地球表面の7割を占める海面付近で起こる現象が地球システムのなかで果たす多様な役割を明らかにすることを目指し、数値計算・力学理論・データ解析を活用した基礎的・応用的な研究に取り組んでいます。
特に、純粋な理論的な扱いが難しい風波(波浪)や海洋表層乱流について、数値的手法を通してその素過程を解明し、振る舞いを簡素なモデルで表現することで気候や海洋環境の予測可能性向上に繋げることを目指しています。
以下では、私が近年取り組んでいる研究プロジェクト(主要なもの)を簡単に紹介します。
海洋数値モデルが高精度・高解像度化し、沿岸海域の現業的な予測が可能になってきています。外洋や海洋中深層の力学は風による強制と熱・塩分に起因する密度差が規定しますが、岸や海面近くでは波浪の影響の寄与が相対的に増すと考えられます。波浪と海洋循環の相互作用には未知の部分も大きいため、素過程の解明・モデル化を通して海洋上層力学における波浪の役割を明らかにすることを目指しています。
特筆すべき過程として、水面波にともなる水輸送である「ストークスドリフト」と、それが誘起する海洋循環に関する研究を継続して行なっています。海洋混合層のなかではストークスドリフトが風成吹送流に作用して「ラングミュア循環」という特徴的な渦構造を形成し、表層を効率よく鉛直混合します。加えて、コリオリ力がストークスドリフトに作用することによって、沿岸海域に大規模な蛇行流を生み出すことを発見し、その影響評価を行なっています。
風が吹くと波が立つことは古代の人でさえ知っていましたが、実はそのメカニズムは現代に至っても十分わかっていません。波の発達機構を正しく理解することは、水面が風に対してどのように抵抗を及ぼしているかを理解することでもあり、ひいては大気・海洋システムにおける運動量・エネルギーの循環を理解することにつながります。水の上を吹く気流が乱流状態にあり、理論的な扱いを阻んでいるからというのが困難の一つの理由ですが、複雑な水面の上の乱流を高精度に直接数値計算するプログラムを開発・駆使してその謎に迫っています。