研究室について
卒業研究登録者に向けた、海洋・気象研究室 大気海洋相互作用分野(Air-sea interaction group)の研究室紹介です。
卒業研究登録者に向けた、海洋・気象研究室 大気海洋相互作用分野(Air-sea interaction group)の研究室紹介です。
海洋・大気環境は、1mm規模の乱流から10000km規模の全球大循環まで多彩なスケールの流れが相互作用して形成されています。当研究室では海洋物理学を基盤として、境界層で生じる数mm~数kmという比較的小規模な現象やそれらが広域に与える影響を主な興味対象として、研究を展開しています。
学生研究の方針として、少なくとも本研究室においては学生は教員の下請けとしては見ていません。そのため研究テーマの設定にあたっては、こちらから「特定のテーマをやってほしい」ということはあまり言わず、研究の計画・遂行にあたって個人の好奇心・創造性・思考力を発揮することを重視しています。とは言っても自己流・ノーヒントで始めて短期間に意味のある成果を出すのも難しいので、個人の趣向に合わせてある程度の方向性は提案し、ガイドします。主に応用的なテーマを設定することが多いです。以下に近年のテーマを列記します。
漂流物の水平輸送に対する波浪および表層乱流の影響の数値計算
漂流ブイデータと粒子追跡計算を用いた物質漂流の予測可能性評価
MYNN型乱流モデルを用いた風の短周期変動に対する海面水温低下の応答特性の評価
大振幅波と波上気流の直接数値計算
軽量波浪数値モデルUMWMの精度評価
以下では研究テーマの例としていくつかのトピックを紹介します。もちろん自分のアイデア・好みがあれば必ずしもこれらに縛られる必要はありません。
波浪の様々な特徴量のうち、波高の予測は沿岸や海上の安全のためにも重要で、第二次世界大戦以来長らく研究が続けられてきました。今日の波浪モデルは高精度化し、波高については実用的な予測精度があるといえるでしょう。
しかし、波浪の他の特徴量(風応力に関わる平衡領域のエネルギーレベル、物質輸送に関わるストークスドリフトなどの高次モーメント、うねり成分の波高...)を支配する過程が正しく表現・予測できているとは限りません。波浪・海洋予測技術の精緻化とともにこれらの再現精度の必要性が高まる中、その不確実性の評価やモデル精度の向上は需要が増しています。
海面下数十mは風や波の影響を受け、エクマン流やストークスドリフト、ラングミュア循環と呼ばれる多彩な流れが生じます。これらの流れは物質を輸送したり、海水を攪拌することで短期・長期の気候状態に様々に影響すると考えられています。
海洋数値シミュレーションや観測データなどを解析し、気候の形成や物質の輸送に至る流れの状態・メカニズムの解明、そして実用的な海洋モデルの精度向上を目指します。
海上風の分布は気候の形成から天気予報・海況予報・洋上風力発電の開発まで、さまざまな領域で極めて重要な情報です。海表面付近の風は海面の抵抗を受け上層よりも減速していますが、その抵抗の大きさには波浪の状態が影響していることが知られています。しかし、海面抵抗が波浪によってどう決まっているのか、その過程は十分わかっていません。
大気乱流の数値シミュレーションや観測データの解析を通して、風と波の相互作用の過程理解を深め、海上風の予測精度を向上させる研究を展開しようとしています。
上記の研究には、以下のようなスキルが必要です。
配属時点で、学部講義レベルの数学(微積分・線形代数・ベクトル解析・フーリエ解析)や英語の能力は十分身についていることを強く期待しています。
海洋学・気象学・流体力学の理解
扱う題材が海洋や大気なわけですから、その知識は不可欠です。海洋学では海洋現象を記述するにあたり多様なアプローチがありえますが、本研究室では特に力学や数理モデル、統計・データ科学に頼ることが多いです。そのため、基礎的な物理学・数学は十分使えることを期待します。
英語
最先端の研究の情報を得るため・ツールを扱うために、英語は不可欠です。場合によっては、英語でのコミュニケーション・作文も必要になるかもしれません。
コンピュータ・プログラミング
初心者の方が多いと思いますが、教員・先輩がサポートします。ただ時間をかけて講義はできないので、ある程度は自学自習してもらうことになります。
本ページに掲載されているプログラミング演習資料(https://yasushifujiwara.github.io/dataanalysistutorial/)も見てみてください。
データ解析・統計・データ科学
