Yamato Lab

東京工業大学 工学院 経営工学系 経営工学コース

研究分野

メカニズム・デザイン、実験経済学、ミクロ経済学、ゲーム理論

理論と実験を融合した制度設計

効率的で公平な資源配分の実現という目標を達成するために、どのような制度設計を行うか?

この難問に対して、ミクロ経済理論、ゲーム理論と実験経済学を融合させたアプローチでチャレンジしています。メカニズム・デザイン、実験経済学はノーベル経済学賞も授与され、今注目を集めている新分野です。

制度設計にあたって、重要なポイントは3つあります

1. 制度は強制できるものではなく、各個人の意思・自主性が尊重されなければならない

制度の各参加者の意思が尊重されるならば、行動は統制できません。そのため、各参加者がバラバラに自分の利益だけを追求している場合でも、結果として社会的に望ましい成果を生み出すことができるような仕組みを作る必要があります。

この「各個人のインセンティブと社会目標の整合性」の問題を考える際には、ミクロ経済学やゲーム理論が有用な分析手法となります。ミクロ経済学やゲーム理論では、各人が自分の利益を追求した結果は「均衡」と呼ばれます。理論的に良い制度では 、制度が均衡状態のとき、社会的に望ましい(公平で効率的な)状態でなければなりません。

2. 新しい制度を導入する際には、事前の実験が欠かせない

1940年、米国ワシントン州のタコマナローズ橋が落下しました。最先端の理論を用いて設計した橋でしたが、設計耐風速を大幅に下回る、たった秒速19mの風で共振を起こし崩壊してしまいました。正しく風洞実験がなされなかったことが原因だと考えられています。

制度設計にも同じことが起こりえます。理論的に優秀な制度でも、現場で実際にうまく機能するかどうかはわかりません。特に、規制緩和や自由化などを受けて新たな制度設計をする場合、過去のデータがないという状況 に直面します。

この時、あらかじめ、生身の人間(被験者)を集め、実験室にて様々な制度の性能を比較検証することが有効となります。実験室の中でこれから採用すべき制度の性能を確認することにより、設 計の失敗による巨額の損失を未然に防ぐことが可能になります。

3. 実験の結果を基に、新たに理論を作り直す

経済理論やゲーム理論では性能が良いとされた制度も、実験をやってみると理論通り機能しないことはしばしばあります。しかし、これを「理論の失敗」と片付けて終わってしまうのではなく、新たな理論を作るチャンスと考えます。

実際、実験結果のもっともらしい説明を考察し、それらを取り入れて新たな理論を構築しようという研究が生まれてきています。

経済合理性だけではなく、社会学・心理学・政治学・進化論・神経科学などの手法を導入し、実験結果を説明する新理論の構築が始まっており、いわば「実験研究を通じた社会科学の統合化」が起こっています。行動経済学、神経経済学、マーケットデザイン、制度設計工学などが、その一例です。

実験結果が生かされた具体的な制度の例

・医学研修生と病院のマッチング

医師臨床研修マッチング協議会

・電波オークション(電波周波数帯のラインセンスの割当制度)

2020年ノーベル経済学賞受賞:ポール・ミルグロム、ロバート・ウィルソン

・大気中の硫化物の排出許可証市場

・地球温暖化ガス排出量取引市場

航空機発着権の割当制度

・入札の談合防止制度

・電気の取引市場

など