題です。干ばつは降水量の減少による気象学的干ばつ、土壌水分の減少による農業的干ばつ、河川流量や地下水の減少による水文学的干ばつに一般的には分けられ、多様な時空間スケールをもって様々なセクターに影響を及ぼす複雑な災害です。多種多様なデータの統融合により、私たちは水不足だけでなく、干ばつによる陸域生態系への影響を直接解析することで、よりリアルな干ばつの描像(生態水文学的干ばつと呼んでいます)を得ることを目指し研究を続けています。また、アフリカの途上国等を中心に、前述したデータ同化の技術に基づく干ばつ監視・予測システムをリアルタイム運用する社会実装を進めています。

社会気象学の開拓とその水害対策への応用

激甚化する傾向のある水害から人々を守るためには、その正確な予測と、予測を利用した市民とのコミュニケーション能力の向上が不可欠です。非常に短い時間に急速に発達する積乱雲群がもたらす豪雨とそれがもたらす洪水・浸水は、数値天気予報において予測が困難な現象の一つです。これは現象の時空間スケールが小さいことおよび非線形力学に支配された現象であることが主な原因です。私たちは高頻度な衛星観測をはじめとした多様な観測データをフルに活用して、全球規模に適用可能な豪雨災害の予測手法を編み出すことを目指しています。またこの予測の不確実性を効率よく推定し、不確実性情報をうまく利用することで人々に適切な避難行動をとってもらうための方策も模索しています。シミュレーション・観測データ統融合の数理を基盤として、このような自然科学と社会科学の結合系を解く領域を「社会気象学」と名付け、激甚水害に対する社会の頑健性を高める基礎研究に注力しています。