シミュレーションや観測からはたくさんのデータが出てきます。一目では全容を把握できないデータをどう処理し有用な知見を見出すか、奥の深い世界が待っています。
これらの多くは、現代社会において非常に強力なスキルだと思います。日々努力し、専門家として社会をリードする基礎能力を伸ばしてください。
研究室に配属された学生は、以下のような活動に参加してもらいます。
学生研究室に、自分用のデスクが与えられます。勉強したり、自分の研究のための作業をしたり、リソースとして有効活用してください。研究室活動に時間割等はありませんので、自分で計画を立ててペースを作っていく必要があります。
コアタイムは明確には設定しませんが、フルタイムで研究に取り組むのと同程度のワークロードを求めます。
メンバーが集まり、順番交代で研究の進捗を報告し、質疑や議論を行います。
海洋・気象研究室合同のゼミと個別のゼミを、それぞれ週1回ずつ行っています。
教員と個別に研究の打ち合わせを行います。
基本的にいつでもしゃべりに来てもらっていいのですが、最初はペースをつかむために定期的に打ち合わせすることになると思います。
ここまでの情報は卒業研究の「正式な活動」に関するもので、研究室選びにあたっては最も重要な要素です。
一方で、大学生活の締めくくりとして健康で有意義な時間を過ごすためには、研究室の環境や一緒に仕事する人たちといったソフト面も重要なファクターです。ぜひ気になった研究室をいろいろ訪問して、自分がそこに属したらどんな人たちと関わりどんな生活を送るのか、そして自分はどう成長できるのかを考えてみてください。
そのうえで、本研究室では特にこういう性質の人たちが楽しい時間を過ごせるのでは、という分析をお伝えします。もちろんこれらを完璧に満たしている必要はありませんし、私の少ない見識の予想外のことが起こるのはほぼ間違いないと思いますが、判断の参考にしてください。
海・波・風を科学的に突き詰めたい人
言わずもがな、研究対象に興味があることは必須です。これらはごく身近な自然現象で、直接目に見える部分も多いだけに、魅力的でとっつきやすい対象だと思います。ただしプロとして科学的にこれらの対象に取り組もうとすると、物理・数学の理解もある程度必要になってきます。
「面白い」というアンテナを持つ人
社会には「必要だから○○しないといけない」というモチベーションで動く物事がたくさんあります。お金をもらうのだから当然です。卒論・修論でも「必要だから仕方なく」という場面はある程度あるでしょうが、基本的には社会では得難い「面白いから・知りたいから」というモチベーションでテーマを選び物事を進められる機会です。逆に言えば外的強制がないので、自分の中にエンジンがないとつまらないかもしれません。ただ、同じ人のなかでも火が着くときと消えるときはあるので、焦りすぎなくても大丈夫です。
目の前の「役に立つ」にこだわりすぎない人
ここまで読んでくれた方は勘づいているかもしれませんが、私はもっぱら基礎系研究者の気質で、物理の法則に則って現象を理解することを大きなモチベーションとしています。皆さん自身が応用系のモチベーション(○○に役立つからこれを研究する)を持って研究を進めてもらうのは一向に構いませんが、時にはもどかしくても私の基礎的な視点に付き合うつもりはしておいてください。
自分で勉強する・試行錯誤するのが苦でない人
研究活動では未知の問題にどうアタックするべきか、助言を受けつつも自分で考え進めていくのですが、そのなかで必要な知識や技能は自分で見つけて勉強していくことになります。これこそ大学から社会に出るにあたって最も価値の出てくる技能・経験かもしれません。なかでも物理系の大気・海洋科学は、勉強が直接的に活きやすい分野であるように感じます。加えて私の研究指導のスタイル上、やることが決まっている段階のテーマを設定することはあまりなく、各人の試行錯誤や創意工夫が必要になります(これが研究のいちばんの醍醐味だと思います)。
ですので、学生には1から10まで指導教員の指示を仰ぐのではなく、自分で課題を設定して必要な知識を集め、手を動かすことを強く期待します。逆に、レールを敷いてもらいたい人には向いていないかもしれません。
以上の説明を読んで私たちと一緒に研究に取り組んでみたいと思った方は、ぜひ研究室訪問にお越しください。
訪問日程を調整するため、以下のアドレスにメールにて連絡をしてください。
fujiwara (アットマーク) port.kobe-u.ac.jp
急な連絡では対応できないので、順位によらず配属希望を考えている方は、7月4日(金)までに訪問日程調整の連絡をしてください。